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第十二章「研究対象」1

魔人が人間を支配して10年後。


薄暗い巨大なガラス張りの部屋。

その中に無数の人間たちが虫の様に蠢いている。


その様子を高貴な魔人とフードを被った人間が眺めていた。


「勇者の出現はダグラス、お前のおかげで予想できた」

高貴な魔人はフードの人間に言った。


「私の予知もサイズ様の思考には及びません」

ダグラスは高貴な魔人にそう返す。


「勇者共は<混迷の森改><バブルガムの浜辺改><串の洞窟改>という有害な魔物の巣の脅威で釘付けにする予定だったが、混迷の森改に入ってから出てこなくなってしまった。確実に仕留めるためにレベル20〜30の精鋭部隊を送っている」

サイズは険しい顔をして腕を組んで、ガラスの中の人間を見つめていた。


「貴方が魔王になって、この世界はほぼ魔人のモノになりました。なのに何をそんなに考え込んでいるのです」


「これで終わりではない。俺がなぜ人間を生かしているか分かるか?人間を研究し尽くすためだよ。確実に人間を支配するには、常にそれを上回らねばならない」


「まだ何か考えていると?私の予知では魔人の勝利は決まっています」


「俺はその先の話をしている。いずれこの勝利が人間に取り返されるのなら意味がない」


サイズはガラスの中の茶髪で空色の瞳をした青年を指さした。


「あれが良い」


「えっ?」


「俺は人間になる」


ダグラスは一瞬、理解ができなかった。


「転身というやつだ」


サイズの研究熱心な所と用意周到さは、しばらく仕えていてよく身に染みている。


しかし、支配するために勝利しておきながら、支配される身分に成り下がる者がどこにいる。


「一度人間になってみなければ、わからないこともあるだろう」


「貴方の考えることは理解できない」


「理解できないことを理解するためにやるんだ。儀式の用意をしろ」

サイズは暗闇に控えていた魔人に指示を出した。


サイズ 魔王レベル33→善良な民間人レベル1


(研究の極地。実験動物に紛れ、全てを理解する)


サイズが目を覚ますと、帝都の宿の一室にいた。


サイズはベッドに腰をかけて、手のひらを握ったり広げたりして呟く。

「悪くないだろう」


横を向くと、ベージュ色の半袖短パンの青年が鏡に映っている。


危険な行為だが、ダグラスや部下には構うなと念を押してあった。


これから立場の弱い人間として生きていかなければならない。


(とりあえず、労働が庶民の勤めだろう)


サイズはすぐに部屋を出て、階段を下りロビーに出た。


すると、カウンターテーブルに居るおばさんが声をかけてくる。

「目が覚めたかい。アンタどこぞの旦那が理由も言わずに置いていったんだ。心配しなくても金は1ヵ月分貰ってる。名は何と言うんだい?」


(さすがにサイズと名乗るのはまずいだろう)


「ジャックだ・・・」


「そうかい。仕事の手配をしてくれと、旦那に頼まれてね。早速明日からそこで働いてもらうよ。今日は自由にしな」


サイズとしては、仕事も自分で手配したかったため、余計なことをと思った。


とはいえ、いきなり放り出された世界では、どう過ごしたらいいのかわからない。


外に出ると6割の魔人と4割の人間が、何の疑いもなく歩道を歩いており、サイズは街を歩く人々のステータスを覗き見た。


(もちろんムラはあるが、レベル1の奴も平気で生きている。弱いままで生きることが恐ろしくないのか?人間とは面白いな)


魔人にはレベル1の者などいない。

戦わない役割がある人間という種族のみに許された生き方だった。


(魔人もその色に染まっていくのだろうか)


人間の姿で街を練り歩いてみたが、特に何も起こる気配がなく、次の日になった。


手配された職場は、部品の検品工場だった。

機械で作られた部品を運んで、不良がないか1個々々調べる。

魔王にとって難しい仕事ではない。


その合間に人間観察をしていくのだ。


人間の姿が多いが、魔人も数人確認できる。

レベルは軒並み低いが、異常にレベルの高い男が居てサイズは驚いた。


トシミツ 泥酔者レベル33


外見は特に他の人間と変わりはない。

ボサボサの髪に無精髭。むしろ他の者よりも劣る風貌をしており、アンニョイな雰囲気で作業をしている。


そして戦闘能力が一般人並みに低い。サイズはこの様な人間を見るのが初めてだった。


「何だ・・・お前は・・・」

あまりのことにサイズは声を出していた。


その男も見られていることに気がついたのか、軽く会釈をして作業を続けていた。


やがて休憩時間となり、サイズは喫煙所にタバコを吸うふりをして、先輩にそれとなく聞いてみた。


「トシミツさんという方のステータスが目に入ったのですが・・・」


「ああ、俺も最初は驚いたが、なんてことはない冴えない男だよ。自身もよく覚えていないと言っているし、まあこの世界のエラーのようなものだ。気にするな」


(いや、そんなはずはない。あの男は確実に何か持っている)

警戒心の強いサイズは何かを確信していた。


サイズは今日中に接触を図ることを決意する。

多少不自然だが、高まる好奇心を抑えることはできない。


そして終業時刻となり、サイズはトシミツを探して話をかけた。


「今日からこちらで働くことになったジャックです。トシミツさんはお酒が好きだと伺ったもので・・・」

共通の趣味による接触を図ろうとしたサイズ。


魔人とは酒を飲む習慣がない。つまり、そのような進化を遂げておらず、魔人にとって酒は毒だった。


だが、人間の身体になったサイズは酒を嗜むことが可能になっている。


気だるい表情だったトシミツは、突然ニンマリと表情を緩め

「まあ、飲もうや」

と言ってサイズの隣に回り込み、肩を組んできた。

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