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第4章 ④

 神社に到着すると、とっくに祭りが始まっていた。

 結局、悠人と彼女は史料の精査に時間がかかり過ぎて、気が付いたころには昼過ぎになっていた。

 普段は人がほとんどいない境内だけど、今日は町の全住民くらいの人が集まっているかと思うほどだった。

 屋台では威勢のいい声が聞こえていて、いろんな匂いが漂ってくる。

 実に祭りらしい情景だ。

 少しでもいいから彼女と周って楽しみたい。しかし今はそれらに構っている暇はない。彼女の希死念慮が解決させるのが先だ。

「あぁ、せっかくのデートがまたまた台無しだ」

「また後でゆっくり周ろう」

 考えていたことが口に出ていたようで、彼女が相槌をうつ。恥ずかしさで赤面しそうだった。

 そうだ。全部が解決してからゆっくりと周ろう。

 悠人と彼女は、人々の隙間を縫うように歩いていく。

「結構危ないと思うけど、ついてくる?」

「もちろん」

 悠人の問いかけに、彼女は迷うことなく言い切る。

 彼女の答えは分かっていた。それに1人にして置いていくのも、それほど変わらない。

 それでも悠人は聞かずにはいられなかった。

 ここから先は、それくらいに危険だ。

 すると見知った顔に遭遇する。

「康太!」

「おう、悠人か」

 康太は段ボールを二つ抱えて、慌ただしそうにしていた。

 康太には珍しく疲労困憊といった様子で汗を流している。

「忙しそうだな」

「あぁ、マジでぶっ倒れそうだ。一応主催者側だからな」

「なぁ、シンを見かけなかったか?」

「シン? そういえば本殿の裏で見かけたけど」

「分かった」

 悠人は彼女の手を引いて足早に本殿に向かう。

「おい悠人、手伝うよ」

振り返ると康太は抱えていた段ボールをその場に置いて、手の平をパンパンと払っていた。

「何か分からないけど、只ならぬ感じだからな」

「サボりたいだけだろ」

 巻き込みたくはないけれど、断って簡単に引き下がるような奴じゃない。彼女にも苦言を呈されそうだ。

「あぁ、ありがと」

 悠人は苦笑しながら、承諾する。

「それなら一つ頼みがある」

 悠人はそう言うと、康太に耳打ちする。

「……マジか」

 康太は困惑しながらもすぐに「分かった」といって駆けていった。

 それから人混みをかき分けて本殿の裏に向かう。

 木の葉と湿った土を踏みしめる。木陰になっているから、ずいぶんとひんやりとしていた。

 それに祭りの騒がしさが遠くなって閑散としている。まるで別の世界かのようだった。

 そして本殿の軒下には見覚えのある一匹の茶トラ猫が丸まって寝ころんでいた。

 悠人はそれに近づいていき、声をかける。

「……シン」

「……なんだ、小僧か」

 シンは片目を開いて、悠人を確認する。

「一つ、聞きたいことがあるんだけどいい?」

「どうした?」

 そう言うとシンは前足をぴんと前に伸ばして、お尻を持ち上げ、大きく伸びをする。

「どうしてシンは、彼女の家の様子を把握している風に装ったの?」

「……どういうことだ?」

「シンは最初に言っていた『家では祖父母がいるから何かあっても対応できる。』って」

「あぁ、確かに言ったな」

「彼女は僕以外に希死念慮のことを話していないと言っていたし、彼女もおじいさんも家の中では警戒していなかった。外では一瞬の隙でも見逃さない怨霊が、彼女の家で行動を起こさないのは不自然だ。逆にシンがそこまで無警戒なのもおかしい」

 シンは耳をピクリと動かす。

「本当に彼女に死なれて困るはずなら、家の中にもついていって警戒するはずだ。それなのに怨霊が襲ってこないのを知っているかのように無警戒だった。シンにも見えないはずなのに。いや、神様と怨霊は近しい存在だ。そもそも見えないわけがない」

 悠人はゆっくりと自分の発言を確かめるように話す。

「それに彼女はおじいさんと2人暮らしだ。祖母はいない。なぜ祖父母と言ったんだ? それすら知らないってことは、彼女の家に入るどころか近づいたことすらないんじゃないか?」

 どうしてもっと早く気づかなかったのだろうか。

「近づけなかったんだろ。畑の動物除けがあったから」

 この仮説が真実なら、説明がつく。

 彼女が家で怨霊に襲われないのも、シンが嘘をついた訳も。それ以外のことも全部。

 悠人は大きく息を吸い込んだ。彼女の手をもう一度強く握りしめる。不安にさせないように。

「何が言いたい、小僧」

「お前が彼女を殺そうとしてるんだろ。シン」

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