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8話

『まの!おなかすいた!』


ポテトの呼びかけで我に返った。今何時だ?

14時半。そう言えば昼を食べてない。遅めの昼飯にするか。


「んー。何食べる?」

『おいしいやつ!』

「シャルロッテにも聞いてみるかあ」


ぱたぱたと二階から降りて、居間にいるシャルロッテに聞いてみる。


「ご飯、どうする?」

「納豆ご飯とかどうです?」

「なっとうごはん」


うん、いいんじゃないか。ドラゴンにはなりそうもないし。


と言うわけで遅めの昼ごはんは納豆ごはんになった。

あまり混ぜずに食べるのが俺流。しかしポテトやクロは箸を持てない。そこで、ポテトとクロの分は本人に聞きながら混ぜることにした。


「まぜまぜ……まぜまぜ……」

『まのー。すとっぷー』

「はいよ。これでいいか?」


大変だったのはクロだ。

いくら混ぜてもストップの「わん」を言わない。

5分は混ぜたと思う。そこでようやく「わん」が出た。


「納豆、今後出さないかも」

『えー』

「わぅ……」


しょげた顔のクロ。でもお前のせいだからな。文句があるなら箸を持てる種族に変異してほしい。


- ぴろん -

- マスター【ポテト】が『納豆ご飯』を摂取しました -

- 【変異ツリー:和風毛玉(和風属性)】が解放されました -

- 和風属性変異可能性の開放により、和風属性家具・アーティファクトの設置が可能になりました -


和風かあ。じいさんばあさん向け家具を置けるようになるかな。

カタログを見てみる。【ダンジョン改装】を和風属性でフィルター。


【和風属性】いつでも美味しいお茶が出る急須(5DP・維持費1DP/日)

・効果:ほうじ茶が出る。いつでもちょっと熱め。


【和風属性】なんの変哲もない座布団(1DP・維持費0DP/日)

・効果:なんの効果もない座布団。縁側などにどうぞ。


【和風属性】和のテーブル(5DP・維持費0.5DP/日)

・効果:わ。或いはなごみ。設置したフロア付近へのリラックス効果がある。


【和風属性】和イファイ(20DP・維持費3DP/日)

・効果:いつでも10Gbps。あなたの家に安らぎの無線LAN環境を。


和イファイちょっと惹かれるぞ……pingはどうかな……でも技適は大丈夫かこれ……?


飲食店化するならばーんと、一階はほとんど客用スペースにしてしまおう、と言う計画はある。しかし、維持費もリフォーム費用もとなると大変だぞ。


『まのー。こわいかおしてるー』


いかん。深刻になってたか。


「ああ、すまんすまん。ダンジョンの維持費を考えてたらな」

『しょうじゃひつめつー。きにしなくてもいい』

「生者必滅……? 急だな」

『いのちあるものいつかかならずほろぶー』


ポテトがぽよんとはねる。


『けせらせらー。まの、わらってるほうがかっこいい』

「……そうか、そうだな」


俺はにこりと笑った。ポテトが尻尾を振る。


『まのー! 笑ったー!』


てちてちとシャルロッテの方に戻っていく。

うーん、ポテトにわからされるとはなあ。


そうだ、ケセラセラで行こう。これまでそう生きてきたじゃないか。


前庭に何か植えられないかな。一度コンクリートで埋めたけど、人を呼ぶならコンクリートとブロック塀は殺風景だ。

でも車でくるご老人だったら駐車スペースになってたほうがいいか? うーむ、わからん。


四季を楽しむ、よりは、ダンジョン産の不思議な家具で癒される、でいいんじゃないか?


