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10話

中村が泊まった翌日、日曜日、トラックが来た。

家の前に止まり、業者さんがこっちに来る。

玄関はメルカリ発送用の荷物で埋まっているので、縁側で「こっちでーす」と声を出すと、テレビの箱が顔を出した。

業者さんが二人がかりで運ぶ。重いんだろうなあ。

ちなみに中村はまだ寝てる。


業者さんは梱包を剥いで設置までしてくれるらしい。


『ぎょうしゃさん、すごーい!ちからもち!』

「え、この子喋るんですか」

「モンスターなんで」

「はあ、確かに犬っぽく犬ではない」


ポテトが喋って業者さんが驚くなんて一幕もあった。


シャルロッテが現れて、業者さんが鼻の下を伸ばすなんて場面もあった。


「娘さんですか」

「いえ、モンスターです」

「はえー」


そして業者さんがクロを見て。


「犬ですか。……この子も?」

「はい、モンスターです」

「なかよし家族ですねえ」


家族と評されたのは、ちょっと嬉しかった。


業者さんは、テキパキと仕事を終えて帰っていった。プロの仕事だ。お茶を出す暇もなかったぜ。見てるだけでするする終わった、とも言う。


テレビの裏に回って配線を繋ぐ。と言ってもHDMIケーブルをぐさっと刺して、電源を刺したら終わりだ。ケーブルテレビ万歳。


65インチの大画面に電源が入る。アニメチャンネルでも流すか。

ぽち、とリモコンを操作すると、問題なくアニメが映った。異世界転生ものだった。


「街づくりかー。俺にはそんなたいそうなことできないなあ」

「あら、ダンジョンの維持ができたら、発展もしなければなりませんよ?」

「へ?」

「ダンジョンマスターの本能というべきか、ダンジョンを発展させるというのは義務なのです。マスターは今あまり言っておりませんが、ダンジョンを広くしたいという欲求はあるはずですよ」

「おい、それ本当かポテト」

『うん。ちかしつつくるー。だいめいきゅうにするー』


聞いてないぞ。言ってませんからね。そりゃそうだけど。


「地下室ってどうなるんだ?物理的に拡張しなきゃならんなら、建築法がうるさいと思うんだが」

「ああ、ダンジョンパワーで物理法則は無視されます。地下室は比喩で、別次元の空間につながりますよ」

「ダンジョン、なんでもありだな……」


ダンジョンですから、とシャルロッテが笑う。


「ダンジョンにこの世界の人間の理屈は通用しません。この世界のものではないですからね」

「おいグレーターデーモン、何を知ってる」

「やだあ真野様、シャルロッテって呼んでください♡」


シャルロッテがふざけて返す。何か知ってるのは確定だろう。けれど実際に聞くのが怖いので、追求しなかった。俺は真面目な顔で聞いた。


「シャルロッテ、聞いたら答えるんだな?」

「ええ、真野様が何を知っていて、何を知りたくないのか、分かりませんから」

「じゃあ一旦この話は終わりだ」

「はあい♡ ……お昼ご飯、なんにします?」

「ラーメンでも作るかなあ」

『らーめん! にんにくあぶらましからめ!』

「ポテト、二郎系はうちでは出せない」

『ちぇー』

「あとシャルロッテ、お前本当に俺がいない時何見せてるんだ?」

「黙秘権を行使します」

「質問したら答えるって言ったばっか!」


笑い声が広がる。まあ、なんとかなるだろ。


そして昼。中村が起きてきて、みんなになんの変哲もない醤油ラーメンを振る舞った。


『きゅーん。ちゃーしゅーうまうま』

「ちぢれ太麺がスープに絡んでとっても美味しいです」

「わん!」

「ラーメン屋には劣るが、うめえな」


好評で何より。シャルロッテの食レポもこなれてきた。女子アナウンサーになれるかもしれない。グレーターデーモンが?


そして食い終わったと同時に宅配業者の集荷が来た。

驚いてる。


「ちょっとした店ですね」

「ええ、まあ。ダンジョン産品の仕入れの目処がつきまして」


嘘は言ってない。

集荷が終わってDPを確認した。2000DP。

うお、多い。


「もういいぞ中村」

「シャルロッテちゃんとお喋りは!?」

「ねえよそんなもん」


シャルロッテがあははと笑う。

しょうがねえ、夕方までだぞと言うと、中村は泣いて喜んだ。そんなに?

