手合わせ
夜の城は静かだった。
昼間の賑わいが嘘のように人の気配はほとんどなく、月の光が石の中庭を淡く照らしている。
その中央で、シオンは剣を振っていた。
風を切る。無駄のない動きで、足運びは静か。刃の軌跡だけが月明かりの中に鋭く描かれる。
「シオン」
剣先がヒュッと音を鳴らす。
数度、剣を振ったところで声が聞こえ、彼は動きを止めた。
振り向くと、中庭の入口はフィルが立っていた。足を動かして近付いてきた彼の腰には剣がぶら下がっている。
「フィルか」
「ここで何してるんだ?」
「暇だったんでな。素振りだ」
シオンは剣を鞘に収める。
「お前こそ、剣なんてぶら下げてどうした?」
「…ん、ああ。ちょっと思う所があってさ。これからは盾だけじゃなくて剣も使っていこうと思って」
腰に差している剣を見つめて問うと、フィルは眉尻を下げて頬を掻きながら言った。
「あ。そうだ。シオン」
「なんだ?」
「ちょうどいいから、少し、手合わせしないか?」
「何?」
「今の俺の剣の実力を見ておきたくてさ。シオン相手じゃ瞬殺だと思うけど、こういうのはひとりでやるより実際に誰かと戦ってみて確かめた方がいいだろ?」
フィルは言う。
シオンは再び彼の腰にある剣へ視線を向け、目を細めた。
「頼む!」
両手を合わせ、頭を下げる。
フィルとの手合わせは過去に何度か経験しているが、盾ではなく剣を使ってでの手合わせは初めてだった。
しばし考え、シオンは頷く。
「……わかった」
「! さんきゅー!シオン!」
その言葉を聞いたフィルは、顔をあげて表情を輝かせた。
そして、彼はシオンから離れて剣を抜く。
月明かりの下で、二人は向かい合った。
「やるからには本気だ。わかってるな」
「わかってる!いつも通りだよな!」
シオンも剣を抜いて、構える。
一瞬の静寂。
次の瞬間、フィルが踏み込んだ。
「はっ!」
鋭い一撃。
シオンはわずかに体を動かしただけでそれを受け流した。
金属の音が夜に響き、フィルはすぐに二撃目を繰り出す。
シオンは剣でそれを止める。
彼の動きには無駄がない。
まるで相手の動きをすべて読んでいるかのようだった。
「はっ!てい!」
「…………」
数度の攻防が続く。
やがて、シオンの剣がフィルの首元でぴたりと止まった。
「っ、」
二人の動きも止まり、静寂が戻る。
あと少し動けば、首筋にひとつの小さな傷が生まれる。
フィルは息を呑んだ。
「……参った」
剣を下ろす。
フィルが一歩引いたのを見て、シオンも剣を鞘に収めた。
「ふぅ。やっぱ強いな、シオンは」
フィルは、中庭の石段に腰を下ろす。
「踏み込みが甘い。無駄な振りも多すぎる。そこを改善すれば、なんとか形にはなるだろうな」
「……。はは、精進あるのみ…だな」
淡々と告げたシオンにフィルは眉尻を下げて、頬を掻きながら笑った。
夜風が静かに吹く。
すると、そこで声が聞こえた。
声の方に顔を向けると、そこにはサクヤとミリエラの姿。近付いてくる彼らを見て、フィルは立ち上がる。
「兄さん、ここにいたのか」
「サクヤに母さん?二人揃ってどうしたんだ?」
首を傾げて問うフィルに、ミリエラは柔らかな笑みを浮かべて口を開く。
「これから、貴方のためにパーティをしようと思って。迎えに来たの」
「パ、」
パーティ。その言葉を聞いて、フィルは目を丸くする。
シオンは邪魔にならないように、少し離れた場所で会話を聞いていた。
「…母さん。オレたち、明日ここを出ていくって言ったよね?」
「ええ。聞きましたよ、しっかりと。でも、私たちは貴方が帰ってくるこの日をずっと待ち焦がれていたんです。貴方が帰ってきたら、盛大にパーティを開いて迎えてやろうってひそかに計画していたんです。だから、明日貴方がここを出ていこうが何をしようが関係ありません」
「関係ないって…」
にこにこと笑う母の顔に、フィルは呆気に取られる。
そんな兄の様子にサクヤは口元を緩ませ、シオンの方に顔を向けた。
「…シオンさん、でしたよね。もしよろしかったら、貴方と貴方の仲間のみなさんもパーティにご出席ください。我々は、貴方たちも歓迎していますので」
「…………」
胸に手を置いて、サクヤは言う。
シオンは何も言わず、ただ黙って彼を言葉を聞いていた。




