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24話

三月八日。


朝、テレビを見ていた。

暴風警報が発令された。


電話が鳴る。ワンコールで取る。


「真野さんのお電話でしょうか?こちら射水市役所、防災・資産管理課ですが」

「避難所、開けます」

「話が早すぎません?」

「予感がありましたので。誘導はお任せしますね」

「ありがとうございます。県の保有するマイクロバスが輸送に出るはずです。用件のみとなりましたが、失礼いたします」


つー、つー。


ごうごうと風が唸っている。これ、うちに来るのも一苦労じゃないか。


「風の外套の出番だな」

「中村?」

「暴風でもパーティメンバーが影響を受けずに歩けるらしい。ダンジョンには意味がないが、こういう日に使えるんだな」

「……なるほど」


すごく都合がいいが、あるものは使わないとな。


「近隣住民で避難したい人がいないか聞いてきてくれ」

「おう」


中村が出て行った。外を見たのは一瞬だがすげえ風だ。

俺は家でテレビを流しっぱなしにしている。警報は出っぱなし。

L字帯が今吹いている風がただ事ではないと主張している。


『まのー……』

「がう……」


ポテトとクロが擦り寄ってくる。


「大丈夫だ、ポテト、クロ。ダンジョンは飛んでいったりしない」

『うん……』

「きゅーん……」


撫でてやる。落ち着いてはいるが、不安は消えないようだ。


一方でテレビの報道、一部地域で停電。送電線が飛翔物の接触で切断したらしい。おいおいおい、大事になってきたぞ……。


停電地区はうちの地区は含まれていない。

が、うちの地区に隣接する地区が含まれている。

ふむ、まずは農村環境改善センターに収容するだろうけど、

出番が来るときは遠くなさそうだ。


「シャルロッテ、食材って備蓄してる?」

「300人は無理ですよ?お米何キロ要ると思ってるんですか」


すると、中村が帰ってきた。数人のお年寄りを連れている。柳瀬さん夫妻もいる。


「いや、外すごいぞ。外套もすごいけど」

「おう真野くん。世話になるぞ」

「中村ー、避難所案内してあげて」

「あいよー。みなさん、こっちですー」


中村は避難誘導とかもできる。ダンジョンでない区域でもそういうことができる正規の資格持ちではないが、二級探索者はいろいろ行政からの要望もあるのだ。


すると、更に人が来た。


「真野さん! 来ちゃいました!」

「中島さん!? どうして!」

「真野さんのおうちが避難所になるって聞いて! 炊き出し、必要ですよね!?」

「歩いてくるなんて無茶して……」

「そんなに遠くないですから!」


いやでも1kmあるぞ。一般的な富山県民なら車に乗る距離だ。


「あと車できたら駐車スペース、ないですよね?」

「……まあはい。とにかく中へ」


それで中島さんを厨房にあげた。


「冷食ばっかですねえ」

「軽食どころのつもりでいましたから……」

「うん、炊き出しは今のところ諦めましょう。市からお米をいただければ話は違いますが」


あ。


「どうしました?」

「ダンジョンの品物に……ある!」


【食べ放題属性】たきたてごはんのおひつ(300DP)

