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81 第17章:『完全中立・自堕落独立特区』宣言

第17章 第3節


北方の山あいにひっそりと佇む、かつての廃村――いまや全宇宙の怠惰と極楽の頂点を極めるリゾート特区『温泉こたつ庵』。

そこに、かつてレオンを冷酷に王都から追放した張本人である「王国の最高主教」が傲慢にも乗り込んできたものの、前魔王ルシアの放った「この村のコタツと温泉と美味しいご飯を愛している。邪魔する奴は許さん」という狂気的なまでの愛と殺気に満ちた脅しの前に、秒速で腰を抜かして撃破された。


さらに、その老主教すらもブラッド特製の「鴨南蛮うどん」の圧倒的な美味さと温かなこたつの魔力の前に屈服し、今やすっかりプライドをかなぐり捨てて「美味い……!」と涙を流しながらうどんをすする「ただの常連客の一人」へと華麗に成り下がっていた。


王国の教会勢力による最後のあがきすらも完璧に無力化され、もはやこの世界にレオンたちの「極楽リゾート」の平和を脅かす者など、文字通り一人の存在しなくなった瞬間だった。


村中から聞こえてくるのは、あちこちの露天風呂から響く「極楽だぁぁーーっ!」という歓声と、屋台街でラーメンを啜る音、そしてこたつに入ってくだらないおしゃべりを楽しむ人々の笑い声ばかりである。


――だが、しかし。

この完璧すぎるまでの平和と、全宇宙を巻き込んだ「怠惰の楽園化計画」の総仕上げとして、レオンとルシアはある重大な儀式を行わなければならなかった。


それは、これ以上世界中から「王都に戻ってくれ」「魔王城へ帰ってくれ」といった面倒くさい使者や、勘違いした討伐軍が二度とやってこないようにするための、「世界に向けた公式布告(グローバル・アナウンスメント)」であった。


その日の夕方。

村の中央広場に、かつて新魔王軍が使っていた最高級の魔導通信機(および全土に音声を響かせる特製の巨大スピーカー・システム)が特設された。そのマイクの前に、なぜか頭に可愛い「温泉こたつ庵」のロゴ入りサウナハットを被せられた、すっかり骨抜き状態の王国の最高主教が、半泣きになりながらスタッフとして立たされている。


「えー、ほんの出来心といいますか、テスト、テスト……。あー、あー、世界各国の皆様、聞こえておりますでしょうか……」


主教の震える声が、魔導の波動に乗って、王都の王宮から、魔界の暗黒城、さらには辺境の村々に至るまで、全世界の空へと一斉に響き渡った。

その中継の特設ステージの真ん中で、こたつの足元をすっぽりと包み込みながら、ほうじ茶の湯呑みを優しく傾けていたのは、他ならぬこの村の主――レオンである。


その横には、キンキンに冷えた生ビールのジョッキを片手に持ち、満足げに微笑む前魔王ルシアの姿があった。


「よし、じゃあそろそろ、世界に向けてうちの方針をハッキリと発表しておこうか」

レオンがのんびりとした口調でマイクに近づくと、世界中の王宮や魔界の城でその声を聞いていた為政者や民衆たちが、固唾を飲んでスピーカーの前へと耳をそばだてた。


「ええと、まずはじめに」

レオンは穏やかに、しかし一切の妥協のないクリアな声でこう語りかけた。


「我が『温泉こたつ庵』および周辺一帯は、本日この瞬間をもちまして、世界各国および魔界勢力から一切干渉を受けない、完全独立の『完全中立・自堕落特区(パーフェクト・レイジー・ゾーン)』の成立をここに高らかに宣言します」


その宣言の第一声が響いた瞬間、世界中のエリートたちの間で「やっぱり来たか……!」という小さな悲鳴と諦めの入り混じったざわめきが巻き起こった。


レオンは少しだけ言葉を切ると、湯呑みからお茶を一口すすり、さらにこう続けた。


「これまで、王国のエリートたちがどうとか、魔界の覇権争いがどうとか、世界を救うために誰が戦うべきだとか、そういう面倒くさい話が世間ではいろいろと飛び交っていました。でもね、ぶっちゃけそんなの全部どうでもいいんです。人間だろうが魔族だろうが、お腹が空けば美味しいご飯が食べたいし、疲れたら温かいお風呂に入りたいし、寒い冬はこたつに足を入れてみかんを食べながらダラダラ過ごしたい。それが生物としての、本当の正解なんじゃないでしょうか」


