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9話

火曜。


「出勤したくねえー」

「ダメです、出社してください」


インフラエンジニア兼社内ヘルプデスクのため、リモートで作業ができない。なので毎日出社する必要があるのだが、それが億劫で仕方ない。


「ベッドからおきたくない〜」

「小学生ですか」

「逆にシャルロッテが小学生を知ってる方が驚きだよ」


どうでもいいところを突っ込んでうやむやにする。


「もう……もう7時半なんですよ!スマホのアラームも鳴りましたよね!」

「8時25分に起きれば間に合うから〜」

「早く行ってください」


シャルロッテのジト目。

しょうがない、出社するか。


「朝ごはん、適当に食べといてくれ」

「DPを消費していいのであればごはんは抜けますけど」

「そう、それ気になってた。それいくら消費すんの?」

「一匹一日6DPです。一食抜くなら2DPですね」

「一人一食千円? 作った方が安いな」


それならば、と、着替えてから適当にベーコンと卵を焼いてベーコンエッグトーストを作る。遅刻が近づくがやむを得ない。


「ほれ」

「ああ、自家製ご飯……私は幸せです!」

『まのー、あついー』

「わふー」


ポテトとクロは食べるのに手こずっている。まあ、ベーコンエッグは子供が食べるのに苦戦する食べ物ランキング入りだからな(要出典)


