悪気はない
フィルがルーンたちの部屋に来たのは、シオンに呼びに行くようにと頼まれたかららしい。
彼の部屋に行く途中、廊下には微妙な沈黙が流れていた。
「…………」
フィルはまだ少し落ち着かない様子で、隣にいるルーンをちらりと見る。
ルーンは視線を逸らしたまま、腕を組んでいた。
「………」
胸の奥が、さっきから騒がしい。
どくどくと鳴り続ける胸の音に、フィルはどうしようかと戸惑っていた。
その空気を気にする様子もなく、フィラーラは嬉しそうに彼らの前を歩いている。
「……金色の子よ」
その時、ルーンの後ろを歩いていたホワイトがフィルに声を掛けた。
ぴくりと肩を震わせて振り向くと、ホワイトは淡々と言葉を紡ぐ。
「私のルーンは美しい。何を着ても、何をしていても」
「ちょ、何言ってるのよ!」
表情を変えず、言葉を連ねるだけのホワイトだが、その言葉には重さがあった。
ホワイトの言葉に驚いて、ルーンも振り向く。
「金色の子。先ほどから君は私のルーンを見ているが、何も言わない。言いたいことがあるのならはっきりと伝えるべきだ。私のルーンは美しい。金色の子も、そう思っている」
「なっ、」
ホワイトに悪気はない。
フィルは目を見開いて、頬を赤く染めた。
ルーンは眉尻を下げる。
「そうだろう。金色の子よ」
「…………」
フィルは小さく頷く。
「……、まぁ、…綺麗だとは思う」
その言葉を聞いて、ルーンは視線を逸らした。
「…別に、貴方に褒められるために着たわけじゃないわ」
いつもの調子で言ったつもりだったが、声が少し硬い。
フィルは少し困ったように頭を掻いた。
「よぉ」
その時、彼らの背後から声が響く。
振り向くと、そこにはジェイクがいた。
彼は、フィル、フィラーラ、ホワイト、ルーンの姿を順に見つめる。
「……」
その目がルーンに止まって数秒、ジェイクは眉をひそめた。
「……誰だ?」
「ルーンだよ!」
フィラーラが元気よく答える。
ジェイクはもう一度ルーンを見た。
「……マジで?」
「何よその反応」
ルーンが睨む。
ジェイクは腕を組みながら、じっと彼女を観察した。
「いや……」
少し笑う。
「思ったより似合うじゃねえか。やっぱ人間、着るもので雰囲気変わんな」
「思ったよりって何よ」
ルーンはそっけなく答える。
その横でフィラーラは得意げだった。
「わたしが選んだんだよ!」
「なるほど。フィラーラのセンスか」
ジェイクは頷きながら、ちらりとフィルを見る。
フィルの顔が赤いことに気付き、彼はにやりと笑った。
「お前、顔赤いぞ」
「!」
フィルは慌てて顔を触る。
「あ、赤くなんて…!」
「さっきからちらちら見て、こいつのドレス姿に興奮しちまったか?」
「し、してませんよ!」
否定するも、顔の赤みは一向におさまる気配がなく、フィルは眉をひそめて視線を逸らした。
少しだけ、居心地が悪そうな表情。
そのやり取りを聞いて、ルーンも彼と同様に居心地が悪くなった。
胸が妙に落ち着かない。
ジェイクは、今度はルーンを見る。
「ルーン」
「何」
「お前も顔赤いぞ」
「は?そんなわけないでしょ」
ルーンは即座に否定した。
「いや赤いって」
「赤くない」
「赤い」
「赤くないってば」
ルーンはジェイクを睨み付ける。
彼は変わらずのにやけ顔だった。
その様子を見て、フィラーラは楽しそうに笑う。
ホワイトだけは少し離れた場所で、静かに二人を見ていた。
そして、ぽつりと。
「私のルーン。金色の子。二人とも心拍が上がっている」
全員の視線が一斉に向く。
「……あなたは余計なことを言わないで」
ルーンが低く言った。
ホワイトは首を傾げる。
「事実だ」
「事実でも言わなくていいのよ」
ルーンは深く息を吐いた。
そしてまた視線を逸らす。
フィルとルーンの間には、さっきまでなかった妙な空気が流れていた。




