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第十二章「研究対象」2

終業と同時に酒瓶を右手に携え、酒を口に含む。

しかし、この男はおそらくすでに酒に酔っていた。


サイズや他の同僚、上司たちでさえも、この男が仕事中に隠れて飲んでいることに気づいている。


本来なら規則として咎められるが、それを黙認しているのは、酒が入っていないと人間として機能しないからに他ならない。


(これが意志弱き人間の成れの果てか・・・)


サイズはトシミツに肩を組まれたまま無抵抗に、日が沈む街並みを歩いていく。


「今日は歓迎会だ」


トシミツには帝都に行きつけの酒場があった。


適当な席に座り、酒と刺身の盛り合わせを頼むと、少しして、酒とサベージクリーナーの和え物のお通しがきた。


サイズとしては正直気が気ではない。


酒場などという場所では、いくらでも乱闘騒ぎが起こるイメージがある。


レベル5以上の人間に殴られた場合、問答無用で即死するレベル1の善良な民間人にとって、危険極まりない場所なのだ。


この目の前の酔いの回ったトシミツでさえ、要らぬことを言ってしまえば、酒瓶で撲殺されかねない。


サイズのその様子を察してかトシミツは口を開いた。

「ジャック君だったね。心配しなくてもいい。俺はそれなりの修羅場を経験している。そういったことの対処には慣れている」


トシミツにとって安心できる場所のようだが、この男が本当に正気なのかわからない以上は油断をするべきではないだろう。


サイズはトイレに行く振りをして一通りの脱出経路を確認し再び席についた。


「何だ。進んでないな」

サイズの酒の減り具合をトシミツは指摘したが、まあまあと言いつつサイズはそれほど飲まない。


そうこうして肴をつまみながら話していると、店内ラジオからニュースが流れてくる。


「6時のニュースです。今朝9時頃、勇者の潜伏する混迷の森改に討伐隊が到着し、捜索を開始しました」


「勇者・・・」

トシミツは呟いた。


「何か?」


「いや昔、勇者が現れると聞いたことがあってな。俺がそうなんじゃないかと思ったこともあったなあなんてね」


トシミツも多くは語らなかったが、話を聞いてある程度の経緯を理解したサイズ。


要は勘違いする出来事からちょっと頑張ったが、自分は泥酔者で何者にも慣れなかった悲しい存在というのが、サイズの出した結論だった。


勇者という言葉を聞いてから酒の進みが早まった気がする。


そして夜も更け、トシミツも自力では立てないくらい酔いが回り、本日はお開きな雰囲気になった。


(今日はここまでか)

サイズはトシミツを担いで帰路についた。


しばらく行くとトシミツが呻いた。

「確か勇者が現れるとダグラスが言っていた・・・でもそれは俺じゃあなかったんだな・・・ああ、もう酒なんてやめてしまいたい・・・」

泥酔したトシミツが涙を流し呟いた。


(ダグラスと会っているのかコイツ・・・)

サイズはそう考えながら別のことを思いついていた。


(人間観察は中断して、コイツをさらうべきだろう)


サイズはすぐにダグラスや配下の魔人を呼び、泥酔しきったトシミツを拉致した。


トシミツを専用のガラス部屋に放り込んだ後、サイズは再び転身の儀式を開始する。


サイズ 善良な民間人レベル1→魔王レベル33


儀式を終えたサイズは、眠っているトシミツを観察しているダグラスに聞いた。

「お前はコイツを知っているのか?」


「ええ、特殊な職業だったので覚えています。しかし・・・」

ダグラスは何か考え込むような顔をして、トシミツを見たまま答えた。


「ここまでの男ではなかった。このステータスはあまりにも異常・・・」

ダグラスはまるで自分自身に話しかけるように呟いている。


「どこで会った?」


「混迷の森です」


「そうか、コールドに任せた件だな」


「あの時の彼はレベル10にも満たなかったはず」


「ほう」


「そして彼はあの時、同じ泥酔者の相棒と共にコールドを退けた」


「興味深いな」


「その相棒というのが、闇の勇者タモツですよ」


「・・・!?」

サイズは驚き、それと同時に戦慄する。


この急成長には偶然ではない何かが存在している。

トシミツはタモツの能力に匹敵する何かを秘めていると仮定するべきだろう。


そうとなれば研究するしかない。


サイズもトシミツの方を見た。


「泥酔者から酒を抜いたらどうなる?」


「いや・・・彼らは常に飲んでいましたから」


「では、そのまま閉じ込めておけ」


ダグラスに観察を任せ、サイズはその場を去った。


トシミツは目を覚ますと、のっそり周囲を見回し、しばらく考えた。


そして、ダグラスを見つけるとすぐに駆け寄っていってガラスに手をついて叫んだ。


「ダグラスじゃないか。ここはどこだ?なぜ閉じ込められている?」


「私が魔王の配下であるのはご存知でしょう?そういうことですよ」


「何!?かち割って出るぞ!」

トシミツは必死でガラスの壁を殴りつけるが、びくともしない。


「強化ガラスですから手を痛めますよ」


「とりあえず、喉が渇いた。酒をくれ」


「この際、禁酒してみてはいかがか?」

ダグラスは突き放すように振り返り、そこから立ち去る。


「ダグラス!待て、混迷の森、あの時は悪かった!お前の親切な提案にタモツと一緒に従えばよかったんだ!おい、待ってくれ!酒ーーーッ!」

トシミツの叫び声が廊下に響き渡るのを、ダグラスは去りながら聞いていた。


(あれはダメだな・・・イカれてる・・・)

ダグラスはこの研究が時間の無駄に終わることを予想して、ため息をついた。

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