23話 藤野 玄人、観戦した後、話しました。
「大丈夫か?」
俺は今、傷を負ったジャックの前にいる。そこには、キャルロットも居た。
「ええ、大丈夫みたいよ」
「おー、もう問題ないぜー!」
「はやいな、回復魔法の力か?」
「ああ、五人も手当てしてくれてな。すぐに元どおりだ」
「なら良かった」
さっきすれ違った時は、だいぶ重症だったからな。
「お前の方はどうだったんだ?」
「なんとか勝ったよ」
「それは良かったな。じゃあ、今の時点でA、Bブロック合わせてベスト8確定か」
「……たしかにそうなるな」
そんなこと全然考えてなかった。
「玄人、大丈夫かしら……」
「そ、そんなことよりさ。今回復したって言ったけど、もう動いていいのか?」
「おうよ。実は今から、さっきモニターで見た、ディアブルとかいうめっちゃ強えやつの試合を見に行こうと思ってな」
「お、じゃあ俺も行こうかな……あ、でもまた俺試合あるか」
「いや、そっからは明日だ。で、決勝は明後日」
「じゃあ大丈夫か」
『第28試合目を行います。ディアブル=ガーブ選手、シューリ=アイナル選手、場内へ』
「あいつだ」
その男子は、ただ、つまらなさそうに入場門から出てきた。ディアブル=ガーブさん。
対して、シューリ=アイナルさんは、かなり警戒しながら入ってくる。
「第28試合……始めっ!」
「顕現せよ、集いし剛よ。其を持って業とせよ。顕現、『マニフェスタ・エピライズ』」
「剣を呼び寄せる魔法ね」
キャルロットが、今シューリさんが使った魔法について教えてくれた。そして、意識を試合に戻した時には、もう。
「遅いなぁ、もう」
「なっ…………」
ディアブルさんは、すでにシューリさんの後ろに立っていた。
「ねえ、なんで?なんでそんなに遅いのかな?真面目にやってよね」
蹴り。そして、轟音。
「……は?」
誰が放った声だろうか。全員かもしれない。
煙がなくなった時には、すでにシューリさんは地面に倒れていた。
「しょ、勝者……でぃ、ディアブル=ガーブ!」
「ふぅ……つまんないの」
彼は、それだけ言って、戻っていってしまった。
「おい玄人、お前、このまま勝っていったら、最後あれと当たるぞ?」
え、いや、無理無理無理無理。
「終わったな」
「ていうか、あんな生徒いないわよね?このトーナメントが終わったら入学してくるんでしょう?」
「……」
ジャックが青ざめた。効果音をつけるなら、スンッ、だ。
「ま、まあ、今日はもう帰って休もうぜ!もう、あと少ししか今日は試合ねえし!」
「それもそうだな」
俺は今、再び校長室に来ていた。
「藤野 玄人」
「はい?」
「先ほどの君の試合相手、グリーブについてだが。彼には、【暴化】が付与されていた」
「ぼうか?なんですか?それ」
「端的に言ってしまえば、脳死で暴れるみたいなものだ」
「なるほどなるほど」
「そして、ジャック=ラティリーの試合相手、ヘイゼル=クランツにも、同じように【暴化】が付与されていた」
あそこまでジャックが傷を負ったのも、それが理由か。
「して、藤野 玄人。君の周りで、変わったことはなかったか?」
変わったこと、か……
「いえ、特には」
「本当にか?君を疑ってなどいないから、なんでも正直に話してくれていいぞ?というか、頼む。どんな些細なことでもいい」
「と、言われましても……あー、そういえば」
「なんだ?何か思い当たることがあるのか?」
「控え室の空気が、異様にピリピリしてましたね。あんな空気は初めてでしたよ、あはは」
「ふむ、やはりそうか……それが原因だな」
「え?どういうことですか?」
「一応、君は当事者だから知っておいてもらうか……頼む」
校長が、隣にいた男性に言う。
「はい。えー、【暴化】。これは、付与魔法の一種であります。この魔法を付与するには、直接魔法をかけるか、間接的に付与する、他のものから感染させる、ということが見受けられるであります」
「なるほど、であります」
ちょっと、語尾が面白いから真似してみた。今時「あります」なんて語尾をつけるひと、少ないだろ。……あ、睨まれた。
「で、だな。おそらく、君の言った、ピリピリした空気。これは、空気が媒介となり、【暴化】が空気に溶け込み、それでピリピリすると感じたんだろうな。とはいえ、間接的な感染には少し時間が必要だ。最初の相手が【暴化】していなかったのは、それが理由だな」
「てことは、次の試合とかは危ないですかね?」
「そうなるな。その上、次の試合は明日だ。【暴化】は進行していくかもしれない」
「じゃあ、門の所で解除かなんかできないんですか?」
「それは難しいな」
なぜなら、と校長先生は続ける。
「あの控え室を【暴化】で満たし、感染させることができるとなると、かなり魔力が必要だ。いや、魔力というよりも、魔法力、だな」
「何が違うんですか?」
「知らないのか……魔力とは、スキルや魔法を行使する際に使用するエネルギーで、魔法力は、魔力の質、魔力量、魔力効率など、スキルや魔法を行使する際に関わってくるものを総合的にみた際の力だ」
ほー、なるほどな。
「そうなってくると、犯人はとても強いはずだ。その状況で大きく動くと、何をしてくるか分からん」
「でも、先生方がいればどうにかなるんじゃ?」
「いや、相手が一人や二人とは限らん」
確かにそうか。
「対策としては、教師を街に配置、ギルドに頼んで、冒険者なども街をパトロールしてもらう、くらいしかできんな。それも、相手に気づかれるとまずいから、少人数になるな」
それってだいぶまずくないか?
「まあ、少人数でも、力あるものがいればどうにかなるとは思うがな」
じゃあ大丈夫か。
「で、藤野 玄人。君はなぜ【暴化】がかかっていないのだろうか?」
「空気が嫌だったんで、廊下にいました」
「偶然なんだろうが、いい判断だ」
「ありがとうございます」
「それから、明日のことだが、トーナメントは続行、しかし、危険だから、気をつけてくれよ」
「わかりました」
「わざわざ二回もすまなかったな、ありがとう。話はこれで終わりだ」
俺は、ベッドの上で考え事をしていた。
【暴化】で、ジャックの対戦相手、ヘイゼルがああなったのはわかる。なんせ、最後の方は無口だったから。でも、グリーブはすごくうるさかったな。ずっと喋ってたし。何が違うんだろうか。
……考えてもわからん。もういいや。
あ、一応もう一回お祈りしとくか?
「女神様ー、ありがとうございました。明日も是非、お見守りください」
これでよし。それじゃ、明日に備えて、もう今日は休むか。
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