効果:一日の間、いつでもたきたてごはんがよそえる。おにぎりにしてもよし、お茶漬けにしてもよし、そのままでも良し。300食分。


「これだぁ!」

「今どこから出しましたこのおひつ!?」

「説明はあとです!300食おにぎり作りますよ!」

「……わかりました!」


シャルロッテと、中島さんと、俺。塩にぎりを無心で作る。

その間にも中村の見回りによって人は来る。

避難所に順次入って貰っている。


風は弱まりそうにない。


----


おにぎりを作っていると、マイクロバスが来た、と中村が教えてくれた。

市による避難支援は順調に行われているらしい。そして、農村改善センターではキャパが足りなくなりつつある、とも読める。

とにもかくにも、おにぎり作りをシャルロッテと中島さんに任せて、マイクロバスに乗った人たちを迎え入れる。まずは20人ほどだろうか。


避難所にいる人の名簿を作る必要がある、と市の職員さんに言われた。そりゃそうだ、なんで気づかなかった。

パソコンはある、プリンタもある。問題は2階にあることだ。名前を聞いて入力するのに往復が必要になる。

紙とペンで避難者の皆さんに手書きしてもらって、あとで入力するしかない。


「民家にしか見えないが、ダンジョン?安全なのか?本当に?」という人もいた。市から認定を受けていることを説明して、納得して入ってもらう。


避難所運営、大変だ。避難した人の出すゴミのことも考えてなかった。ゴミはどうすれば、と言われて初めて気づいた。


停電地域の、オール電化の家の人が居た。途方に暮れていたところを市のマイクロバスで拾われたらしい。


「こういうとき大変ですね、オール電化」

「滅多にない経験をしたよ……温かいお茶、ありがとう」


急須は大活躍だ。冷える気温ではないが、温かい飲み物、だいじ。

怪我人、病人がいないかも聞いて回る。今のところいない。ウンディーネの出番はまだないらしい。


あと、いつのまにか避難所にポテトとクロがいた。子供に構われている。抱っこされて胴が伸びてる。


「もふもふー!」

「わんちゃんどこのわんちゃん?」

『ぼくはポテトだよ!』

「「しゃべった!」」

「わふ!」

「わんちゃんはしゃべらないのかあ」

「ふつーのわんちゃんなんだね」

「くぅん……」


一応おうちハウンドはふつーではないのだが、クロは否定の言葉を持たない。


「ポテトくん?ポテトちゃん?」

『どっちでもいいよ!』

「じゃあポテトちゃん!」

「えー!ポテトくんだよ!」

『どっちでもよくなかったかも……』


ほほえましいやりとりだ。子供たちの避難生活が辛気臭いものではなく、なんか普段と違って面白かった、ぐらいの思い出になればいいな。


……そして、疲れた。気疲れだな、これは。人が多い、というのはやっぱり合わない。嫌いというわけではないが、苦手だ。なんで人を呼び込まないといけないんだろう、ダンジョン。


『まのー』

「なんだ、ポテト」

『さいがいでたいへんだけど、ひと、いっぱいきたね』

「そうだな」

『いつもこのぐらいくるといいなっておもう』

「そうかあ」

『そうなんです』

「がんばるよ」


ポテトのもふもふした毛をわしゃわしゃ撫でた。


『くすぐったい』

「こちょこちょ」

『あはははは! まの! いじわる!』

「ふー。さて、風呂も入れるようにするか」

『まだおひるだよ?』

「生活時間帯が違う人もいるからね」

『そういうものかー』


男湯と女湯はちゃんと分けて作った。

ので、浴槽に湯を張って告知すればいい。


「ポテト、アナウンスってできるのか?」

『ぼくやるー』


やるんかい。


『おふろのじゅんびができました。おとこのひとはおとこゆ、おんなのひとはおんなゆにはいってください。しゃんぷー、りんす、ぼでぃそーぷはありますが、きがえはありません。ごめんね』

