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06 第2章:働いたら負け? 自堕落デュオの誕生

第2章 第1節


ぽかぽかと温かい太陽の光が差し込む、荒れ果てた古民家の縁側。そこには、世界を揺るがすはずだった二人の人物が、まるで長年連れ添った夫婦のように並んで座っていた。


一人は、聖女と剣聖から「派手な技が使えない」という理不尽な理由でパーティーを追い出された元勇者レオン。

もう一人は、魔王城の若手幹部たちから「威厳がない」「人間を滅ぼす気がない」とクーデターを起こされ、城を追い出された元魔王ルシア。


二人の間には、先ほどまでの殺伐とした空気は微塵もなく、ただまったりとした、極上の怠惰の空気が漂っていた。七輪の上でコトコトと湯気を立てる鉄瓶の音だけが、静寂な村に響いている。


ルシアはレオンから差し出された白湯を両手で包み込み、うっとりとしながら一口すすると、ふうっと大きく長い溜息をついた。


「はぁぁぁ……生き返る……。ねえレオン、このお湯、なんか魔法の薬でも入ってるの? 飲むだけで体の芯から力が抜けて、嫌なことが全部どうでもよくなっちゃうんだけど」

「いや、ただのそこらへんの野草を煮出しただけだけど。そんな大したもんじゃないよ」

レオンはポリポリと頭をかきながら笑った。


「ただの野草であんなに美味いわけないでしょ! ……にしてもさぁ、まさか私が魔王城を追い出されるなんて、人生何が起きるか分からないよね」

ルシアは湯呑みを縁側に置き、やれやれといった様子で銀髪を揺らした。


「魔王城を、追い出された?」

レオンは目をパチクリとさせた。先ほどから彼女が「魔王様」だの「魔王城」だの言っていたのは、単なる変なコスプレや中二病の妄想だと思っていたのだ。


「うん、そうだよ。私、これでも一応本物の魔王だったんだからね。一応ね!」

「えっ、マジで……? じゃあ、あのウワサの魔王軍の頂点に立ってたってこと?」

「そう! でもさあ、最近の若手幹部ってやつらは本当に血気盛んでさ。『魔王としての威厳がない』だの『もっと人間を皆殺しにしろ』だの、毎日毎日朝から晩までガミガミうるさくてさぁ。こっちはさ、世界征服なんてクソめんどくさいこと、一秒たりともやりたくなかったのにさ!」


ルシアはぷくっと頬を膨らませ、子供のように不満をぶちまけた。

「毎日玉座に座って、家来たちの報告を聞くだけで肩が凝るし、人間どもの相手をするのはめんどくさいし、何より私の大事な睡眠時間が削られるでしょ? だからここ数ヶ月、ずっとサボって昼寝してたら、ある日突然、竜人族のガルドルの野郎どもが『お前を解任する!』ってクーデターを起こしてきてさ。そのまま城から放り出されちゃったわけよ。ひどくない?」


ルシアの話を聞きながら、レオンは深く、深く頷いた。

「……なるほどねえ。苦労してたんだな、お互いに」

「レオンの方こそ、何があったのよ。勇者様なんでしょ? 世界の救世主様が、こんな人里離れたボロっちい廃村で何してんのさ」


ルシアの問いかけに、レオンは苦笑いを浮かべ、自分のボロボロの銅の剣をチラリと視線で示した。


「俺も似たようなもんさ。聖女と剣聖から『お前の戦い方は地味すぎる』『派手な大魔法も剣技も使えないお荷物だ』って言われてさ。気づいたら、手切れ金と一緒にパーティーの門前払いだよ」

「はあぁ!? 勇者をクビにしたの!?」

ルシアは目を丸くして驚いた。

「正気なのその聖女と剣聖! 勇者って言ったら人間側の最強の切り札でしょ? そんなの追い出して魔王城に特攻したら、一瞬で返り討ちに遭うか、全滅するに決まってるじゃない!」


「さあ、どうだろうな。あいつらは『私たちの実力は世界最高峰だからお前のサポートなんていらない』って威張ってたけどさ。まあ、ぶっちゃけどうでもいいや」

レオンは肩をすくめ、空を見上げた。


「俺さ、ずっと旅してたときから、本当は毎朝早く起きるのも、強い魔物と命がけで戦うのも、街の人たちに『勇者様! 頑張ってください!』って期待されるのも、全部全部めんどくさくて仕方なかったんだ。でも、勇者だからって無理して笑って、前線に立ち続けてさ。だから、あいつらに追い出されたとき、心の底から『やった! これでやっと自由だ!』って思ったね」


レオンのその言葉を聞いた瞬間、ルシアの胸に、何か熱い共感がグッとこみ上げてきた。

魔王として世界を恐怖に陥れるはずだった自分と、勇者として世界を救うはずだった自分。立場こそ真逆でありながら、背負っていた重圧と、そこから解放されたときのあまりの爽快感は、完全に一致していた。


「……そっか。レオンも、ずっと無理して頑張ってたんだね」

「まあね。ルシアも、毎日世界征服のプレッシャーで胃に穴が空きそうだったんだろ?」

「もう穴どころか胃が消滅しかけてたわよ! 人間なんて滅ぼさなくても、美味しいお茶飲んで寝てられるなら、それが一番平和でいいに決まってるじゃない!」


ルシアは両手を大きく広げ、力強くうなずいた。

その言葉に、レオンは思わずフッと笑みをこぼす。


「だな。世界を救うのも、世界を滅ぼすのも、どっちも仕事としては激務すぎるよ。あんなの、好き好んでやるやつの気が知れない」

「本当ほんとう! もう二度とあんなめんどくさいこと、絶対しないからね!」


ルシアはふと、縁側から見渡せる村の景色に目をやった。

荒れ果ててはいるが、静かで、誰にも邪魔されず、鳥のさえずりと風の音しか聞こえないこの場所。ここでレオンと出会い、あの極上の白湯を飲んだときから、彼女の中で何かが完全に吹っ切れていた。


「ねえ、レオン」

「ん?」

「私さ、もう魔王とか辞める。今日から、この村の住民になる!」

「お、いいじゃん。空き家ならいくらでもあるし、好きに使ってよ」

「やった! じゃあさ、私たち、もう二度と戦うのも働くのもやめない? 一生、ここでだらだら暮らそうよ!」


ルシアは嬉しそうに、レオンの袖をギュッと引っ張った。

レオンは優しく微笑み、その頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「ああ、そうしよう。戦うのも働くのも、もう一切馬鹿馬鹿しい。これからは、世界で一番だらだらしたデュオとして、この村で悠々自適に生きていこうぜ」


「うんっ!」


こうして、元勇者と元魔王という、世界最大級の「裏切り」と「追放」を経験した二人は、お互いの不遇を笑い飛ばし、完全に意気投合した。

労働と戦闘を放棄し、極上のスローライフを共にする「自堕落デュオ」の誕生である。二人を包む温かい空気は、荒れ果てた廃村を、やがて世界で最も居心地の良い楽園へと変えていくのだった。

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