ジェイクの昔馴染み
夕刻。
王都の通りは、賑わいが少し落ち着き始めていた。
城へ戻る途中、フィラーラはふと足を止める。
「あれ?」
前方をじっと見つめている彼女に、ルーンは隣で首を傾げた。
「どうしたの」
「あれ、ジェイクじゃない?」
指を差す。
指差した先を見ると、人混みの向こうを歩く男の姿があった。
青色の髪に大柄な体形。
確かにジェイクだ。
向かっている方向は、酒場が並ぶ通りだった。
「どこへ行くのかしら……」
ルーンが小さく呟く。
フィラーラはぱっと顔を輝かせた。
「追いかけよう!」
「え、あ…ちょっと待ちなさい」
止める間もなく、フィラーラは走り出す。
仕方なくルーンも後を追った。
ブルーテイルもぴょんと飛び上がり、二人の後を追う。
「あ、」
気付かれないように追っていくと、やがてジェイクは一軒の酒場の前で立ち止まった。
古びた木の扉の開けて中へ入っていく。
「お酒飲みに来たのかな?」
「まぁ、彼らしいわね」
フィラーラとルーンも少し遅れて中に入る。店の中は薄暗く、酒の匂いが漂っていた。
その匂いにルーンは眉をひそめて表情を歪ませる。
カウンターの向こうでは、白髪混じりの男がグラスを拭いていた。
扉が開く音に気付いて顔を向けると、彼はジェイクを見て、目を細める。
「……いらっしゃ、ん?」
近付くと、ジェイクは片手をあげて口を開いた。
「よぉ」
「お前、ジェイクか?久しぶりだな」
男はグラスを置く。
「しぶとく生きてたんだな。連絡が途絶えたから何かあったのかと思ったが、元気そうで何よりだ」
「はっ。そう簡単に死んでたまるかよ」
「ここへは何をしに?観光ってわけじゃねぇんだろ?」
「ちと野暮用でな。……んで、少し時間が出来たんで、そういやここに店開いたんだっけなぁって思い出して来てみた。……繁盛はしてねぇみたいだな」
「うるせぇ。俺の店はこれからなんだよ」
二人は軽く笑った。
その時、店主の視線がルーンたちに向く。
「連れか?」
「ん?」
ジェイクはちらりと後ろを見る。
いつの間にか、彼の背後にはルーンとフィラーラが立っていた。
「お前ら、何でここに…!?」
彼女たちの姿を見て、ジェイクは目を見開く。
「城に戻ろうとしたら、貴方がこの店に入っていくのを見つけたから追いかけてきたの」
「ジェイク、お酒飲むの?」
「へぇ。可愛らしいお嬢さんたちだ」
男は面白そうに眉を上げた。
「随分と若い連れだな」
「なんだその顔。こいつらはただの仲間だ」
「仲間。……はー。お前が仲間ねぇ」
グラスを棚に戻しながら言う。
「昔は一匹狼だったくせに、随分と成長したもんだ」
「昔?」
男の言葉にルーンは少しだけ首を傾げた。
「こいつはな、昔、ちょっとした問題児だったんだよ」
「おい」
ジェイクが眉をひそめるが、しかし男は気にせず続ける。
「探求者を始めて最初の頃なんかは傭兵やったり、裏の仕事ばかりやってたな」
「うら?」
フィラーラが首を傾げる。
男は肩を竦めた。
「まあ、ろくでもないことばっかりしてたんだよ」
「余計なこと言うな」
「いいじゃねえか」
ジェイクが低く言うと、男は楽しそうに笑った。
そして、ルーンたちを見る。
「ま、この話はお嬢さんたちにはつまんねぇかもな。それに、これ以上話すと殺されかねん」
そう言いながら、男は背後の棚から酒瓶をひとつ手に取り、蓋を開ける。透明な液体がグラスに注がれた。
それをジェイクに差し出し、口元を緩ませる。
「ほら。ここでしか飲めない超貴重な酒だ。お代は友人価格で安くしとくぜ。これ飲んで機嫌直せ」
「誰のせいで悪くなったと」
グラスを手に取り、ジェイクは舌打ちをしながら男を睨み付ける。
そんな彼の表情なんて気にせず、男はルーンたちにも飲み物を差し出した。グラスの中で炭酸がシュワシュワと音を立てる。
「お嬢さんたちには、俺特製のソーダサーバだ。こっちはタダでいいぜ」
「ありがとうございます」
「いただきます!」
ルーンがグラスを取り、フィラーラにひとつ渡す。
グラスに口を付ければ、口いっぱいにソーダの味とヒリヒリとした刺激が広がった。
はじめて飲む炭酸の味。
フィラーラは目を丸くして「おいしい!」と喜び、ルーンは目を見開いて口元を覆う。
ごくりと飲み込み、そして彼女も小さく「おいしい」と呟いた。
「はは。どうやら口に合ったみたいだな。よかったよかった!」
二人の表情を見て、男は笑う。
そのやり取りを見つめながら、ジェイクもルーンたちと同様にグラスに口を付けた。
「……うまっ」




