街散策
「ルーン!一緒に行こっ!」
「いいけど。…その前に着替えね」
フィラーラに連れられて、ルーンは彼女と共に城を出た。
王都の大通りは、朝から人で溢れている。
商人の呼び声。
荷車の軋む音。
焼きたての肉の匂いと、香辛料の香り。
さまざまな声と音が混ざり合い、街全体がざわめいていた。
「わぁ……!」
足を止め、フィラーラは目を輝かせた。
「すごい!人がいっぱい!」
あちこちに視線を向けながら、きょろきょろと歩く。
その横で、ルーンは小さく息を吐いた。
「はぐれるから走らないで」
「走ってないよ!」
そう言いながら、フィラーラの足取りは明らかに速い。
ルーンが少しだけ歩幅を広げて後ろをついていくと、彼女の肩に乗っていたブルーテイルが小さな青い体で空中を跳ねるように飛び、フィラーラの肩に着地した。
「きゅっ!」
ブルーテイルの方に顔を向けて、フィラーラは嬉しそうに笑う。
「ブルーテイルも一緒に探検しよ!」
「きゅう!」
ブルーテイルは元気よく鳴いた。
しばらくそのままの状態で歩いていき、何かに気付いてぴょんと移動する。
ブルーテイルが向かった先は近くの屋台だった。
串焼きの香ばしい匂いが漂っている。
「きゅう!」
ブルーテイルが身を乗り出す。
「ブルーテイル、落ちるわよ」
ルーンが冷静に言った。
フィラーラは屋台を見上げて目を輝かせる。
「ルーン、これ食べたい!」
「いいけど。私は食べないわよ」
「駄目!ルーンも食べるの!」
「………。仕方ないわね」
ルーンは少し呆れたように言いながらも、屋台の主人に声をかける。
串焼きを二本受け取り、フィラーラは嬉しそうにその一本を受け取った。かぷりとかぶりつく。
「おいしい!」
ブルーテイルも興味津々で串を覗き込んで、鼻をひくひくと動かした。
「あなたは食べられないわよ」
ルーンが言うと、ブルーテイルは少し残念そうに鳴いた。
――その時。
「きゅい?」
ブルーテイルが突然、何かに反応し、ぴょんと屋台から飛び降りた。
そして、そのまま走っていく。
「あ、待って!」
フィラーラが慌てて追いかけた。
ブルーテイルは人混みの間をすり抜けて進んでいく。目を離すとすぐに見失ってしまいそうだ。
「フィラーラ、待ちなさい!」
ルーンもすぐに後を追う。
市場の賑わいを抜け、人の流れをかき分ける。
気が付くと、そこはさっきまでとは違う場所だった。
人通りの少ない、静かな裏通り。
石造りの建物が並び、店もまばらだ。
「……あれ?」
フィラーラが周りを見回す。
ルーンも追い付き、同じく周りを見渡した。
「ここ、静かだね」
「ブルーテイル!」
「きゅう!」
声を頼りに、ルーンたちは走っていく。
少し走ると、その先にあった小さな家の前でブルーテイルがぴょんぴょん跳ねていた。
古い看板が揺れる、白と青の小さな家。
窓の中には、見たことのない道具がいくつも並んでいた。
「魔道具屋ね」
ルーンが呟く。
ブルーテイルは窓の近くで楽しそうに跳ねていた。
「きゅう!」
フィラーラはその様子を見て笑う。
「ブルーテイル、こういうの好きなのかな」
「そうかもしれないわね」
「きゅうっ」
扉のドアノブを見る。そこには"くろーず"と可愛らしい文字で書かれたプレートが掛けられていて、中には入れないみたいだった。
「残念。ちょっとだけ入ってみたかったのだけど」
「きゅう…」
ブルーテイルを抱き上げ、ルーンは肩を竦める。
フィラーラは、ふと空を見上げた。
「ルーン。王都、すごいね」
「?」
静かな声で言う。
「お店もいっぱいあって、人もいっぱい」
ルーンは、少しだけ周りを見渡す。
遠くから聞こえる市場のざわめきはおさまらず、それどころか先ほどよりも騒がしくなっているような気がした。
「……ええ」
小さく答える。
「確かに騒がしいけど」
「でも楽しい!」
フィラーラはにこっと笑った。
その笑顔を見て、ルーンはほんの少しだけ口元を緩める。
「……そうね」
そして言う。
「そろそろ戻りましょう」
「えー、もう?」
「迷ったら面倒だから」
「迷ってないよ」
「今まさに迷っているわ」
ルーンはそう言って歩き出す。
フィラーラは少し笑いながら、その後を追った。
ブルーテイルも楽しそうに二人の周りを跳ねながら、ついていく。
王都の賑やかな声が、再び近づいてきていた。




