51話 藤野 玄人、特訓します。①
「とりあえず、外に出ようか」
そう言って連れていかれたのは、運動場のど真ん中。
「こ、ここで何をするんですか?」
「うむ。まずは、私と……」
瞬間、危機を感じて膝を曲げる。
「戦ってもらおうかっ!」
正面から繰り出される右ストレートを、曲げていた膝を伸ばして地面を蹴り、左に飛ぶことで避ける。
「い、いきなりかよっ……《れいぞ」
「させんっ!」
迫り来るは、回し蹴り。腕を振り抜いた勢いをそのままに、左足、右足の順で地面を踏み、左脚で俺の横腹を蹴り飛ばす。
「ぐはっ……」
その攻撃によって、俺は数メートル転がった。
「ふむ……やはり、スキル発動までにタイムラグがある。目指すべきは、タイムラグをなくす……いや、いっそスキル名を言わなくても発動できるようにするか……おっと、失礼。ほら、こい」
俺が立ち上がったのを見て、校長先生は人差し指と中指をクイクイッ、と曲げた。
……挑発してくれるじゃないか。いいよ、乗ってやる。
「《レフォースΔ》バイーーテンッ!」
テン、というのと同時に俺は地面を蹴る。
「ほお、なかなか速いな……」
「はあっ!」
一瞬で間合いを詰め、低い体勢から、腹部に渾身の右ストレートを叩き込んだ……が。
「とはいえ、力がこもっていないぞ?やり直しだ」
校長先生は、人差し指一本で俺の拳を受け止め、押し返してきた。
「うおっ!?」
たったそれだけで、俺は二、三メートル退けられる。
くっそ、どうする……殴るのがダメなら……剣でいくか。
「《れいぞ」
「だから、やらせんて」
「ぐっは……」
気づくと、視界は青い空で満たされていた。文字通り右も左も分からず、地面に背中を削られる。
「しっかり相手を見ないと、瞬殺されるぞ?」
そう言われ、上体を上げようとして……
「ぐっ」
指一本で、それを止められた。
「ぐぐぐぐぐ……」
「ほら、もっと抵抗してみろ」
「ぐあっ」
眉間の下のへこみをクイッと押され、俺は再び数メートル飛ばされる。
また抑えられてはいけないので、押された勢いを活かしてバク転をし、体勢を整える。
「お……少しは学んだか……じゃあ」
直後、腹部に衝撃。
「次は、目を慣れさせようか」
「ぐほっ……」
ああ、俺は今、空を飛んでるよ……
痛みのせいで落下体勢を整えられず、肩から地面に突っ込んだ。痛いよ。
「ほらほら、さっさと立て!」
校長先生は俺の首根っこを掴み、ぽいっと放る。
「ぃでっ」
「まったく……気合いだ!根性だ!立て立て!」
いや、あんたのせいであちこち痛いんだよ……
と、頭の中で愚痴りながら立ち上がる。
「うおわっ」
「あっ」
ふと地面に視線を落とすと、靴紐がほどけていたので結ぼうと思ってかがんだところ、頭上を校長先生の拳が通り過ぎていった。
避けられるとは思っていなかったようで、彼女はそのまますってんころりん。
「ぶふっ……《冷蔵庫》」
笑うのをこらえながら《冷蔵庫》を顕現し、杖を剣に変化させる。いや、笑ってないからね。
「おい!わら、笑うなよっ!」
「わ、笑ってないっす」
俺が一生懸命笑いをこらえながらそう答えると、何故だか周囲から『ゴゴゴゴゴ……』と、音が聞こえる気がした。
「……いいだろう、死ぬくらいまでシゴいてやる」
こうして、俺の訓練が始まった。
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