柳瀬さんに電話をかけてみる。


「もしもし。真野ですけど」

「おお真野くん。どうした」

「うちに人を呼ぶ計画。縁側から植物が見えたほうがいいかなって」

「ふーむ。手間を考えずに言うならわしゃ見えたほうがいいがな。四季を感じるようにするには手入れが大変だぞ。ぼちぼちやる、と言う計画にしておいて、今は室内整備だけでいいんじゃないか」

「あと、茶を出すなら飲食店扱いになるかも、食品衛生法とか気にしなくちゃいけない、とかも言われました」

「リフォームは知り合いの大工を紹介してやろう。それでなんとかならんかね」

「何から何まで、ありがとうございます」

「最初から完璧である必要はないんだよ、真野くん。がんばれよ」


つー、つー。電話が切れた。


最初から完璧である必要はない、か。

できることをできるだけ。それでやっていこう。


とりあえず座布団5組と和のテーブルを出した。縁側に座布団二、仏間に和のテーブルと残りの座布団を置く。


これだけで人を招くための準備ができたような気がした。


「真野様」

「なあに、シャルロッテちゃん」


「何かあったら相談してくださいね?」

「ああ、だいたい解決したよ。ありがとう、気遣ってくれて」


にこりと微笑む。


「あっ……笑顔……てえてえ……」


読めねえ。グレーターデーモン読めねえ。


----


「おやつでも買うか。留守番頼むわ〜」

「行ってらっしゃいませー」

『おいしいの、よろしくね!』

「わん!」


シャルロッテとポテトとクロに見送られて、スーパーに向かう。普段使いの安売りスーパーではなく、例の成城石井のティラミスの売ってるスーパーだ。まあこっちも十分安いんだけどね。


スーパーを見て回っていると、制服の上にレザーメイルを着たJKがいた。高校はほどほどに近いのでJKがいることに不自然さはないが、レザーメイル?