「あ、まて、ポテト。スウェットだけでいいなら300人分900DPで出せる」


……なんか尋常じゃない量のDPが溜まりつつあるんだよな。ダンジョン内に人がいるから判定だろうが。


『ごめんなさい、したぎはないけど、きがえあります。すうぇっときぼうしゃはまのまでもうしでてください。てわたしします』

「よし。よくできたな、ポテト」


撫でてやる。目を細めてうれしそう。


『えへへー』


しばらくそうやってなでなでしていると、避難民と思しきひとが話しかけてきた。みたことのない顔だ。


「真野さんはあなたですか!?」

「はい、私ですが……」

「妻が倒れてしまって……!」

「救急に連絡は?」

「しました。でもこの風で救急車は出せないって……」

「そりゃあ……」


マイクロバスの運行、相当無理してるんだなと理解する。そして、出番が来たぞ、ウンディーネ。


ごぽり、と床から水が染み出す。その水がみるみるうちに人型に変わっていく。

え、階層ワープできるのきみ。


「わ、わ、わ、モンスター!?」

「ダンジョンだからモンスターくらいいますよ」

「それは、そうなんですが、え、襲ったりしませんか?」

「大丈夫です」


さらに喋るなんてなったら大ごとになりそうだな。


「部屋はどっちですか?」

「まさか、モンスターを連れていくんですか!?」

「いや、こいつ治療ができるんですよ。倒れるくらいだから重症だと思います。急ぎましょう」

「……こっちです!」


先導されて、ウンディーネと二人、ついて行く。

暫定的につけた部屋番号、206の部屋だった。


「お母さん!マナカは大丈夫!?」

「サトル!その人は?」

「管理者さんと、モンスター!モンスターは治療ができるって!」

「治療!?あんたそんなもん信じていいのかい!?」

「マナカのためならモンスターに頼るくらい安いもんだよ!」


若い夫婦と母親で避難か。仲良いんだな。


「ウンディーネ、やれるか?」


こくりと頷いて、ウンディーネが倒れている女性に近づく。


母親らしきおばさん(多分俺と同年代だ)は警戒しているが、息子と思しき旦那さんが止めている。


ぽわわ。治療のエフェクトだ。


「終わりです。環境ストレスによる疲労ですねぇ」

「「しゃべった」」

「しゃべりますよウンディーネなんですから。あ、精霊見るの初めてですか?」


軽口。


「あと、おめでたですよ。たぶん1ヶ月目だから、わからなかったと思いますけど。これからは労(いたわ)ってあげてください」

「「え」」


……そうか、三人じゃなくて四人で避難してたんだな。


「では、これで」

「あの、ありがとうございました!」

「なんとお礼を言ったらいいか……」


「困ったときはお互い様、ということで」


そうして、部屋を出た。

ふー。


「ウンディーネ、ありがとう」

「このぐらいお安い御用ですよぉ。お礼がいただけるなら、身体で払っていただけますか?」

「そーゆーサービスはしてないの」

「ちぇっ、ざんねん」


そんなこともあった。

結局今日、230人がうちに避難してきた。


----


「ふう」


夜。それぞれの世帯で、個室が完備されている。泣く声、怒鳴り声は聞こえてこない。冷え込みは床暖房でカバー。


「なんとかなった、かなあ」

「なんとかどころじゃないですよ」


市役所の二口さんだ。


「あれ、残ってたんですか」

「市役所職員は災害の時交代で避難所に詰めるんですよ、意見要望の窓口になるために」

「知らなかった」

「教えませんからね」

「ははは」


笑って、二口さんの言葉を待つ。


「個室、床暖房、風呂、人数分の寝具、着替え、おにぎり。普通の避難所では、賄えませんでした」

「いえいえ」

「ただ、一方で、本来の避難所にはあるものがありません。防災ベスト、消毒用品、事務用品などなど。これは市の予算で手配します」

「どうもありがとうございます」

「……避難所としては優れた場所ですが、他の形で活用することは考えておられますか?」

「うーん。ホテルにできればいいんですけどね」


宿泊用の布団が山ほどあるからな。活用したい。


「地下ですからね。火災時と採光を考慮すると、宿泊業の営業許可はとても出せません」

「なるほど」

「他の用途なら市としても応援できるのですが」

「うーん、じゃあ、個室でなんらかを練習する部屋なんてどうですか。防音はしっかりしてますし。地下体育館みたいな扱いで。利用料は1時間100円とかで。

「なるほど。市でも検討してみます」

「ありがとうございます!」


二口さんはそれで足早に去っていった。やることが山ほどあるんだろう。

それで、避難所スペースの廊下を歩いた。静かだ。

静かだが、人はいる。DPの数字が、静かに増えている。


- ぴろん -

- 非探索者成人のDP効率はおよそ5分1DPです -

- 非探索者小児のDP効率はおよそ10分1DPです -

- 非探索者高齢者のDP効率はおよそ10分1DPです -


母屋に戻る。中島さんは従業員室で寝てる。昼夜のおにぎり作り、ありがとうございます。


中村とシャルロッテはまだ起きてた。


「おう。おつかれさま」

「風、予報では明日には注意報になるそうです。ただ、電気復旧はまだ見通しが立たないと」

「そうか。シャルロッテも中村も、ありがとう」

「真野様のお役に立てて良かったです」

「なんかお礼くれよ。ガチャでいいぞ」


中村はガチャ廃人になってしまわれた。悲しいが無視しよう。


「ポテトとクロは?」

「二階で寝てます。子供にもみくちゃにされた、なんて言ってましたよ」

「ははは、ポテトもクロもかわいいからな」

「真野は寝ないのか?」

「いや。先に寝るけど」


とすとすと階段を登る。ポテトとクロは丸まって寝てる。

寝顔は楽しそうだ。いい夢見てんのかな。


俺も疲れた。おやすみ。


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