↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/82

18 第4章:残された勇者パーティの変異

第4章 第3節


深層ダンジョン「黄昏の回廊」の澱んだ空気の中、王国最強の栄誉を背負ってきたはずの二人の若者は、今や泥まみれになりながら床に這いつくばっていた。


「はぁっ……はぁっ……くそっ……! なんだ、この異常な重さは……!」


剣聖レイガーは、愛用の聖剣を地面に突き立て、何とか上半身を起こそうと必死にもがいていた。しかし、彼の肉体はまるで何十トンもの鉄板を背負っているかのように強烈な重力に縛り付けられ、わずかに指先を動かすことすれも痛みを伴うほどの激しい疲労感に満ちていた。


先ほど倒したばかりの雑魚スライムの粘液が、まるで生きた鎖のようにブーツや衣服にまとわりつき、彼の自由を奪っている。

さらに致命的なのは、レイガーの誇りである「聖剣」そのものだった。神聖な祝福を施され、かつては羽毛のように軽やかに、風を切るように振るうことができたはずのその剣が、今やただの「途方もなく重い鉄の塊」と化していた。


「腕が……ちぎれそうだ……! なぜだ、私の肉体は王国一の鍛錬を積んできたはずなのに……っ!」


歯をくいしばり、怒りと屈辱に顔を歪めるレイガー。

その隣では、聖女マリアが自分の両手を震わせながら、青ざめた顔で座り込んでいた。彼女の衣服は、冷や汗とダンジョンの湿気でぐっしょりと濡れている。


「ま、魔力が……全然溜まらない……っ!」


マリアは震える手で杖を握り締め、微弱な回復の呪文を自分に向かって唱えようとした。しかし、詠唱を始めた瞬間、彼女の頭蓋骨を割るような激しい頭痛が走り、体内の魔力がまるで底の抜けた穴から流れ出るかのように、急速に霧散していく。


「嘘……でしょ……? ほんの微量の魔力で、どれほど深い傷も一瞬で癒やせたはずなのに……! 今のこの呪文、私の全魔力の半分以上を吸い取った挙句、かすり傷一つ治せないなんて……ッ!」


燃費が最悪化、というレベルではなかった。それはもはや、魔法というシステムそのものが彼女の身体を拒絶しているかのような、圧倒的な非効率と魔力枯渇の地獄だった。


ダンジョンの奥から、ゴキゴキと不気味な音を立てながら、次のモンスター――中級の骸骨兵(スケルトン・ソルジャー)の群れが、暗闇の中からぞろぞろと姿を現した。空洞の眼窩に青白い炎を宿し、錆びた剣を構えたアンデッドの兵士たちが、獲物を見つけた飢えた獣のようにこちらへ近づいてくる。


「っ……来るな……! 来るな、雑魚どもが……っ!!」


レイガーは恐怖と焦燥感に駆られ、気合の声を絞り出そうとした。しかし、その声はかすれ、喉から出たのは情けないうめき声だけだった。

彼はそれでもプライドを保つため、渾身の力を込めてその重すぎる聖剣を引き抜き、骸骨兵めがけて振り上げようとした。


だが――。

あまりの剣の重さと、自分の筋肉の機能不全により、レイガーはバランスを大きく崩し、そのまま自分の足にもつれて派手に床へと転倒してしまった。


「がはっ……!?」


カラン、と無残な音を立てて、聖剣が手から滑り落ち、冷たい石畳の上を転がっていく。

骸骨兵たちが冷酷な足取りで近づき、その錆びた剣をレイガーの頭上へと振り下ろそうとした。


「いやっ……! 来ないで……っ!」

マリアが悲鳴を上げながら、必死の思いで防御結界を展開しようと杖を突き出す。しかし、パチパチと音を立てて生み出された薄い光の膜は、骸骨兵の錆びた剣が当たった瞬間に、ガラス細工のように粉々へと砕け散った。


「きゃあぁぁぁっ……!?」


衝撃で吹き飛ばされたマリアは、泥だらけの床に背中を打ち付け、唇から一筋の血を流した。

絶望的なまでの無力感。

自分たちは、世界を救うために選ばれた最強のパーティーではなかったのか? 聖女と剣聖という、神に愛された至高の存在ではなかったのか?


「なぜだ……なぜこんなことに……私たちは間違っていない……間違っているのは、あの役立たずのレオンを追い出したことなんかじゃないはずだ……っ!」


マリアは涙と泥にまみれた顔を歪め、地面を爪で引っ掻きながら、泣き叫ぶように呟いた。


彼女たちはまだ認めたくなかった。自分たちがこれまで受けていた恩恵のすべてが、自分たちの才能ではなく、あの「地味な男」が垂れ流していた無自覚のパッシブスキル(世界環境補正)のおかげだったという残酷な真実を。


レオンを切り捨てたその瞬間から、彼らを包んでいた「極楽のベール」は剥ぎ取られ、世界本来の容赦ない冷酷さと重力が、牙をむいて彼らに襲いかかっていたのである。


骸骨兵たちの冷たい刃が、まさに二人の首筋へと迫ろうとしたその時――。

彼らは恐怖に震えながら、ただただ助けを乞うように、暗い天井を見上げて絶叫するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。