思わず二度見したが、不審がられていないだろうか。真野さんは社会からの目が気になるお年頃である。


カゴの中はチラッと見えただけだが、おにぎりとペットボトルだった。あれで栄養補給してダンジョン探索に向かうんだろうか。世のJK、わからない。


そして、中村がいた。


「おー。中村」

「なんだ真野か」

「なんだとはなんだ」

「買い物してんだよ。見んな」

「ポテチ、唐揚げ、ビール、アイス……お前これ大丈夫か?」

「いんだよ探索者は。ダンジョンでカロリーが抜けてくから」

「ほんとかよ」

「そう言われている」

「うそくせー」

「お前はどうなんだよ。ポテチ、コーラ、ケーキ、駄菓子……中年男性の買い物じゃねえぞ」

「シャルロッテとポテトとクロが食うから問題ありませんー」


スイーツやファストフードは比較的安全っぽいしな。


「お前ちゃんと属性考えてやれよ。デブドラゴンとかになったら悲惨だぞ」

「その辺はちゃんと計算されてる。角度とか」

「角度の計算がされてるなら安心だな……」

「どこがだよ」

「お前から言ったんだろ」


わはは、と笑う。


「そんじゃ。次いつ来る?」

「んー。明日も行こうか」

「助かる。DPはいくらあってもいいからな」

「なんだ、使い道が出来たのか?」

「いや、お茶出そうと思ったら飲食店扱いになるから設備投資がな……」

「あー。大変だなお前も」

「いやまあ、やりがいはあるし」

「お? なんか悪いもんでも食ったか?」

「養ってる身で悪いもん食わせられるわけねえだろうが」

「いやお前なら拾い食いしてる可能性が……いてて」


蹴った。


「蹴るこたないだろ!」


レジの列が来た。


「じゃあそういうことで」

「じゃあな。シャルロッテちゃん泣かせるなよ」

「泣かすわけねえだろ」


軽口が心地よい。気楽に生きていたいもんだな。

レジを終え、うちに帰る。ぶろろろろ。


『まのー!おかえりー!』

「おう、ただいま。ケーキ買ったぞー」

『ケーキ!おいしい?』

「やすくておいしいやつだぞー」

『わーい!』

「わう!」


ポテトとクロが出迎えてくれた。

2個パックのやつを差し出してみせる。


『ちゃいろい』

「チョコレートケーキだ。こたつで食べような」

『はーい!』

「わう!」


犬にチョコレートダメじゃね?と思ったが、毛玉とダンジョンハウンドだからいいのだ。いいということにしておく。


----


チョコレートケーキを食ったらクロが倒れた。

ポテトのスイーツ属性が進歩したが、それは後回しだ。


「クロー!?」

『くろー!?』


しかしシャルロッテは慌てない。


「これ、変異の兆候ですよ」

「は?そうなの?」

「そうですね、成犬に一足飛び、ということはないと思います。幼生と成体の中間、ぐらいになると思いますよ」

「本当だな? 助かるんだな?」

「ええ、そこは間違いなく」

「よかった……」


見ればクロはぜいぜいと苦しそうだが、目に光はちゃんとある。

よしよしと撫でてやると、「くぅん」と返事をした。


「もどかしいな」

「これまでの行いで決まることなので、耐えてください。

あ、変異に巻き込まれて腕が吹っ飛ぶとかありますので、撫でるのはほどほどに」

「物騒だな変異!?」


- ぴろん -

- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を開始しました -

- 24時間後に変異が完了します -


「24時間後……」

「真野様はお仕事中ですね」

「……休もうかな」

「社会的立場が大事なのではなかったですか?」

「そうだけど! 心配だよ!」

「してもしょうがない心配というのもあります」


ピシャリと言われた。


「クロには私がついておりますので、真野様は日常をなんでもないようにお過ごしください」

「クロももう日常の一つだよ」

「2日たってないんですけど」

「一つだよ」


ゴリ押す。


「けれど、真野様にできることはありませんからね」

「何かないのか?」

「これっぽっちも。大人しく仕事に行って社会的地位を稼いできてください」

「そんなー」

『まの、まけた?』

「大人しく明日は仕事に行きます……」


そういうことになった。

夕飯はコンソメポトフにし、ポテトの家庭属性が進歩した。


----


翌日月曜、仕事中。

手持ち無沙汰な時に、geminiにダンジョンハウンドについて聞いてみた。


「ダンジョンハウンド。ダンジョン内でのみみられる、黒っぽい体毛で全身が覆われた、犬のようなモンスター。群れで行動することが多く、フェイント、威嚇を多用し、探索者に確実に傷を負わせる厄介なモンスターとして知られる」


かちかちとスクロールし、本来は賢く手強いモンスターである、との知見を得た。クロなんか普通の芝の子犬みたいなもんだけどな。


お昼はうどんを食べた。食べた気がしない。


そのあとGeminiの利用申請が山ほど来て、一瞬慌ただしくなった。そういえば新部署の開始が今日だったから、マネージャーがGemini使って効率化しようとか考えたらそうもなるか、とかを考えた。


《もしもし》

「うわあびっくりした!」

「どうした真野さん!?」

「あいやしつれい、突然頭の中に言葉が」

「大丈夫かい……疲れが出た?」

「念話だと思います……」


念じてみる。いけそう。


《もしもし?シャルロッテかな?》

《はい。クロの変異が終わりましたので、その報告です》

《マジで?どうなった?》

《それは帰ってからのお楽しみということで。ああ、悪い変異ではありませんでしたよ》

《そう?じゃあ楽しみにして帰るね》


そう思って念話を終わる。


「真野さーん。残業いける?」

「え。……いけますけど」

「悪いね。監査が入るから、サーバー室の片付け頼むよ」

「はーい」


三浦さんとサーバー室の片付けをして、なるはやで帰る。ぶろろろろ。


時刻は20時少し前。この玄関を開けると、変異したクロがいる。


「ただいまー」

「おかえりなさいませー」

「おう、おかえりー。


居間からシャルロッテの声が聞こえる。中村も居たみたいだ。


「クロも居間におりますよー」


襖をがらり。


「……?」


何も、変わってない?


ログを確認する。


- 真野卓也宅ダンジョンのダンジョンハウンド(幼生)A【クロ】が変異を完了しました -

- 【おうちハウンド(成長期)】になりました -


「おうちハウンド」

「はい、おうちハウンドです」

「何が変わったの?」

「戦闘能力がほぼなくなりました」

「むしろ元はあったの?」

「まあ変わってないとも言います」


「他は?」

「体の大きさが、ちょっと大きく」


言われてみれば大きくなってもしれない。でも、スフレチーズケーキクッションに丸まるクロの姿は、ほぼ誤差だ。


安心した。ゆっくり寝られそうだ。


『まのー!ごはんー!』


ご飯を食べてからだが。

あ、中村は帰れ。

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