第十一章「闇の勇者」2
テラーが最後の部位である半分以下になった頭部を磨き終えると、テラーの目の前に軽装の1人の魔人が立っていた。
(なぜこんなところに魔人が?死者達は魔人を恨んでいるのではないのか?)
テラーの驚いた表情を見て、魔人が口を開いた。
「フフッ、驚かれるのも無理はない。私は同種を裏切り死者達に付いた魔人です。安心してください。死者の国の大臣的な役割を担っています。騎士からの報告を受けて王の代わりにここに参りました」
(魔人が死者達の大臣だと・・・)
テラーが呆気にとられていると、スカイは目の前で腰を下ろし肉片を観察した。
「思ったよりも酷いですね。なぜこれで生き返ると思ったのですか?」
スカイの問いに、テラーは今までの出来事を話した。
「こんな状態は初めてですね。彼は本能だけで現世に留まろうとしている」
そう言うとスカイは、タモツの蘇生準備に取り掛かった。
その準備とは、針と糸で肉片を元の形に縫い留めるというだけのものだった。
「私にできるのはここまでです」
スカイがそう言って手を止めると、テラーはスカイに飛びかかり胸ぐらを掴んだ。
「このガキィ!思わせぶりな態度をッ!」
「落ち着いてください。私もこんな状態初めてで少し戸惑っている。厳密に言えば彼は既に生きている」
テラーはハッとして、スカイから手を離した。
「しかし、意識が戻るか、元通り動くかは私にはわからないのです」
テラーは慌てて平伏した。
「すいません・・・感情が抑えきれなかった」
「少し話しましょうか。この死者の国の始まりから」
スカイは語り出した。
死者は元々、死んだ人間を魔人が蘇らせて自分達の兵隊として運用するために生み出された。
死者は生きた人間の魂を本能的に求めるように作られており、積極的に人間を襲う。
つまり魔人達にとって都合の良い戦力の一部でしかなかった。
しかしある時、死者の1体が行軍の列を外れ、走り出した。
死者は本能に従う。
その行動も何かの本能的な行為だったのかもしれないが、その行動に釣られて1体、また1体と次々に死者達が列を離れ、その死者についていった。
1体のイレギュラーが大きな流れを作り、その規模は死者の行軍を指揮していた魔人では抑えきれないチカラを持ち、その日、死者達は魔人の支配から逃れたのである。
「そして、そのイレギュラーが我々の王なのです」
しかし、王であっても見た目などは他の死者と何も違いがないらしい。
「つまり王に思想はない。だから私は王に代わって死者達を導いているだけなのです」
人間は行動するのに思考を挟むが、死者は本能と行動がほぼ直結している。
レベルの上昇などで、それは緩和されるらしいが、国の方針決定において、他の種が担う方が間違いがないのである。
「なるほど、納得しました」
テラーは言った。
「私は最初好奇心から動いていたのですが、今は彼らを少し可愛く思う」
スカイは遠くを見据えてそう言うと、すぐにテラーに向き直った。
「よろしければチカラを貸してくれませんか?」
「何なりと言いつけてください」
スカイの願いに、テラーはそう答え立ち上がった。
スカイに届いたのは、風を操る人間が単騎で攻め入ってきたとの情報だった。
しかも群を抜いた強さだと言い、このままではこの国の損害が大きくなる。
スカイの願いとはこれだった。
急ぎ、テラーとスカイが馬を走らせ、北に向かうと風が乱舞していた。
死者の大群を薙ぎ倒し全てを巻き上げる風。
まるで台風のようだ。
2人は近づいてみたが、とても自分達の手に負える相手ではなかった。
「こんなチカラは聞いたこともない・・・」
スカイは呟いた。
遠目でステータスを覗くと、なんと勇者と書いてあるではないか。
「なんとかやってみるしかないでしょう」
テラーはそう言って術の準備に取り掛かった。
風の勇者タンはやはり風に酔っていた。
面白いように死者を薙ぎ倒す、その快感を味わいながら、既にレベル24に到達していたのだ。
タンはすぐに異変に気がついた。
村が襲われたあの場面に、視界が徐々に切り替わっていく。
(なんだこれは・・・)
辺りは燃え盛る家屋が広がって、村人が映し出される。
そして、死者達があの時村を襲った魔人へと姿を変えていく。
(そんなこれは幻か・・・)
しかし、タンはこんな子供騙しに引っかからない。
なぜなら、風という真実を見透すの眼があるから。
タンはその恐怖のビジョンを横に薙いで、全てをかき消した。
その風圧を受けて、テラーとスカイも後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。
(奴らが術者だな)
タンはそう考えると追い風による高速移動で、吹き飛ばされている2人に追いついて、精霊剣で斬りかかろうとした。
しかし、静かだが重厚な足音を聞いた気がして、タンは剣を止めた。
風は吹き飛ばされた2人のさらに先に、ただならぬ気配を感じていた。
「テラじい、俺も混ぜろや・・・」
そこには地獄から這い出てきた中年の姿があった。




