25話 藤野 玄人、トーナメントしました。⑧
「づっ!」
試合開始の合図と同時に、デウキスーー対戦相手だーーが、剣を抜いて刺突してくる。その攻撃はとても目で追えるものではなく、俺は横腹にくらってしまう。
一瞬遅れて痛みの方に視線を向けるも、そこには誰もいなーー
「ぐはっ」
背中に衝撃。気づくと、目の前は地面だった。恐らく、蹴り飛ばされたんだろう。
「くっそ……」
痛みを我慢して、なんとか起き上がる。
「《冷蔵庫》……」
杖を取り出し、盾に変化させる。
ガンッ、と盾に衝撃。どうやら、運良く防御できたようだ。
盾の向こうには、長身の男性が見えた。次の瞬間には、すでにいない。
まずいな。敵が見えないと、どうしようもない。…………位置が分かればいいのか。なら。
「《アイス・ヴァルエ》」
場内全体に届くように、波紋を広がらせる。すると、右から左へと、波が立つように氷が出来ていく。
そして、その波はどんどん近づいてきた。
「《形質変化》っ!」
盾を剣に変化させて、その波に正面から突っ込む。ここでカウンターを狙わないと。
そう思ったが、俺は全く別の策を思いつく。
ーーこれ、波紋強化して凍らせれば、視認できるくらいには鈍くなるだろ。
俺はすぐさま作戦を変え、剣を杖に変化、そこから魔力をたくさん流す。
さあ、これでどうだ。
そして、現れた。
俺の前方三十センチ程の所に、剣の切っ先が。
「……あっぶねえ」
俺はすぐさま後ろに飛び退く。
「…………っ」
デウキスは、氷を割ろうと体を動かす。
「させるかっ!《アイス・ヴァルエ》!」
それを阻害するために、再び波紋を飛ばす。
「…………ヅぁ」
だが、あと少しのところで避けられてしまった。
「がアッ!」
デウキスが、地面めがけて剣を振り下ろす。すると、剣の軌道は空気中で形を取り、俺めがけて一直線に飛んできた。
回避……間に合わない!
「《形質変化》っ!」
斬撃が盾に衝突する。その衝撃で、俺の上体は後ろにそらされる。
「くっ…………」
すぐに体勢を整えようとする。が。
「なっ……ぐっ!」
斬撃は目くらましか。デウキスは斬撃に隠れ、俺に近づいていたようで、防御した俺に即座に追撃。
俺は間一髪で頭への直撃は防いだものの、代わりに右肩にその攻撃をくらってしまう。
そこから、再び追撃。
「くっそ!」
横薙ぎにされた剣を、盾で受ける。
「ふっ!」
そして、盾の四隅を変形させて剣を搦めとる。そしてそのまま、身体の方まで……
「ぐっ……はあ゛っ……」
さっきまで全く痛まなかった傷が、急に痛み始める。ズキズキと、急激に俺の体力を奪っていく。
『おーっとぉ!?どうしたのでしょうか、藤野選手!いきなりうずくまってしまいました!』
『うむ……デウキス選手の剣に毒が仕込まれていたか……それともどこかのタイミングで魔法を使ったか……』
『しかし、後者なら詠唱があってもいいのでは?』
『確かにな……なら、スキルか』
『その二択ですねぇ……校長はどちらだと思いますか?』
『わからんな。どっちも可能性がある』
『そうですねぇ……さあ、藤野選手はここからどうするのかっ!』
くっ……痛覚が強すぎて動けない……
「ふっ」
目の前には、デウキス。そして、振り下ろされる剣。
……ここで負け、か。
そう、認めようと思った。けど。
「ぐあああぁぁぁぁ!!」
いきなり痛くなって転がらざるを得なかった。結果、剣を避けた。
「…………ぅぅ」
痛みを感じながら、呻き声の方に視線を向けると、デウキスが地面から剣を引き抜こうとしている。
だが、抜けなくて困っているようだ。
まあ、痛すぎて動けないからそれを見たところでどうにも出来ないんだが。回復魔法とか使えないかなぁ……
「ぐっ…………あっ」
知ってるわ、回復魔法。えっと、なんだっけ……たしか……
「ふぅ……ぐぅ……神よ、神。加護持って……命とせよ。聖魔法…………『サイン・メイテ』」
すると、傷が癒えていく。温かみを、暖かみを感じる。
「ふぅ…………」
すごいな、魔法。これでもう、動けそうだ。
『え、えーーっと……これは?』
『こ、これは驚いたな。藤野選手は聖魔法を使えるのか……』
『ええ……《形質変化》の連発といい、あの聖魔法といい……彼は何者なんでしょうか……』
「いや、それだけではないな。彼はうずくまってから短時間であの対処法を導き出した。頭も切れるんだろう』
実況が聞こえてきた。
ん?おれ、褒められてるのか。やったぜ。
….と、考えていると、デウキスも剣を抜いたようで、こっちを睨みつけている。いや、剣が地面に刺さったのって、俺悪くないんだけど……
「さて、どうするか……」
まず、あいつは見えなくなる。そして、そこから放たれる攻撃。それをくらってしまうと、さっきみたいに毒か何かが入ってくるだろう。
つまり、相手の攻撃は全て避けて、俺は攻撃を当てるわけだ。まあ、肉を切らせて骨を断つみたいなこともできるといえばできるが……次の試合も考えると、それはしたくな……
いない。既に、デウキスは居なかった。
そりゃそうか、相手が待ってくれるはずない。
「どっからくる……?」
全方位からくる可能性があると、どこを守ればいいかわかんねえな……あ、全方位守ればいいか。
そう結論付けた俺は、盾を俺にピッタリと貼り付けるように変形させて、だんだんドーム状にする。
「んで、このまま広げていけば押しつぶせるか?」
そう言った矢先、前方に違和感。
「そこに居たか」
俺はそこに意識を集中させ、変化させる。
「ふぅーー……」
棘を作って、それを刺して戦闘不能にする作戦だ。
「いけっ!」
デウキスがいるであろう所へ、棘を延ばす。……が、手応えが無い。
「おいおい……どこ行ったんだよ……」
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