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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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気付かされる





 部屋の隅には、簡易的な仕切りが立てられていた。


「じゃあ、着替えるから」


 ルーンはそう言うと、紙袋を抱えてその向こう側へと入っていく。布の仕切り一枚とはいえ、姿は見えなくなった。

 フィラーラは期待に満ちた目でその仕切りを見つめている。


「絶対似合うと思うよ、ルーン!」


 仕切りの向こうから、衣擦れの音が小さく聞こえる。


「そうだといいけど」


 ルーンの声は、いつも通り落ち着いていた。

 しばらく様子を見守り、ホワイトが静かに口を開く。


「……一つ、疑問がある」


 唐突な言葉に、フィラーラが首を傾げる。


「疑問?」


 しかしホワイトの視線は、仕切りの向こうへ向けられていた。


「君にではなく、私のルーンに対しての疑問だ」


 布越しに、その声が届く。


「…何?」


 少しして、ルーンの声が返ってきた。

 ホワイトは淡々と続ける。


「昨日の夜、私のルーンと金色の子の会話を聞いた」


 一瞬、衣擦れの音が止まった。


「……聞いてたの?」

「私と私のルーンは魔力を介して繋がった。だから、私のルーンがどこで何をしていようとも私にはすべてわかり、誰と話しているか、その会話も聞こえてくる」


 悪びれた様子もなく、ホワイトは答える。

 そして、静かに尋ねた。


「ここで、私のルーンに問う。あの金色の子とは、どういう関係だ」

「……………」


 仕切りの向こうで、ルーンは少しだけ考える。

 考えるまでもなく、答えはすぐに出た。


「どうって……仲間よ」


 当然のような答え。

 だが、その言葉にホワイトは即座に首を横に振った。


「違う」


 短い否定だった。

 ルーンは思わず言い返す。


「何が違うの?」

「あれは、仲間に対する反応ではない」


 ホワイトは静かな声で続けた。


「反応?」

「昨日、私のルーンが金色の子と会話をしていた時、魔力の流れが微弱に変化した箇所があった」


 仕切りの向こうで、ルーンの手が止まる。


「声も変わった。心拍も上がっていた」


 淡々とした観察の言葉が続く。


「あれは、"ただの仲間"に向ける反応ではない」

「……………」


 ルーンは、しばらく何も言わなかった。

 ただ、ドレスの布を握ったまま立ち尽くしている。


 やがて、少しだけ苛立ったように口を開いた。


「……あのね。そんなの、たまたまでしょう」

「違う」


 また、同じ言葉だった。

 ホワイトは少し考えるように目を伏せてから、言う。


「私のルーン。私の見解では、私のルーンはあの金色の子を特別に見ている」


 その言葉に、ルーンの胸がわずかにざわめいた。


「特別?」

「そうだ」


 ホワイトは続ける。


「ここで問う。私のルーンは、金色の子が傷付くことを嫌うか。彼が他の女性と話すことを嫌うか。彼が刻印のせいで死ぬことを嫌うか」

「っ、」


 仕切りの向こうで、ルーンの呼吸が少し乱れた。

 ホワイトは、それを見逃さない。


「私のルーン。今の問いで、私のルーンの魔力の流れが激しく乱れた。…私のルーン。私のルーンはもう金色の子を仲間とは思っていない」


 静かな声が言う。


「…いや。仲間と思ってはいるが、それとは別にもっと強い感情がある」


 ルーンは言葉を返せなかった。

 ただ、胸の奥が妙に落ち着かない。


 頭の中に、ふと浮かぶ。

 フィルの顔。

 優しく笑う表情。

 自分の名前を呼ぶ声。

 危なっかしくて、でも、いつも前に出て守ろうとしてくれる背中。


 それを見ていると、なぜか落ち着かない気持ちになる。

 胸の奥が、少し熱くなる。


 ルーンは小さく首を振った。


「……そんなわけない」


 そう言ったつもりだった。

 けれど、声は少し弱かった。


 ホワイトはその沈黙を聞き、そして迷いなく言う。


「私のルーン。私のルーンは、金色の子に恋をしている」


 その一言が、布の仕切りを越えて落ちた。

 ルーンの手から、ドレスの布がするりと滑り落ちる。


 床に、やわらかい音がした。


「……え?」


 思わず漏れた声は、小さかった。

 ホワイトの隣でそれを聞いたフィラーラは、目を見開く。


「私は、私のルーンを昔から見てきた。私のルーンは、私たちカラーを導く運命を持った女性。私たちは、私たちのルーンを愛している。私のこの想いと、私のルーンがあの金色の子に抱いている感情は似ている」


 その言葉が、頭の中でゆっくりと響く。


「…………」


 フィルのことを考える。

 彼の顔を思い浮かべた瞬間、ルーンの胸は小さく脈打った。

 彼女は動かないまま、しばらく立ち尽くす。


 やがて小さく息を吸い、そして誰にも聞こえないほどの声で呟いた。


「……うそ」


 その言葉は否定ではなく、戸惑いに近かった。



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