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49 第10章:王国調査団と大賢者

第10章 第4節


王国が誇る最高峰の知性にして、極めて気難しい頑固老人として知られる大賢者。

彼は、王国を震撼させている「謎の失踪事件」の真相を暴き、怪しげな邪法を木端微塵に論破してやると息巻いて、精鋭の魔導調査団を引き連れ、レオンとルシアが暮らす古民家の縁側へと乗り込んだ。


しかし、戦う気満々だった大賢者の前に差し出されたのは、危険な魔導装置でも恐ろしい精神干渉結界でもなく、レオンが退屈しのぎに作り上げた自家製の『全自動麻雀卓風ボードゲーム』と、ブラッドが揚げたばかりの山盛りの『神級ポテトチップス』であった。


「……ほう? これが、貴様が言うところの『新しいボードゲーム』か」


大賢者は、怒りの表情を仮面のように張り付けたまま、目の前に鎮座する精巧な木製の遊戯装置をじろりと睨みつけた。

それは、中央に自動で牌をかき混ぜる特殊な魔導回路(レオンの適当なスキルで作られた手抜き仕様)が組み込まれ、四方に美しい象牙風の牌がずらりと並ぶ、どこか見覚えのある、しかしこの世界には存在しない洗練された卓上ゲーム機であった。


「そう。ルールは簡単。この牌を組み合わせて役を作って、相手からポイントを奪い合うだけの、めちゃくちゃ頭を使う暇つぶし用ゲームさ。ま、おじいさんみたいな賢い人なら、すぐにルールを理解して楽しめると思うよ」

レオンはのんびりと湯呑みを傾けながら、お皿に山盛りになったポテトチップスをシャカシャカと揺すってみせた。


フワリ……と、香ばしいコンソメの香りと、絶妙な塩気が大賢者の鼻腔をくすぐった。


「ふん……! くだらん! 私はこのような子供だましの遊戯に付き合っている暇など――」


言いかけた大賢者の言葉を、ポテトチップスの誘惑が遮った。

カリッ……と、近くでルシアが楽しそうに一枚をつまみ、いい音を立てて噛み砕いたのだ。そのあまりにも軽快で美味しそうな響きに、大賢者の視線は思わずその手元へと引き寄せられた。


「……ま、まあ、どうせ相手の論理的矛盾を突くまでの間の、軽い頭の体操だ。この盤面の構造がどのような魔導的トリックに基づいているのか、この目で確かめておくのも悪くまい」


大賢者は自分にそう言い訳をすると、ごくりと喉を鳴らし、おずおずとこたつに深く腰掛けた。供の魔導師たちが「あ、大賢者様……! そんな怪しいものを触れては……!」と青ざめて引き止めようとしたが、大賢者は「静かにしていれ!」と一喝し、すでに手元に用意された牌に手を伸ばしていた。


「よし、じゃあ早速ルールを説明するね。まず、この牌をこうやって――」


レオンがサラリとルールを解説し、ゲームが開始された。


最初は「ふん、こんな運と単純作業の繰り返しのような遊戯、私の卓越した記憶力と確率計算の前には一瞬で攻略できるわ!」と、大賢者は鼻息を荒くしていた。

しかし、数局を重ねるうちに、彼の表情が徐々に、そして劇的に変わり始めた。


「な……っ!? なぜここでその牌が出る……! 私の狙い撃ちは完全に完璧な確率計算に基づいて構築されていたはずだが……っ!」


「あ、それロンね。タンヤオ・ドラドラで満貫ね」

レオンが涼しい顔で牌をパタリと倒す。


「ば、馬鹿な……! また私の負けだと……!?」


大賢者は眼鏡の位置をガチガチと直し、額にじっとりと冷や汗を浮かべた。

彼の長年の研究生活で培われた論理的思考力と膨大な記憶力は、このボードゲームの前にはまったく通用しなかった。レオンが仕掛けた絶妙な心理戦と、全自動麻雀卓風ボードゲームがランダムに生み出す「運の要素」の融合は、頭脳派である大賢者のプライドを激しく刺激した。


「くっ……! もう一局だ! もう一局勝負させろ小僧!」

「お、いいねぇ。じゃあ東風戦もう一回ね」


負けるたびに、大賢者のなかに眠る「負けず嫌いの研究者魂」に火がついていく。

そして、その頭脳戦の熱中度と比例するように、大賢者の手は何度もこたつの脇にあるお皿へと伸びていた。


シャカッ……ポリッ……!


「……この、カリッとした食感の後に広がる絶妙な旨味のパウダーは何だ……? 塩気と、肉の旨味が完璧なバランスで調和している……。このような中毒性の高い味覚刺激物を、一体どのような錬金術で作ったというのだ……!」


大賢者は夢中でポテトチップスをポリポリと頬張りながら、牌を猛烈な勢いで摸打し始めた。

もはや彼は、自分が何のためにこの村へやってきたのかを完全に忘れていた。王国からの指令も、ガロア部隊の失踪の謎も、恐ろしい邪法の調査も、すべては目の前にある自動麻雀卓風ボードゲームとポテトチップスの圧倒的なエンタメ性の前に、霧のように消え去っていたのである。


「リーチ!」

大賢者が白目を剥きそうな勢いで宣言する。


「おっと、早いねぇ。じゃあ私、ツモ。イーペーコーね」

ルシアがのんびりと牌を倒してニヤリと笑う。


「なっ……!? また私の和了(あがり)が直前で阻止されただと……っ! くそっ、もう一回だ! 今度こそ私の完全勝利を見せてやるわぁぁぁーーーっ!!」


王国の最高知性にして最高権威である大賢者は、こうしてレオン自家製の『全自動麻雀卓風ボードゲーム』と『ポテトチップス』の魔力に完全に屈服し、その理性と威厳を音を立てて崩壊させられてしまったのだった。

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