そのレオンの飾らない、しかしあまりにも本質を突いた言葉に、世界中でラジオや魔導モニターにかじりついていた民衆や兵士たちから、「その通りだァーーっ!」「もう戦争なんてやめて全員温泉に入ろうぜ!」という熱狂的な賛同の歓声が、あちこちから巻き起こった。


そして、マイクの前に立ったレオンは、隣にいるルシアへと視線を向けた。

ルシアはニヤリと不敵で可愛い笑みを浮かべ、キンキンに冷えたビールのジョッキを掲げながら、スピーカーに向かってこう言い放った。


「いい? よく聞きなさい! この村では、いかなる権力者であれ、戦争の布告であれ、面倒くさい事務手続きであれ、一切の持ち込みを禁止します! ここにあるのは、最高級の背脂豚骨ラーメン、極上の醤油ラーメン、焼き立ての焼き鳥、キンキンに冷えた生ビール、白樺アロマが香る巨大野外露天風呂、そして無限にぬくもりが持続する完璧なこたつだけ! もしこの村の平和な怠惰を邪魔しようとする不届き者が現れたら、余がこの手で容赦なく、二度とサウナに入れない身体にしてやるから覚悟しなさい!」


その前魔王による、あまりにも公私混同でありながら、全宇宙のすべての生物が心の底から求めてやまない「最強の極楽宣言」に、世界中の人々はもはや抗う気力を失い、むしろ感動の涙を流しながら大喝采を送った。


王都の王宮では、すでに側近たちが王冠を投げ捨ててサウナハットをかぶり、「レオン様万歳! 温泉万歳!」と叫びながらシャンパンの代わりに特性ドリンクで乾杯していた。

魔界の暗黒城でも、過激派の若者たちが武器を捨てて薪割りコンテストに興じ、「これからは怠惰と極楽の時代だ!」と盛大に盛り上がっていた。


世界はついに、レオンのパッシブスキル『最高環境創出』と、ルシアの『全戦意蒸発』、そして村の総力を挙げたおもてなし攻勢によって、世界規模での「完全なる平和的・自堕落的統一」を果たしたのである。


「……ふう、これで当分は面倒な客も来なくなるだろうしさ、一件落着ってところだね」

レオンはマイクから離れると、再びこたつの中に深く足を突っ込み、ふうっと心地よい息をついた。


「ほんとねぇ!」

ルシアはジョッキをテーブルに置き、満足げに腕を組んだ。

「世界中が私たちのリゾートの傘下に入っちゃったんだから、これからは世界上のどこに行っても最高のラーメンと温泉が楽しめるってわけよ。最高じゃない!」


大賢者は自動麻雀卓の牌をシャカシャカとかき混ぜながら、「ふぉっふぉっふぉ、これで世界中の優秀な若者たちが麻雀の大会に参加しやすくなるわい!」とご機嫌に笑い、元聖女マリアは「はーい、世界に向けて配信お疲れ様のミカンですよー!」と、世界中に響き渡るスピーカーの横で剥きたてのミカンをレオンとルシアに差し出した。


遠くの渓流エリアからは、ガロアの元気な「ロウリュウいきまーーす!」という掛け声と、それを待ち構える1万人の元・兵士たちの歓声が心地よく聞こえてくる。


世界から争いは消え去り、残されたのは、温かなお湯と、美味しいグルメと、最高の仲間たちと過ごす、どこまでも続く最高に贅沢な日常だけだった。


「さあて、じゃあ世界宣言も無事に終わったことだしさ」

レオンは微笑みながら、こたつの上に並んだ極上のすき焼き鍋の火を少しだけ弱めた。

「今夜はみんなで、世界平和(と怠惰)を祝って、盛大にパーッとすき焼きパーティーでもやりますか」


「賛成ーーっ!!」


北方の山あいの廃村――いまや全宇宙の誰もが憧れるリゾート特区『温泉こたつ庵』の空には、どこまでも高く青く澄み渡った星空が広がり、その下では、世界で一番温かくて、最高に美味しい、永遠の極楽の夜がいつまでもいつまでも穏やかに続いていくのだった。

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