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67 第14章:『第一回・温泉スローライフフェスティバル』開幕

第14章 第2節


北方の山あいにひっそりと佇む廃村――いまや全宇宙の怠惰と極楽の頂点を極めるリゾート特区『温泉こたつ庵』。

そこに「人類と魔族の合同討伐軍、総勢1万名が洗脳基地を叩き潰すために進軍中」という前代未聞の物騒な報せが届いてから、村のスタッフ(元刺客、元魔王軍将軍、元聖女、そして元魔王と大賢者)たちの手によって、敷地全体は数時間で「世界最高峰の食とリラクゼーションの大規模テーマパーク(兼・極楽フェス会場)」へと劇的な進化を遂げていた。


しかし、レオンの「戦うの面倒だしフェスやろう。攻めてきた奴らに美味しいものを食わせて、サウナとこたつで全員骨抜きにしよう」という斜め上すぎる(かつ圧倒的に平和な)提案を聞いたスタッフたちは、ただの「おもてなし」では飽き足らなかった。


「……甘いですね、レオン様」

元・裏社会最強の暗殺者であり、現在は専属うどん料理長代行のブラッドが、冷徹かつ情熱的な美笑を浮かべて腕を組んだ。

「たかが焼きイモと特性ドリンクだけで、血気盛んな1万の軍勢が完全に骨抜きになるとお思いですか? いえ、甘味と炭酸だけでは足りません。人間の、そして魔族の『本能の奥底』を刺激し、すべての戦意を根底から蒸発させるための……さらなる『禁断の屋台網』が必要です!」


「ほう……?」とルシアが興味津々で首を傾げる。

「たとえばどんな?」


「ふっ……。長旅で心身ともに極限まですり減った兵士たちが、村のゲートをくぐった瞬間に嗅覚を撃ち抜かれ、理性を完全に破壊されるような……『大衆の欲望を具現化した究極の屋台街』を構築するのです!」


ブラッドのその言葉を皮切りに、元・最強の暗殺者と、元・新魔王軍最強の武闘派将軍ガロア、そして「みかん剥き係」に生きがいを見出した元聖女マリアの「おもてなし暴走モード(極楽浄土建設ラッシュ)」のスイッチが、盛大にカチリと入ってしまったのである。


まず動き出したのは、ガロア率いる「設営・土木部隊」であった。

「おいお前ら! 敵の連合軍が到着するまでに、ただのサウナだけじゃ足りねぇ! 敷地の奥、湧き水が豊富に出るあの渓流エリアを拡張し、一挙に数千人が同時に浸かれる『日本列島縦断レベルの超巨大野外露天風呂』を掘り上げるぞ!!」


ガロアの地響きのような号令の下、元・魔王軍の屈強な魔族兵たちが鍬やピッケルを振るい、凄まじいスピードで大地を掘り進めた。

数時間後、そこに誕生したのは、広大な敷地を贅沢に使った総ヒノキ造りの「極楽大露天風呂(通称:天下泰平の湯)」であった。

湯船からは、白樺の芳醇なアロマと、肌がトロトロになるアルカリ性の極上温泉水から立ち上る心地よい湯気がもうもうと天に向かって噴き上がっている。さらに、温泉の真ん中には「浮き島型カウンター」が設置され、湯船に浸かりながら極上のドリンクを楽しめるという、全人類の夢を形にしたような贅沢仕様となっていた。


「よし、温泉の温度は完璧に41.5度に調整した! 続いて、風呂上がりのリフレッシュスペースに、インフィニティチェアを隙間なく500脚並べろ!」


土木作業が狂気的なスピードで完了する傍らで、村の中央広場には、ブラッドの指揮のもと、次々と「禁断の屋台」が設置されていった。


一つ目の屋台は、『神級極濃・背脂豚骨ラーメン』。

大寸胴鍋の中では、レオンのパッシブスキル『最高環境創出』の恩恵をたっぷり受けた極上の豚骨と鶏ガラが数時間煮込まれ、辺り一帯に「これでもか」というほどの濃厚で香ばしい魅惑の豚骨臭を漂わせていた。コシのある特製中太麺に、口に入れた瞬間にとろける極厚チャーシュー、そして黄金色の特製背脂がこれでもかと浮いたその一杯は、冷え切った体を内側から完全にノックアウトする破壊力を秘めていた。


