side.K
会社に着く前、朝食のパンを買うために24時間営業のスーパーに寄った。
パンを選んでいると同じ部署の10歳年上の先輩が後ろから声を掛けてきた。
まだ30代の半ばだというのに、薄くなった髪の毛を触りながら。
福井先輩「おはよう。大石君。今日は一段と冷えるなー。特に頭がさぶいわー。」
俺「そこっすか!?笑」
こんなやり取りも随分上手くなった。大阪に来たばかりの頃は、上手い返しが出来ず苦労したものだ。
福井先輩「しかし、楽しみやなぁ。俺らの部署にも待望の女性メンバーが来るて。」
そうらしい。どうやら男ばかりの会社に女性メインの営業部が出来るとか。Webメインの営業にしたいらしく、最初は俺達の部署で研修をすると年明け早々に通達があった。
俺「でも、一人決まってる人って40代の主婦って聞いてますよー。あんま期待せん方がいいと思いますよ。」
先輩は知らなかったようで、少しがっかりした様子だった。
福井先輩は面白い。一応部署のリーダーであるにも関わらず、いじられキャラで年下の俺にもこの調子で最初から絡んでくれた。
自転車を押しながら、先輩と並んで歩いた。会社まではそう遠くない。
実家に戻ろうか真剣に悩み始めていることを相談しようかとも思ったが、もう少し固まってからにしようと考え直し、話さないことにした。
先輩は二人になると決まって、
「彼女がほしい!」
としつこい程言う。半ばネタのようだ。
お酒が入ると更にしつこく、
「誰か紹介してくれよー」
と言ってくる。
入社して1年くらい経った頃に、1度だけバンド仲間の開催する合コンに誘ったことがあった。
合コンが始まると紹介してほしいと言っていた勢いは無くなって、一人静かに飲んでいた。多分女の子と話すのが苦手なんだろう。
これは最近気付いたことだが、社内の経理部のおばちゃんですら、目を見て話していない。
それが分かってからは、先輩の彼女ほしいネタを間に受けなくなった。
女性社員が増えて、逆にこの人大丈夫なんか?と少し心配になった。
俺はというと1年前のリストラでこの会社からいなくなった莉子先輩のことを思った。
莉子先輩との関係は誰も知らない。
5つ年上で既婚者だった。既婚者の割りに自由なヒトで、彼女のペースにハマるのに時間はかからなかった。
彼女に結婚を前提に付き合いたいと伝えるまでは、夕食を作りに来てくれたり、休日にはデートもした。そして何度もカラダを重ねた。その時の俺は子供だった。どこからか分からないが、自信があった。
結果、彼女は俺の存在すらなかったかのような態度に変わってしまった。
彼女にとって、俺は都合の良いヒトに過ぎなかった。
職場に女性が増えることに気が進まない。そうなったところで俺は関わる気はない。




