プロローグ ヱビスとマイア
あたしが人生というもんを考えるようになったのは、バイト先のネカフェにガサ入れ?が来た時だった。当時、移民だとか未成年だとかが嘘ついて深夜バイトやってるのが問題になってて、あたしとしてはそんな連中が枠を取ってく事で働けなくなるのは困ってたから警察が何とかしてくれたのは助かった…ハズだったんだけど、そのせいで職場がなくなって新しいバイトを探す事になった。
「やっぱ資格が必要なバイト多いなァ…」
普通の求人サイトを見てると、資格が必要なもんとか、明らかに必要ないのに高卒以上って書いてあったりして、高校を中退したあたしはお呼びじゃないって社会から言われてる気がして胸くそ悪くなった。
「キャバ…ソープ…デリ…こっちもキャバ…う~ん……」
誰でもやれる系の求人サイトはそういうのばっか載ってて、それ以外は宗教だとかマルチだとかそういうヤバそうなニオイしかしなかった。
「チッ…ロクなのねぇな。」
だいたい、んなもんロボットにやらせりゃいいんだ!あるのか知らんけど…!
「ハァ……」
言ってもしゃあねぇか。
そろそろブリーチしたいし、スマホもヒビ入ってヤバいし、あたしはいつものように外国人がよく使ってる求人サイトにあった単発バイトに応募した。
単発バイトにも色々ある。チャリ漕いであちこち駆けずり回る配達系、流れてくるボトルを直したり箱に積めたりする工場系、ビルやマンションの清掃、チラシやティッシュを配る奴…今回は清掃にした。
──清掃バイトはいつも惨めな気持ちになる。何の仕事をしてるかわからないチャラい男や全身ブランドもので武装してる豊胸女が住んでるタワマンとか、定時で家族に電話しながら帰ってるサラリーマンが働いてる会社とか、そういうのを見る度にあたしはどこで間違えたんだろうって思う。
うんざりした頃にその日のノルマが終わってセンターに戻ると、あたし達は一列に並ばされる。
「這是打工的薪水。」
今回は台湾人だと思われた。
今日のバイト代を殆ど使ってスマホを買い替えた帰り、公園のフリーWi-Fiで今まで使ってたアプリを落としながらビールを飲む。
「明日もとりあえず単発かぁ…」
どっか続けてやれるのが見つかればいい。見つからなかったら…キャバか。
「ハァ~……」
ジメジメするし、蚊に刺されたのか腰のタトゥーが痒い。…あいつの名前なんだったかな……今思うと龍のタトゥーなんて入れなきゃよかった。これのせいで新しい男が寄り付かない……まぁ、関係ないか、あたしなんて…
あぁ、ダメだ。飲み過ぎてヘラってる。
──スマホの容量ケチったせいでゲームを幾つか諦める事になった。
「ハァ……まぁ、いいか……ゲームだし。」
ついでにメッセージが来なくなった男共の連絡先を消してビールを飲み干す。
「あぁ…?もう空か……」
フラフラと公園を歩きながら空を見上げたら、なぜか涙が出てきた。月が綺麗だからか、コンタクトが乾いたかしらんけど。
月の隣を髪の長い女が横切って……ん?
「なんだ、あれ……?」
それはあたしの方へ飛んできた。手前の茂みに落ちたのか、ガサガサッと小枝が折れる音がする。
「…着地成功。」
「なっ…なななな……っ!」
何なんだ、こいつは……!?
頭が冷える感じがして何か冷静になってる。
それは辺りを見渡した後、あたしをじっと見た。
「な、なんだよ……?」
冷や汗が出る…何かヤバい気がする……!
「や、やんのかよォ!」
「……やる?」
逃げた方がいいけど……くそっ、ビールが一気に…クラクラする……っ!
「うっ……」
あたしはその場に座り込んだ。立ってられなかった。
「大丈夫ですか?」
それはあたしに手を伸ばしてきた。
なんかわからんけど、あたしはその手を取った。
「あんた、何なんだよ…?」
「私は天使です。えんじぇる。」
「…ハァ?」
もしかしてどっかのバカがイカれた改造やったんか…?それにしちゃあリアルだけど…
「名前は?」
「名前?」
「…個体名だよ!」
「ありません。」
ありません?どういう事だ…?
「何か情報無いのかよ?持ち主の。」
「持ち主…オーナー……わかりません。」
「…マジで?」
厄介だ。あたしみたいな奴が持ち主不明のロボットと居る。警察に見つかれば不法投棄や盗難を疑われる。自分自身ロクな人生歩んでねぇ自覚はあるけど逮捕されて人生終了するのはごめんだ。
「わかった。じゃああたしがつけてやるよ。」
確か、あいつ小野とか言ったよな……確かな。
「あんたの名前は小野だ!」
「オノ?」
「小さい野原の方の小野な?」
「小野……それだけですか?」
「それだけって…」
あぁ、下の名前か。
「えっと…じゃあマイア。」
「マイア?」
「そ、マイア。」
たまたまやってたゲームに出てくるキャラの名前。
「では私の名前は今日から小野マイアですね?」
「そうそう。じゃ、そういう事で。」
早くここから離れたい。あんな怪しいもんと一緒に居たらヤバい。
「待ってください。」
「なんだよ。」
「貴女の名前を教えてください。」
「あたし?佐倉ヱビス。」
「"さくら"は…」
「2文字の方。」
「佐倉……」
「ヱビスはカタカナ。ヱが変なやつ。」
「ヱビス……覚えました。貴女が私のオーナーですね?」
「は?なんでそうなるんだよ!?」
「…?」
「とぼけた顔すんなよ…!」
「わかりかねます。」
「言葉にすればいいってモンじゃ…!」
やらかした。付き合ってた彼氏の為にパチンコ代稼いでた時並にやらかしてる気がする。
「ではなぜ私に名前をつけたのですか?」
だよな……今思った。絶対言われると思った。
「…酔った勢いだよ。」
「では酔った勢いで私のオーナーになったのですか?」
「そこまで言ってねぇよ…」
そいつ…小野マイアはあたしをじっと見てる。詰んだな。
「わかったわかった。オーナーになってやるよ。」
「これからよろしくお願いします。ヱビス様。」
「ヱビスでいいよ。あたしもマイアって呼ぶし。」
「わかりました。ヱビス。」
こうして私の人生で初めてロボット…アンドロイド?がついてまわるようになった。
簡単な登場人物の紹介
・佐倉ヱビス…25歳。高校を中退してからバイトで食い繋ぐ生活をしている。身寄りは無く、他人を頼る方法も社会福祉もよく知らないが、バイト先の評価はいつも満点。
・小野マイア…ヱビスが酔った勢いで名前をつけてしまったアンドロイド。その日からヱビスは酒を控えるようになった。




