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34 第7章:新魔王軍の刺客、武闘派将軍ガロア

第7章 第4節


王国のはずれにある名もなき廃村――いまや「世界で最も居心地の良い極楽特区」へと変貌を遂げたその聖域の入り口に、魔王軍が誇る最強の武闘派将軍ガロア率いる重装甲親衛隊100名が、地鳴りのような足音とともに到着した。


「止まれッ!!」


ガロアが黒曜石の巨大斧を大地に突き立て、野太い咆哮を轟かせた。

その背後に続く100名の精鋭魔族たちも、一糸乱れぬ動きでガチャンと重い足音を止め、手に持った破城鎚や魔導重砲を構えて戦闘態勢に入る。


「ここが、あの裏切りのポンコツ前魔王ルシアと、不届き者の元勇者が隠れ住んでいるという堕落の村か……!」


ガロアは全身の鋼鉄の外殻をぎしぎしと鳴らしながら、眼前に広がるのどかな村の風景を険しい目で睨みつけた。

彼の脳内には、前魔王の首をはね飛ばし、血塗られた栄誉を手に入れる自分自身の姿が鮮明に描かれていた。クーデター派幹部たちから命じられた任務の重大さと、自らの武勇を示したいという闘争本能が、ガロアの全身の血を沸騰させていた。


「全軍に通達する! 隠れ家を発見し次第、一切の容赦は無用! 村ごと焼き払い、生き残った者どもは例外なく叩き潰せ! 特に前魔王ルシアの首は、我が手でねじ切って魔王城へ持ち帰る! 異存はな――」


ガロアが剣を振り上げ、全軍に向けて突撃の号令を下そうとした、その瞬間だった。


すぅーーーっ……。


村の方向から、どこか甘く、とろけるような微風がふわりと吹き抜けてきた。

それは、サウナから出てきたレオンと、こたつでくつろぎかけていたルシアの存在によって村全体に満ち満ちていた、あの絶対的な「だらだらと平和のオーラ」――ルシアの固有パッシブスキル『全戦意蒸発』の波動であった。


その微風が、ガロアの鼻腔をくすぐり、重装甲親衛隊の100名の鎧の隙間へとスルスルと染み込んでいく。


「……ん?」


ガロアは、振り上げようとしていた腕の動きをふと止めた。

先ほどまで沸騰していたはずの闘争本能が、まるで冷水を浴びせられたかのように、急速に、かつ不気味なほどの速度で冷めていくのを感じたからだ。


「……なんだ、これ……?」


ガロアの背後に控えていた、100名の歴戦の親衛隊たちにも、同じ異変が起きていた。


「おい……副官。なんだか急に、さっきまであんなに燃え上がっていた殺気が、霧のように消えていくのだが……」

一人の屈強な魔族戦士が、手にした魔導重砲を支える腕をだらりと下げながら、隣の仲間にとまどい気味に声をかけた。


「俺もだ……。なんだか、腕の筋肉の力が抜けるというか……全身の関節がトロトロに弛緩していくような感覚がする……」

別の兵士も、黒曜石の重いフルプレートアーマーを「やけに肩が凝るし、着ているだけで面倒くさいな……」と感じ始め、兜の顎ひもを緩め出した。


『全戦意蒸発』のデバフ効果は、敵対者の心に宿る「戦う意思」「殺意」「焦燥感」「怒り」、さらには「何かを成し遂げようとする気力」のすべてを、物理法則を無視して無力化する。

魔界の血生臭い戦場で生き抜いてきた猛者たちであればあるほど、その精神の緊張が急激に解きほぐされたときの反動は大きかった。


「ば、馬鹿な……! 我々は新魔王軍の精鋭親衛隊だぞ……!」

ガロアは自らの頬を激しく叩き、気合を入れ直そうとした。しかし、その巨体からみなぎるべき闘気はすでにどこかへ消え失せ、代わりに言いようのない「めんどくささ」と「眠気」が全身を支配し始めていた。


「くっ……体が重い……いや、重いというより……何だか、もう戦うのめんどくさいな……こんなところで汗水流して暴れ回るより、家で布団に包まって寝てた方が万倍よくないか……?」


ガロアの口から、魔王軍の将軍にあるまじき「極めて自堕落な本音」がポロリと漏れ出た。


「将軍……実は、私も全く同じことを考えておりました……」

副官もまた、巨大な破城鎚を地面にズドンと突き立てたまま、その上にガクリと寄りかかっている。


「なんだか、あの村から漂ってくる空気、めちゃくちゃ温かそうじゃないですか……。戦う理由なんて、そもそも人生において何か意味があったのだろうか……そんなことより、あそこの木陰でちょっと日向ぼっこでもしたい……」


「お前もか……。ううむ……」


ガロアは漆黒の巨大斧を肩から下ろし、トボトボとした足取りでその場にどっかりと腰を下ろしてしまった。

親衛隊の100名もまた、「あー、もうだめだ」「今日のところは解散しようぜ」「むしろ、あの村に住み込みたいかも……」などと言い始め、誰も彼もが武器を手放し、思い思いの姿勢で地面に座り込んでリラックスし始めてしまったのである。


「前魔王の首を持ち帰る」という血肉沸き立つクーデターの軍勢は、村の入り口に足を踏み入れたわずか数分後、戦闘意図を完全に消失させ、ただの「日向ぼっこを愛するポンコツ集団」へと見事に成り果てていたのだった。

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