「冷まして食え。黄身垂らさないように上手に食べるんだぞ」

『はーい』

「わふっ!」


仕事は暇だった。定時退社し、帰りに柳瀬さんのところに行く。 

集客計画のためだ。


「こんばんはー」

「おう真野くん。よく来た」

「あら真野さん、ごきげんよう」


要はお年寄りの溜まり場になる、という点について。


「テレビが欲しい。でかいやつ。60型以上だな」

「テレビですか」

「ジジイババアの楽しみなんてテレビでスポーツ観戦ぐらいしかねえのよ」

「相撲とメジャーリーグ、後この時期ならアイススケート・アイスダンスは見るわねえ」


お年寄り滞在中に出すものについて。


「茶があれば十分だ」

「まあ、実際何も出さないのは不景気というか、しみったれに見えるから、簡単に食べられるお菓子の類は出しておいて、もちかえらせなさい。ルマンドとか」

「ルマンドとか」


DP吸収について。


「説明しとくから安心せい。なんも体調悪くならんかったしな」

「はあ」

「そこを渋るやつは来んでええ、といってある。真野くんは快適な空間づくりを頑張ってくれ」


リフォームについて。


「こればっかりは専門家じゃないからわからん。大工の連絡先は渡しておく。話はつけておいたからいつでも電話しろ」

「ありがとうございます」


シャルロッテとポテト、クロについて。


「シャルロッテさんは目立つのう」

「真野さん、シャルロッテちゃんとどうなの? 進展は?」

柳瀬さん(奥さん)の圧が強い。

「まあ、目立ちますよねえ。進展は特にないです」

「あらあら。押すときは押さなきゃだめよお」

「いやいや、見た目的に危ないでしょう」

「そお? 恋愛に年齢差は関係ないわよお」

「人様の恋の行末に口を出すもんじゃないぞ。さておき、動物が苦手な奴もいるでな。そこの話はしておいた」


恋してることにされた。そんなんじゃないと思うんだけどな、お互い。

けれど柳瀬さんたちは終始楽しそうだった。まあ、この人たちが楽しそうなのはこっちも気分がいい。


大まかな話は聞けたので、自宅に帰る。


「ただいまー」

『まの!おそい!おなかすいた!』

「おおすまんすまん、柳瀬さんちにちょっと寄っててな」

「柳瀬さんのお宅に? 集客計画のお話ですか?」


シャルロッテはポトフの残りをあっためてくれてたようだ。早速ご飯にする。


「うん、でかいテレビを要望されてね。明日テレビを買って帰る。配送を頼む予定。デカいやつだからね」


もそもそとポトフを食べながら、そんな話をした。


「テレビですか」

「年寄りのやることはまずテレビを見ることだって言われてね。起点がそこっぽい。だからまあ、メルカリの売上を使うよ」

「家電量販店で買うんですか?」

「今のところ維持費DPは増やしたくないからね」


そして翌日水曜日、仕事を終えて帰り道の家電量販店へ。


「すいません、でかいテレビが欲しいんですけど」

「いらっしゃいませ、ありがとうございます。大きなテレビですと、55インチなどでしょうか?」

「いや、もう少し大きいのを。60型ってあります?」

「いま60インチのものは寸法の問題でメーカーが作ってないんですよね……65インチならご案内できますが」

「あ、じゃあそれで。現金一括、配送希望です」

「ではこちらでお手続きを……」


テレビの購入はスムーズに終わった。

隣のスーパーで食材を買って帰る。


「今日は鍋にするぞー」

『なべ?』

「鍋料理です。野菜やお肉をたくさん入れて煮込んだ料理ですよ」

『にくー!いっぱいたべる!』


市販の鍋のもとと水をドボドボ入れて、ざっくり切った白菜、えのき、長ネギ、しめじ、糸こんにゃく、焼き豆腐、豚肉を適当にぶち込む。

一煮立ちしたら完成。いやー楽でいいわ。エバラ様様。


「できたぞー」

『からいにおい!』

「わふ!」

「ラベルに坦々胡麻、と書いてありました」


ポテトとクロによそってやる。基本は肉で、ちょっとだけ汁。


『おいしいー!』

「わおーん!」


ポテトもクロもむしゃむしゃ食べてる。辛いと言ってもゴマ成分で旨味に変換されてるようだ。よかったよかった。


- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『坦々胡麻鍋エバラ』を摂取しました -

- 【変異ツリー:からうま毛玉(からうま属性)】が解放されました -

- からうま属性変異可能性の開放により、からうま属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -


「からうま……家具?」

「全く想像がつきませんね」


シャルロッテが白菜をもしゃもしゃ食べながら言う。

まあ見なくていいだろ。お年寄りにからうまがウケるとは思えないし。


木曜は何もなかったが、金曜は有給を取って大工さんを呼んだ。


「こりゃ大規模なリフォームになるぞ」

「本当ですか」

「キッチンに階段があるのは飲食店としてはあかん。取り壊して付け直すか、外の空いてる前庭にキッチンを新しく作ることになる」

「なるほど」

「キッチンと居間の間が襖なのもいかん。防火素材で濡れ拭きできる扉じゃないと」

「あー、じゃあ前庭に別棟を建てちゃってそこに業務用キッチンを建てて、仏間につなげる。あと今のキッチンを生活用キッチンにして、今ある生活用スペースと客用スペースの扉は全部埋めて隔離する方向ですかね」

「そうだなあ。扉を埋めると動線がなくなるから、風呂も場所変えないといかんだろ、客用の手洗いスペースもいるだろ。別棟と水回り、かなりかかるぞ」

「本当に大工事ですね」

「少しまけても500万ぐらいは軽くかかるぞ。いいか?」

「ごひゃくまん」


金曜夜、風呂で思う。


別棟代金、概算500万。とんでもない額だ。

スライムクッション35000円を…150個か?

丁寧属性のラグなら50枚。こっちの方が現実的だ。

それでも250DPが要る。風呂でも確認できるホログラム画面を見ると、今のDPは120だった。


うーん。二級探索者の中村をうちに呼ぶの、実際ちょっと躊躇うんだよな。あいつは呼べばニコニコで来てくれるが、本来県や国の依頼を受けて動く立場なわけで。

けれど、DP収入は今のところ中村しか当てがない。


湯船に顔をつけてぶくぶくする。うーん、まとまらない。


茶飲み場はまだ成り立たない。というか、食品を出すのがダメなのがきつい。

やはり中村を頼るしかないのか。1日意味もなく泊まってもらおうかな。そしたら1440DPになるんだが。


結局あした泊まりに来ねえ?とLINEした。俺は弱い。


----


土曜朝、中村はニコニコでやってきた。「シャルロッテちゃんと仲良くなるチャンス!」とか言ってる。頼むから俺の家で変なことはしてくれるなよ。


中村とスト6をした。ポテトとシャルロッテとクロは居間でアニメ見てる。


「で、いくら要るの?」

「500万。ラグが10万で売れるから、DPにしたら250」

「なるほど、8時間寝れば倍近く溜まるな」

「すまん」

「気にすんな。俺とお前の仲だろ。それに俺はなんも損してねえし」

「すまん」

「すまんすまんうるせえよ、すまん星人か」

「すまんインパクト打つ」

「あーっ! 許さねえかんな!」

「ぎゃはははは! 勝てばよかろうなのだァーッ!」

「帰るぞ」

「ごめんて」


スト6が終わったらメルカリの出品事務だ。

ぶっちゃけ中村がいるだけでDPは余裕が出る、問題は出品ペースだ。


「同じ商品50個も出すのやべーよな」

「間違いなくやべえ。しかも嵩張るラグ」

「うーん、やっぱクッションもぼちぼち出すか……」


とりあえずラグとクッションを10ずつ出した。ててーん、ててーん、と売れていく。


「めっちゃ人気あるな?」

「ダンジョン製家具ってセレブに人気なんだよ、クッションとか高い金出しても欲しがる」

「あ、クッション転売してる奴がいる」

「なになに、まじで?……うわ、50万て」

「こいつ一回買った奴だな。ブラリ入れて通報しよ」


中村が思いついた、と言う表情で提案してくる。


「ていうかもう50万で売ってよくね?」


しかし俺はそれには否定的だ。


「いや、俺はこの悪魔のクッションはお手頃価格で売りたい」

「その心は」

「俺の心が豊かになる」

「財布の問題じゃねえならしょーがねーなー」


理解のある友で助かる。

結局今日の出品はラグとクッション10個ずつでやめておいた。まとめていくつも出品すると発送する時にきつい。俺も、配送業者も。

というか、中村が泊まってくれるならDPの問題は解決する。後に残るのは発送待ちの商品だけだ。発送するには梱包がいる、そして梱包するのは今の時点で20商品ある。


「中村〜」

「梱包手伝えって言うんだろ、わかったよ」


いや、いい友達持ったな。


夕下がり、玄関にうずたかく積まれた荷物の山。

すでに業者に集荷依頼は出してあるので、これでひと段落だ。


「あー疲れた」

「お礼は夕飯でいいな」

「礼か? それ。元々出すつもりだったろうが」


まあな。

夕飯は焼きうどんである。そこそこ腹が膨れて、一度にたくさん作れて、ちょっと特別感ある。我ながらいいチョイスだと思う。


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