最後のカラーは
扉を開けて中に入ると、金属が擦れる小さな音が聞こえた。
部屋の奥では、シオンが椅子に腰掛け、剣の手入れをしている。布で刃を丁寧に拭きながら、黙々と作業を続けていた。
ルーンたちが入ってきた気配に気付くと、彼は顔を上げ、手を止める。
「来たか」
ゆっくりと剣を鞘に収めながら、短く言った。
立ち上がり、ルーンたちの方へ歩いてくる。
「(何か言ってくれるかな)」
フィラーラは少し期待したように、シオンを見つめた。
青いドレスの裾を少しだけ整えながら待つ。
しかし、シオンは何も言わなかった。
しばらくして、ルーンが口を開く。
「用があるって聞いてきたのだけど」
「ああ」
シオンは頷くと、近くに置いてあった荷物袋を開いた。
中から取り出したのは一枚の地図。
「今後のことを聞きたい」
そう言って、それをルーンに渡した。
「……そうね」
受け取ってルーンは小さく呟き、近くのテーブルへ歩く。
地図を広げたその瞬間、胸元のブローチが小さく光り、ブルーテイルが姿を現した。
小さな体でふわりと飛び出し、地図の上にぴょんと降りる。
「きゅう!」
元気な鳴き声を上げ、飛び回る。
シオンもテーブルへ向かおうとした、その時。
「ちょい待て」
突然、肩をがしっと掴まれる。
肩を組むようにして、シオンの動きを止めたのはジェイクだった。
「……何だ」
シオンは眉をひそめてジェイクの方に顔を向ける。
ジェイクはにやりと笑った。
「お前、何とも思わないのか?」
「何の話だ」
「ルーンだよ。……あと、フィラーラもか」
ジェイクは顎で二人を指す。
そして、少し声を潜めて言った。
「お前、女どものあの格好見て何かご感想とかねぇわけ?」
「……?」
シオンの眉間の皺がさらに深くなる。
言われて、彼は改めてルーンとフィラーラを見た。
青いドレスのフィラーラ。
水色のドレスを着たルーン。
二人を交互に眺める。
フィラーラは、また少し期待した目でシオンを見つめていた。
今度こそ何か言われるかもしれない。
しかし。
シオンは淡々と、
「何か変わったのか」
口を開き、そう言った。
沈黙が落ちる。
フィラーラの肩が、ほんの少し下がった。
ジェイクは、シオンのその反応にすぐに吹き出す。
「はは、やっぱりお前はそんな反応だよな。つまんねぇ男だ」
肩を竦める。
そう言って彼はシオンから手を離し、テーブルの方へ歩いた。
「………」
フィラーラは少しだけ眉尻を下げながら、シオンを見つめる。
「……?」
シオンは意味が分からない様子で、軽く首を傾げていた。
+
「私たちがこれから行く場所は、ここよ」
テーブルの上に広げた地図を、ルーンは指で押さえる。
彼女が指を差したのは、東の大陸の北に位置する森だった。
「グリーンは、ここにいるわ」
「きゅうっ」
ブルーテイルが元気よく鳴き、ぴょんと跳ねる。
その周りを囲むように、フィルたちも地図を覗き込んだ。
「出発は?」
シオンが短く聞く。
ルーンは顎に手を添えた。
「そうね。なるべく早く出発したいところだけど……」
少し考え込む。
すると、フィラーラがぱっと手を上げた。
「はいっ。わたし、街、探検したい!」
目をきらきらさせながら言う。
それを聞いたジェイクもすぐに便乗した。
「俺も行きたいところがある」
腕を組みながら、さらりと言う。
さらに、ホワイトも口を開いた。
「私のルーン」
「……その呼び方やめて」
すぐにルーンが返すも、ホワイトは気にせず続けた。
「私も少しやることがある。グリーンのもとへ行くのは待ってくれないだろうか」
「そういや気にしてなかったが、まだお前いるんだな」
ジェイクが腕を組んだまま言う。
ホワイトは静かに答えた。
「私はこれからも私のルーンと共にいると決めた」
淡々とした声。
「私のルーンの行くところ、私も行く。決して離れぬと誓った」
「……さいで」
少し間を置き、ジェイクは息を吐いた。
そして三人の顔を見て、ルーンは小さく考え込む。
フィラーラ。
ジェイク。
ホワイト。
それぞれ順に視線を向ける。
やがて、ため息を吐いて顔を上げた。
「仕方ないわね。それじゃあ、出発は明日にしましょう。……シオンとフィルも、それでいいわね」
そう言ってから、シオンとフィルの方を見る。
「ああ。大丈夫」
フィルはすぐに頷いた。
一方、シオンは少しだけ考える素振りを見せ、
「問題ない」
そして、頷く。
こうして、次の旅の出発は一日後に決まった。
テーブルの上では、ブルーテイルが楽しそうに地図の上を跳ね回っていた。




