表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

第3章 ⑧

 心の中がぐちゃぐちゃで整理がつかなかった。名前を付けられないような感情と思考が、決壊したダムの水のような勢いで溢れてきた。

 嬉しいのか、悲しいのか、辛いのか、幸せなのか……。悠人は何一つ判らなかった。

 理解しようと、自分の気持ちを汲み取ろうとすれば、たちまちその勢いに呑まれてしまう気がした。それをコントロールできるほどに器用な技術は持ち合わせていなかった。

 制御できない感情は、涙となって表出した。我慢しようとしたが駄目だった。静かに流れていた涙は、やがて嗚咽に変わる。雨の音がそれをかき消してくれることを期待したが、無理だったらしい。

「泣いて、いいんだよ」

 いつの間にか、彼女は傘を持って立ち止まってくれていた。

 それからは瞼が腫れるほど泣いて、もう雨で濡れたのか涙で濡れたのか判らなくなった。

 涙が止まったのは、全身の水分が出切ったかと思うほどに泣いた後だった。

「ありがと。送ってくよ」

 彼女から傘を受け取って歩き出す。

 雨で濡れている状態で、長時間待ってもらうわけにはいかなかった。

「涙って哀しいときだけじゃなくて、感情を解放させる役割もあるんだって」

 何故か彼女は豆知識を披露する。

 最後に泣いたのはいつだっただろうか。悠人は思い出せる限り記憶をさかのぼったが、思い当たるものが無かった。

 相変わらず感情の整理はついていないが、溢れ出てきたものは、すべて涙となって流れた気がする。

 どうやら彼女の豆知識は信憑性が高そうだ。

「母さんのこと、気づいてたの?」

「知らなかったし驚いたよ。だけど何となくそんな気はしてた」

 悠人が気になっていたことを尋ねると、彼女は優しく微笑んだ。

「悠人くんは自分のことなんて考えないで、誰かの為に犠牲になろうとする人だから」

「うん、ごめん」

 悠人は弁明のしようがなくて、ただ謝る。

「謝らなくていいよ」

「でも、デートがこの有様だし……」

「うーん。そうだな~」

 彼女は人差し指を口元に当てて、考えるしぐさをする。

 それからクスッと笑って、悠人に告げる。

「明日の祭りも一緒に行こうよ」

「……うん。そうしよう」

 悠人は戸惑いながらも、すんなりと彼女の言葉を受け入れる。何故だか不思議と素直になれた。

「あと私からも一つ質問していい?」

「え、うん」

「悠人くんって、私の自殺の原因について何か知ってるんじゃない?」

「……っ!」

 突然の指摘に絶句する。

 彼女は悠人の反応で察したのか「やっぱりね」と呟いた。

「な、なんで?」

「さっきと一緒の理由。悠人くんなら、私に言わずに解決しようとするでしょ」

 彼女はまるで犯人を言い当てた探偵のように、にんまりとする。

「うん。少し知ってる」

 直球で聞かれたら、誤魔化せない。悠人は観念して白状する。

「でも今は話せない。仮定の段階だし、判らないことも多い。だけど自分1人で解決しようとしてるわけじゃない。言える時になったら言うよ。信じてほしい」

「分かった。でもできることがあったら言って」

 悠人の言葉に、彼女は納得したように頷く。

 緊張感から解放されたからなのか、クシュンッとクシャミが出る。

「今日はウチに泊まっていきなよ。また家まで往復するの大変でしょ」

 彼女が苦笑混じりに提案する。

「え、いや、さすがにそれは……」

「明日の祭りに行けなくなったらヤダ」

 彼女は珍しく眉を顰めて、不満げな表情を浮かべる。そんな顔されたら断れない。

「わ、わかった」

 一度解放された緊張感が、また襲ってくる。それでも悪い気はしなかった。

 もう今さら濡れることなんて気にしないのに、2人で傘の下で寄り添って歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