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第十章「風の勇者」ラスト

その威力は凄まじく、コールドは一滴の血も流さず一瞬で消滅してしまった。


「コールド、風になったか・・・」

タンは都合よく解釈し、さらに襲いかかってくる魔人を一掃する。


そして、すぐにラム達に駆け寄って、近くの魔人を蹴散らしたが、逃げる魔人は追わなかった。


「みんな無事か?」

タンが聞くと、ラムとタンの父、母、弟、妹は泣きながら頷いた。


「風よ、ありがとう」

風とは風の精霊、そして風そのものに対して言っていた。


そして、風の精霊はもう言葉を発したりはしない。


無論風を感じ取れるこの男に多くを語る必要がないのもそうだが、これからは勇者であるタンの意志で人の道を進まなければならないからだ。


それからタンは村を駆け回って剣を振い、全ての村の火を風圧で掻き消した。


消したのはいいが、一度作り直さねば、村として機能しないことは誰の目にも明らかな状態だ。


しかし、村のそれ以降の事は自分の考えるところではないと、タンは割り切った。


(俺には別の使命がある・・・)


勇者としての使命。魔人と戦う事だった。


そして、魔人達も勇者であるタンをこのままにしておくわけがない。

もし、タンが村に残れば、ラムや家族に危害が及ぶだろうということはタンも分かっていた。


タンは焼け落ちた村から去ろうとすると、ラムがそれに気がついた。


「どこに行くの?」


「また」

タンはラムに半身だけを向けて手を挙げ、その場から去った。


タンはこの世界がどうなってしまったかについて、すぐに風から感じ取った。


帝国が二分し、その戦いによって人間勢力が消耗し、それを好機と見て魔人達が乱入し、人間達を攻め潰した。


どうやら、人間勢力の主力はその時に壊滅し、世界は魔人の物になりつつあるという。


(やはり、戦いは免れないか・・・)


そして、タンがこれからどこに向かうかは、風の情報を基にした。


南西に魔人が統べる土地が存在するようだが、いきなりそこに飛び込むのは危険すぎる。


レベルという概念もタンは知っており、元々は善良な民間人という職業のレベル1だったのが勇者レベル12にまで成長したとはいえ、魔人の密集地に攻め入るのは無謀だと感じていた。


それでどうするかだが、この世界には大きく3つの勢力

が存在する。


<人間><魔人><死者>の3つだ。


死者というのは、死んだ人間が魔人のチカラによって蘇らせられた者達であり、元々は魔人の支配下にあったが、そこから逃れて南東の沼地に構えているらしい。


もちろん死者の勢力は、人間や魔人に比べると微々たるものだが、ここを攻め潰す余裕はどちらの勢力にもなく、そっとしているのが現状である。


そして、死者は魔人と同様に人間も憎んでいる。

いずれ人間と争うことになるのであれば、死者を狩り取って経験値としてしまうのが、今のタンにとって最も最適な行動だった。


しかし、長い道のりである。

世界地図の北東の端から南東の端まで移動するのは、いくら風の勇者であっても厳しい道程であった。


タンは仕方なく、立ち寄った村で人間と魔人に関わらず食料を強奪し、飢えと疲れを癒した。


(すまない・・・)

とも思ったが、

(世界を救ってやるから、その謝礼の前借りだと思えば俺は悪くない)

とも思った。


そして、村に立ち寄って気づいたこともあった。


もちろん数は減っているようだが、魔人と混合して、そのままの生活で人間達は生かされている。


タンは不思議に思ったが、考えても仕方がないので、そのまま南下し続けた。


疾風の勢いでタンは約1万キロメートルをわずか4日で駆けて、ついに死者達の住む沼地<魂吸沼>に辿り着いた。


毒々しい紫色の沼が点在し、辺りが霧に包まれている。


そして恐ろしいのは、沼から目の下まで顔を出す者の存在だった。


おそらく死者だろう。

皮膚は薄紫色で、覗かせている目は赤みがかっている。


タンが少し近づくと、死者は沼から這い上がって、タンに掴み掛かろうとした。


「ひゃっ!」

驚いたタンは、飛び退きながらそれを風で消し飛ばし、さらに沼地の奥に入っていった。


先に進んでみると、死者の数が増えてきたため、さらにそれを消し飛ばすと、タンは急いで引き返していく。


タンは風によって、この場所が危険なことは理解しており、いきなりここを制圧できないことも分かっていた。


つまり、単身であるタンが魂吸沼を攻略するには、ゲリラ戦で死者の数を地道に減らしていくしかないのである。


タンはたびたび死者の憎しみの声を聞いた。

しかし聞きつつも、タンがその持久戦を止めることはない。


当たり前だが、時には食料を盗みに帰ったりもしている。


タンはこの持久戦を粘り強く行った。

その動力源は風を扱うことの楽しさであり、また風と一体化した自分に酔っていたからだった。

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