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第4章 ②

 それからは悶々としながら、彼女のことばかり考えて過ごした。

 過去の言動を思い返しては、自暴自棄になりそうだった。

 考えないようにしたがどうしても止められず、結局彼女が起こしに来た6時ごろまで続いた。

「おはよう。眠れた?」

 彼女がふすまを開けて顔を覗かせる。

「うん。おかげさまで」

 悠人は咄嗟に伏し目がちになった。腫れた瞼を見せれば、ウソがばれてしまう。しかしそれ以上に彼女の顔が見られなかった。

 これではまるで、出逢った頃のようだ。

 これは畏怖。

 だけど自分に向き合わずに理解できない感情に覆われた状態で彼女を恐れていた以前のものとは別種だ。

 彼女のあらゆる部分を意識し過ぎてしまう気恥ずかしさ。好意がバレることと、それを拒否されるかもしれないという畏怖だ。

 後者の方が心臓に悪い。まるで耳の真横で鼓動しているかのようだ。

「ごめんね。おじいちゃんと暮らしているから、この時間に起きちゃうんだよね」

「大丈夫。いつももっと早いから」

「怪我は大丈夫だった?」

 彼女に聞かれて、ようやく自分が怪我をしていたことに気が付いた。

 雨の中で蹴られ平手打ちをされ続けたことなんて、今の悠人にとっては微少な出来事だ。

「え、う、うん」

 悠人は適当に自分の身体を確認して、曖昧な返事をする。

 とりあえず痛みはなかった。

「そう。よかった。悠人くんもやり返せばよかったのに」

 無表情だから冗談なのか本気なのか判別ができない。だけど一瞬口角が下がったところを見ると、本気なのかもしれない。

 そんな細かいところに気が付いたことで、彼女を意識をし過ぎて変なところに目を向けてしまっていることを理解した。悠人は勝手に自己嫌悪に陥って、再び目を伏せる。

「夏祭りって何時からだっけ?」

「屋台とかはお昼からやってるよ。メインのイベントとかは夕方からだけどね」

 康太から聞いた情報だから間違いない。

「そっか〜。せっかくだしお昼から行こうか」

 彼女は楽しそうに話しかけてくる。心臓の鼓動が彼女に聞こえないか心配になった。

 それよりもこの精神状態で祭りに行けるのか?

 耐えられる気がしない。

「浴衣着ようかな〜。どう思う?」

「……うん、いいと思う」

 動揺する気持ちを抑えて、冷静に応える。

 想像してしまう自分が嫌だった。もっと気の利いた返しができなかった自分がもっと嫌だった。

 彼女の言葉一つ一つが、悠人を激しく困惑させた。

「金魚掬って、花火見て、目を離した隙にナンパされて助けてもらうんだ〜」

 彼女は宙を見上げながら、妄想を繰り広げる。

 というか最後のはいいのか?

 あまり妄想すべきではない気がする。確かにお約束ではあるけれど。

 ナンパはともかく、祭りの間でも希死念慮に襲われる可能性はある。

「大丈夫。目は離さないから」

 悠人が気を引き締めてそう言うと、彼女は笑みをさらに深めた。

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