26話 藤野 玄人、トーナメントしました。⑨
「おいおい……どこ行ったんだよ……」
違和感はあるのに、棘を刺しても手応えが無い。こういう時に魔力感知みたいなのできたら楽なんだが……
「……《自動翻訳》みたいに、派生するってこともないか……ん?」
そこにあった違和感が、無くなっている。
「マジでどこいったんだよ……っ!」
正面に、穴が空いている。
「《形質変化》っ!」
俺はすぐさま盾に戻して防御する。
「左かっ!」
左から足音が聞こえた気がしたので、その方を向く。
ガンッ、と鈍い音。やっぱり、左から来てたみたいだ。
「……はァ……」
見ると、デウキスの身体から、血が滴っている。棘が刺さった、というような傷ではなかった。となると、スキルや魔法を使って速くなり、その代償……か?
「『燃ェョ』……」
デウキスは今、魔法を唱えたのだろうか?そう考えた時。
「熱っ!」
剣から炎が燃え盛る。俺はその熱を避けようと、後ろに飛び退く。
「ガぁッ!」
デウキスが剣を振るう。そして、斬撃が飛ばされる。その斬撃は、炎を帯びていた。
「なっ……」
盾で防御して大丈夫だろうか?……火傷するだろうな。火がなければ……消火すればいいのか。
「《冷蔵庫》!いけっ!」
正面に《冷蔵庫》を顕現し、魔力を通して中に入っている水を迫り来る斬撃へ向けて放出する。
「どうだ!」
だが、水はシューッと音を立てて蒸発していった。
「くっそ……まずいっ!《形質変化》!」
熱が体に伝わらないように、盾に厚みをつける。
「さあ、こいよ!」
「うガぁっ!!」
デウキスが、何回も剣を振るい、炎を纏った斬撃を飛ばす。
俺は、斬撃に対抗するために、ギリギリまで厚みをつける。
「……あれっ?」
どっしり構えてみたが、いつまでたっても飛んでこない。
「どうした?」
えーっと……
「あっ、《冷蔵庫》の中に入ったのか!」
えっ、これ、勝ちじゃね?
『これはまたすごい……あれは、どんなスキルなのでしょうか……いや、魔法かな?』
『なんでも取り込めるのだろうか……今度、近くで見てみたいな。しかし、彼だけに注目してはいけない。今、無力化されてしまっているが、あの斬撃は炎を纏っていただろう?』
『……たしかに、武器に魔法を纏わせるなんて、よく考えてみるとかなり練習が必要ですね……』
『その通りだ。今のところだけを見ると藤野選手が有利だが、この勝負、どちらが勝つかはまだまだ分からんぞ?』
『そうですね、ここからもしっかり見届けましょう……おおっと、デウキス選手!突っ込んでいったー!』
「ガぁラッ!」
「くっ!」
姿が見えなくなるほど、速くは無くなった。だが、その攻撃はさっきよりも力強さを増している。
「うガァぁぁぁ!」
「ちっくしょ……らあっ!」
俺は両手で盾を持ち、全力で押し返した。
「《冷蔵庫》!」
俺は、折れた精霊槍(持ち手の方)を取り出し、
「《形質変化》!」
盾を剣に変える。二本を交差させれば、防御もできるだろう。
「いくぞっ!」
「ウがぁっ!」
ガキッ、と二振りの剣が交差する。
「そこだっ!」
デウキスが両手で剣を持ち、押し返そうとしてくる。俺はその隙を突き、持ち手で横腹に突きを入れる。
「お返しだっ!」
「ウガッ!」
ヒット!
俺は欠かさず追撃する。まず、剣で袈裟斬り。
「グがっ!」
それを、下から斬りあげるようにして防御するデウキス。
「甘いっ!」
俺は手首を前に出して剣を傾け、デウキスの剣を上にスライドさせる。そして、そのまま剣を離し、右ストレートを叩き込む。
「おらあっ!」
「ううがっ!」
思いっきりみぞおちに入る。俺はその勢いを生かし、回し蹴り。
「ほらよっ!」
「ガがぁっ!」
なんか、すごい飛んでった。だが、デウキスはバク転して勢いを巧く殺し、スッと立ってこっちを向く。
俺はその隙に離した剣を拾う。
「顕現セヨ、ツドイシ剛ヨ。其ヲモッテ業とせヨ」
デウキスが、持っていた剣を捨てて、唱えながら両手を胸の前で合わせる。そして、ゆっくりと離していく。すると、両手の間に剣が現れた。
「……まじかよ」
その剣は、赤黒く光っており、鍔には……龍のような物が象ってある。
デウキスが切っ先を俺に向ける。そこから、信じられないほどの禍々しさを感じる。
「うがアっ!」
デウキスは俺に向かって一直線に突っ込んでくる。
「ふーっ……」
俺は精霊槍の持ち手を捨てて剣を両手で握り、水の構えーー剣先を相手の目に向ける構えーーを取る。
……このまま迎え撃っても、勝てる気がしないな。
「でも、やるだけやってみるか」
「ガぁっ!」
距離五メートルほどのところで、デウキスが斬撃を飛ばしてきた。その斬撃が纏うは、炎。だが、迫り来るのはその斬撃だけではなかった。
「……は?」
もう一つ。それは、龍だった。
んーっと、えーっと……
「《形質変化》!」
俺は剣で迎え撃つのを諦め、防御に専念することに。
『グアァァァァァァ!!』
咆哮。それだけで、吹き飛ばされそうになる。
「ぐっはぁっ」
斬撃と衝突。それは耐えれた。だが、龍には勝てるはずもなく。
「ぐっ……」
俺は、あっけなく飛ばされていく。
『校長……あの龍は、ルール的に大丈夫なんでしょうか?』
『ああ、たぶんな。あれは武器から出てきたわけだから、あれ自体も武器ってことになるだろう』
いや、反則だって……あ、こいつも《冷蔵庫》に入るかな?
デウキスの剣に帰っていく龍を見ながら、俺は起き上がる。
「《冷蔵庫》」
「ウガッ」
デウキスが再び剣を振るう。そして、斬撃と龍。
「……こいよ」
『ウゥゥグァァァァァァ!!』
咆哮、そして《冷蔵庫》と龍の接触ーーどうやら、《冷蔵庫》に入ったみた……
「ぐあぁぁぁぁぁっ!……ごほっごほっ」
龍を《冷蔵庫》に取り込んだ瞬間、心臓が飛び跳ね、全身に電撃が走り、血を吐いた。
それだけ、取り込むのに魔力を使ったのか。今まで魔力を消費しなかったから、取り込む時は魔力がいらないのだと思っていた。
でも今、魔力を使った。ということは、この龍はレベルが違うってことだな。いや、生き物だからか?そこら辺は、これから調べていかないとな。
「ガァ……ウガあっ!」
デウキスは、龍がいなくなり、困惑しているんだろう。剣も、灰色に変色している。
「はぁ…はぁ…いくぞ……《形質変化》っ!」
今なら勝てるっ!
「う……ウガッ!」
デウキスの身体から、再び血が噴き出した。
「えっ……」
俺が龍を《冷蔵庫》で取り込んだからだろうか。
デウキスは動かなくなっている。
「えーっと……」
俺は、すっと首筋に剣を添える。
「そこまでっ!勝者、藤野 玄人!」
俺のベスト4が決まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、水の構えは、中段の構えの別名です。かっこいいので、こっちを使いました。