その間俺はDPで家具を生成して、梱包して。

今日のノルマを終えたら、夕方になって中村は帰っていった。


「シャルロッテ、今週の日中同じことやっといてくれる?」

「いえ、私にDPを触る権限がないので。物があれば梱包はできるのですが」

『そしたらぼくがだすー』

「そうか、たのんだぞポテト」

『がんばるー!』


うまく回りそうだ。


そしてあっという間に1週間が経ち、メルカリ売り上げは500万を超えた。それでようやく大工さんにリフォーム、というか増築を頼むことができる。


「よろしくお願いします」

「おう、週明けから取り掛かる」

「工期はどのくらいになりそうですかね?」

「雪が降らなきゃ2週間でやってみせるさ」

「おお、頼もしい」

「それより、工事中の風呂と寝床どうすんだ」

「ホテルに」

「なら心配ねえな」


そう言うわけで、2週間ホテル暮らしである。

車で10分のところにビジネスホテルがあるので、遠慮なく利用する。


「2週間、ペット二匹と大人二人」

「かしこまりました。お部屋は608号室です」


すんなり取れた。ペット可のホテルでよかったぜ。

しかし一泊2万、2週間泊まると30万にもなる。うー。


『まのー』

「なんだポテト」

『すみかでると、むずむずするー』

「がうー」


ポテトだけじゃなく、クロも所在無げだ。


「がまんはできそうか?」

『まのがいうならー』

「えらいぞ」


二匹をわしゃわしゃ撫でると、表情が和らいだ気がする。

しかし我慢を強いらせることになったのはよくなかったな。でも建て増しは必要だったし、風呂は要るし。


そして608号室に入る。隙間の空いた二つのベッド。

今気づいたが、シャルロッテはスンとしてる。無表情に近い。


「シャルロッテ?」


話しかけると表情が戻った。なんなんだこの女。読めん。


「いえ、巣を離れるのは久々だなと」


なんだ、ポテトと一緒か。


「久々?」

「前のマスターとの別れを思い出して、つい」

「ああ、なるほどね」

「聞きますか?」

「いや、まだいいよ」

「そうですか」


シャルロッテがぽすんとベッドに座る。


「聞きたくないんですか?」

「今はまだ、話してもらえるほどじゃないと思ってる」

「……ふーん」


夜、ポテトは俺と寝たがり、クロはシャルロッテと寝たがった。ということでそれぞれのベッドに配分する。


『まのといっしょにねんねー!』


ぴょんぴょん跳ねる。落ち着くまで寝れそうにない。

撫でてやると落ち着くが、こんどは家じゃないことによるむずむずが気になる、と言い出す。

手のかからない子だと思っていたが、外に出るとそうでもないんだな。


ホテル生活、自分自身はそんなに気にならないのだが、とにかくポテトとシャルロッテ、クロが別環境に慣れてない。


夜寝れない。と思いきや朝起きられない。

食べ放題のビュッフェに難色を示す。というか俺の飯がいいらしい。あんなに気に入ってたマッキンはどうした。それとは話が別? 

そうかあ。結局ご飯は食べずにDPで凌ぐそう。い、維持費が。


2日目朝にはもう「かえりたい」とポテトがぐずり出した。撫でて撫でて撫でまくってようやく落ち着いた。仕事に行けやしない、行くけど。


「おはようございますー」

「おはよう」


三浦さんや同僚はもう来てる。みんな朝早いんだよな。


「リフォームって大変ですねえ」

「真野くん、家リフォームしてるの?」

「ええ。その間ホテル暮らしですよ」

「モンスター、調子崩したりしてない?」

「わかります? もうぐずったりで大変ですよ」

「頑張ってねえ」


仕事それ自体は10時にもならないうちに暇になる。

月末月初でもない限りは忙しさとは無縁だ。


なので、職場にいてもポテトやシャルロッテ、クロのことを考えてしまう。ホテルで寂しくしてないか。体調崩してないか。


仕事終わり、スフレチーズケーキクッションを取りに家に帰る。これ、ポテトもクロも気に入ってるから気休めにならないか? ホテルに持って行こう。


『くっしょん!』

「ばう!」


案の定、少しだが二匹は元気を取り戻した。やはり『じぶんのもの』があると落ち着くらしい。


あと、ポテトがコンビニ弁当に興味を示した。唐揚げを一個あげると『なげっとのほうがおいしい』とか言って、少し可愛くなかったが、食欲があることは嬉しい。

おうちの増築が終わったらいっぱいおうちご飯食べような。


週末、ホテル暮らしに絶対飽きてると思い、古城公園に連れていった。


ポテトとクロはもちろん、シャルロッテも明確に元気になった。モンスター的に、ホームダンジョン>よそのダンジョン>ダンジョンじゃないところ、っぽい。串焼きとかケバブとかめちゃくちゃ食べた。


人の来るダンジョン、というと古城公園はうちのモデルケースといってもいいかもしれない。まあ地味〜にアニメの聖地だったり、動物園があったり、神社があったり、真似できない要素も多いのだが。


真似できそうなところというか真似になるところは座る場所の存在だ。滞在時間を延長するための、ごく当たり前の措置。公園はベンチに座れる。うちは家だから、座ってくつろげる。


そういえば、と、屋台のおっちゃんに飲食営業許可の話を聞いてみた。食品衛生責任者がいるらしい。これは店舗型の飲食店でも同じだ。で、屋台営業はなまものが出せないが店舗型はなまものが出せる。これは大きな違いだ。まあでも、茶と個包装お菓子を出すだけならその情報はあんまり重要じゃない。


スマホをポチポチして食品衛生責任者の講習会の開催日程を調べた。なんと申込締切日があり、それを過ぎると飛び入りは不可らしい。なんてこった。

が、我が県は(いや、他の大多数の県もそうだろうけど)

eラーニングによって資格を得ることが可能だそうだ。webカメラがいるのが難点だが、これなら工事完了とほぼ同時に資格取得ができる。うおお俺はやるぞ。


というか、ノートパソコンがあればホテルで受けられる。買った。受けた。取った。カエサルか俺は。


で、次の問題。食品営業許可の新規申請には図面が必要だった。聞いてねえ。

大工さんに電話したら、「気にすんな、元から飲食店の営業許可用の図面も起こしてある」といわれた。有能オブ有能。俺は周りの人に助けられて生きている。


「真野様?焦ってはいけませんよ?」


シャルロッテの言葉。公園でスマホぽちぽちしまくってたからな、側から見て心配だったんだろう。


「ふー。ああ、そうだな」


家の増築まであと1週間、茶飲み場営業開始まで1ヶ月ちょっと。

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