52話 藤野 玄人、特訓します。②
「い、いや〜……お手柔らかに」
俺がそう呟いた時には、校長先生はすでに俺の目の前に立っていた。
「っ!《けいし」
「遅いぞ」
とっさに剣を盾に変えようとしたが、それよりも早く腹に一発叩き込まれた。
「ぐっ」
「もういっちょ」
次は、頭の右側に思い衝撃。
「がっ」
多分、俺は飛ばされたんだろう。目を開けて体勢を整えると、少し遠くに校長先生の姿があった。
「ほら、さっさと武器を構えろ!たとえ一瞬でも、敵は待ってくれんぞ!」
彼女はそう言うなり、俺に向かって突っ込んできた。
「《形質変化》!」
俺は、今度こそ剣を盾に変化させ、前に突き出す。
ガンッッ!
「ぐぅっ……」
「ほぅ……」
校長先生の右手と俺の盾がぶつかった瞬間、盾を持つ両手が痺れる。
俺は追撃を避けるため、一度後ろに飛んで距離を取ろうとするが……
「自分の思う通りになると思っちゃいかんぞ?」
距離は変わらず、当然離れることができると思っていた俺は気を抜いていたので、腹に右ストレートをいとも容易く入れられた。
「ぐがっ」
「さて、次は空中で体勢を整えてみろ」
「ぐあっ」
俺は、地面に着かずに真上へ蹴り飛ばされる。
「ほら、しっかりと四肢を意識しろ!空中でも地上とできることは変わらん!」
いや、変わんねえのはあんただけだよ。
頭の中で全く別のことを考えた瞬間、校長先生に睨まれた気がしたので、ちゃんと四肢に意識をやる。
えーっと……今、頭が下で落ちてる……落ちてる?
「……うおぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お、落ち着け、まず、足を下に持ってきて、頭を上に!
「んえ?」
恐らく、ちょうど体が地面に着くタイミングで体勢を変えたからだろう。俺は地面を蹴り、前傾姿勢で校長先生の方へと向かう形になっていた。
「おお、やればできるじゃないか」
いや、たまたまっす。だから、その期待に満ちた目で見ないで?
「なら、もう一回だ!」
その声と同時に、俺は宙に浮き上がる。わーい。あ、言っとくけど、こんなに殴られて蹴られて、痛くないわけないからな。
さっきの、もう一回やってみるか。偶然、コツが掴めた気がしなくもないし。
えーっと、最後には前傾姿勢になるように……頭が斜め上か。
「よっ……」
お、成功した。
「流石だ、吸収が早いな。なら、次こそ眼を慣らせ」
俺が着地した瞬間、正面から拳が突き出された。
「ぐべっ」
その拳は、俺の顔面に命中、俺は後ろに仰け反る。
「ほら!体勢を整えろ!」
その声に、俺は一瞬失いかけていた意識を取り戻し、バク転で体勢を整えた。
「そうだ。それを、反射のようにできるようにしろ。もう一回!」
「ぐべっ」
再び、バク転。それから、右ストレート。また、バク転。
それを十数回繰り返したところで、校長先生の拳がやっと見えるようになってきた。
「ぐべっ……」
俺はバク転のスピードを遅め、しっかりと拳を視認する。そしてーー
「ここっ!」
頭を下げればぶつかりませんっ!
「よく見た。だが、攻撃が一発とは思うなよ?」
「ぐはっ」
しゃがんだ俺の腹に、校長先生のつま先が刺さる。
そしてそのまま、俺の体は宙に浮いた。今回、浮きすぎでは?
「ぐっ……」
腹の痛みに耐えながら、体勢を戻す。
「うむ、いい感じだ!このまま続けるぞ!」
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