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第十二章「研究対象」ラスト

ダグラスが去って、トシミツはガラスの壁に囲われた何もない部屋でポツリと座り込んだ。


同情を誘うため狂ったふりをしてみたが、別にまだ耐えられないほどではない。


しかし、2時間後には襲ってくる酒への欲求。


そして、夜には狂うほど強烈な欲求に眠れなかった。


翌日、不安感に押しつぶされそうになり、息も満足にできなくなる。


トシミツ自身も何が不安なのかわからないが、寒気のような恐怖感に自然と震えていた。


3日目から3日間は、廊下に呻き声のようなものが休みなく響き渡る。


きっと幻覚でも見ていたのだろう。


6日目は少し落ち着いたようだが、膝を抱えて座り込み、顔色も悪く、ダグラスが声をかけても反応がない。


(俺は死ぬんだ・・・)

トシミツは本気でそう考えていた。


10日目以降は大の字に寝そべって動かなくなった。


(死んだか・・・)

ダグラスは冗談を言うように、頭の中で思った。


しかし、トシミツは徐々にあの時の感覚を取り戻していく。


神仙の山で感じた高揚感を。


30日目、ダグラスがガラスの部屋の前で机に向かい作業をしていると、轟音と共に強化ガラスが弾け飛んだ。


その破片がダグラスの鼻先を掠め、ツーっと血が鼻腔を伝った。


「な、何が・・・」


「やあ」

ダグラスが振り向くと、トシミツの上半身が視界を塞ぎ、そのまま上方を見ると菩薩の様な笑みで笑うトシミツの顔があった。


「仏陀レベル33、職業が変わっている・・・あなたはいったい何者なんですか・・・?」


「俺は異世界転生者だ」


「異世界転生?何を言って・・・フングッ!」

言い終える前にトシミツはダグラスのフードを持ち上げて腹部を殴打した。


「今の俺は酒が完全に抜けて、戦闘に没頭する集中力が高まっている。お前を殺すことに躊躇いもない」


トシミツがそう言って拳を振り上げた瞬間に、ダグラスは指先からビームを放ち、それがトシミツの頬をかすめた。


その隙をついてダグラスは飛び退いてトシミツとの距離を取り、魔人達を呼ぶために叫んだ。


ダグラスは占い師レベル26である。

今のトシミツと真っ向から戦うのは不可能である。


ダグラスの声を聞き、6人の魔人が部屋に突入してきた。

レベル20〜30の魔王親衛隊と呼べる精鋭達だ。


しかしそんな精鋭達であっても、今のトシミツの前にはただの一般戦士にすぎない。


トシミツは流れるような手刀でそれらを蹴散らし、1人が持っていた剣を拾い上げた。


匠の剣

レア度:レア

攻撃力:大


「俺が皇帝となる」

トシミツの放った凄まじい斬撃が、大気を斬り裂きそのままダグラスの首を切断した。


今のトシミツはダグラスほどの者でも無心で殺害できるほど達観していた。


そしてそれを密かに見ていた男がいる。


サイズだった。


「魂の輝きで分かる。お前は新人のジャック。そして、魔王サイズだな?」


サイズは見違えた。あの無能そうな男がここまでの面構えで自分の前に立っている。


「いかにも」

サイズも落ち着きを払って、トシミツに対峙していた。


(これは先に動いたら負けるな)

サイズは思った。


それどころか勝ちを確実のものにするためには、全てを捨てる覚悟で戦うしかないとさえ考えた。


サイズが思考を巡らせる中、トシミツは恐ろしいほどの無心を貫いている。


心地よい無心という海に身体を浸しながら、じっとサイズを朧げに見つめ、逆にその得体の知れなさにサイズは恐怖を感じていた。


突然、2人の立っている部屋の壁がドロドロと溶け始める。


凄まじい高温がサイズの身体から発せられ、施設を溶解しようとしているのである。


やがて、どろりと垂れた天井がトシミツの身体を包み込む。


しかし、サイズはトシミツの様子を見たまま微動だにしない。


そして、全てが液体になるまで溶解されると、そのまま立っているトシミツとサイズだけを残して、あとは地面に散らばってしまった。


施設が溶け去って外に出ても、2人は見つめ合う。


もちろんサイズは、これでトシミツを倒せるなどと考えたわけではない。


屋内という閉鎖空間を破るためだ。


そして勝負を決する瞬間は、サイズが目を見開いた瞬間に訪れる。


お互い初動からトップスピードで激突し、通り過ぎて振り返り激突を繰り返す。


生物として最高速度を持つ2人の衝突を、側から見ていた生物が居たとするならば、高速すぎて何が起こったか分からなかったに違いない。


連続する突撃を繰り返し、サイズはバリエーションを付けるため超巨大火球を高速で打ち出す。


もちろん人間を超越したトシミツを焼き殺せるなど思ってはいない。


しかし、目眩しの役割は果たすだろう。


だが、サイズの考えは甘かった。

トシミツはすでに視覚でサイズの動きを追っていない。

四次元の感覚。存在の座標でサイズの位置を感じ取るほどに達観していたのだ。


(この男に手をつけるべきではなかった・・・)


その火球を打ち出すというタスクの差で、トシミツはサイズの行動速度を上回り、それを取り戻すべくサイズは策を思案するが、その考え自体がさらなるタスクを生み、トシミツとサイズの行動回数の差が雪だるま式に開いていく。


そして、蓄積した行動の差がサイズの肉体をこの世から抹消した。

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