二つ目の屋台は、『炭火香る・秘伝タレの絶品焼き高級焼き鳥屋』。

ガロア自らが見事な手際で串打ちした新鮮な地鶏肉を、備長炭の強火で一気に焼き上げる。ジュワッと滴る香ばしい鶏の脂が炭に落ちてジューシーな煙を上げ、甘辛い特製秘伝のタレの匂いが風に乗って村の入り口へとまっすぐ駆け抜けていく。


三つ目の屋台は、『脳髄が痺れる極冷・特製フルーツかき氷屋』。

富士の天然氷の如き純度を誇る氷をフワフワに削り上げ、その上からマンゴー、宇治金時、そして村特製の濃厚練乳をこれでもかとぶっかけた、サウナ上がりの火照った体を一瞬で天国へと誘う悪魔的スイーツの屋台。


そして、トドメの四つ目を仕切るのは、他ならぬ元魔王ルシアと、元聖女マリアであった。

「ふふふ……ラーメンと焼き鳥だけじゃまだ甘い。男というものは、肉と炭水化物の後に何が欲しいか知ってるか?」

ルシアが悪戯っぽく笑いながら、特設の巨大冷蔵サーバーのコックをひねった。


シュシュシュッ……と勢いよくグラスに注がれたのは、きめ細やかなクリーミーな泡を頂く、『極上のキンキンに冷えた生ビール(もちろんノンアル・アルコール選択自由の神級麦酒)』であった。

その脇では、マリアがジョッキの縁にレモンを飾りながら、目を輝かせて叫んでいた。

「みなさーん! サウナ上がりのビールと、削りたてのかき氷、準備万端ですよー! どんなに怒り狂った戦士でも、このキンキンに冷えたビールを喉に流し込んだ瞬間、『もう戦争なんてどうでもいいや!』って絶対になりますからねー!」


――もはやこれは、「洗脳基地への迎撃作戦」などという物騒なものではなかった。

北方の廃村は、完全に「全宇宙のあらゆる欲求と怠惰を満たす、史上最大規模のグルメ&リゾート・大感謝フェスティバル会場」へと変貌を遂げていたのである。


「……あのさあ」

村の特設ステージの端っこで、インフィニティチェアに寝そべりながらこの光景を眺めていたレオンは、あまりの力の入りように、思わず乾いた笑いを漏らした。

「みんな、気合入りすぎじゃない……? あくまで『攻めてきた奴らにのんびりしてもらおう』っていうプチおやつのつもりだったんだけど、いつの間にかミシュランの三つ星テーマパークみたいなことになってない?」


「何を言っているのですか、レオン様!」

ブラッドは白いコックコートの襟をビシッと正し、真剣な眼差しで言い放った。

「戦うことしか知らん愚者どもに、真の『極楽の温もり』と『食の暴力』を教え込むには、これくらいの圧倒的な物量作戦が必要なのです! 1万の兵士がこの屋台街の前に立った瞬間、彼らの脳内にある戦闘の二文字は消え去り、ただの『どれを食べるか選ぶ客』へと華麗に変貌を遂げることでしょう」


「まあ、いっか。どうせ面倒くさいことには変わりないし、みんなが楽しそうならそれで……」

レオンが諦めたように肩をすくめたその時である。


村の入り口に設置された巨大なヒノキの歓迎ゲートの向こう側から、ついに――地響きのような大軍の足音と、ものすごい気合の入った鬨の声がハッキリと聞こえてきた。


「見えたぞ……! あれが、噂の洗脳特区……『温泉こたつ庵』だ……!!」

「全軍、止まれぇっ!!」


先頭に立っていた、元・剣聖レイガーと、新魔王軍のクーデターリーダー・バザルトの叫び声が、冷たい秋の空気を切り裂いた。

総勢1万名におよぶ「人類・魔族合同討伐軍」がついに、村の敷地の目前へと到達したのだった。


はたして、命がけで「洗脳基地の破壊と仲間の奪還」を誓い、戦闘態勢をバリバリに固めてやってきたレイガーやバザルトたちの目の前に広がっていたのは、緊張感あふれる戦場ではなく、「極上の豚骨ラーメンの匂いと、ジュージューと焼ける焼き鳥の煙、そしてキンキンに冷えたビールのサーバーの横で手を振る元聖女の笑顔」という、人生最大の不意打ちであった。


歴史の歯車が、最高に美味しそうな匂いとともに、盛大に狂い始めようとしていた――。


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