アンドロイド犯罪専従班 その2
──私達は事実確認に追われていた。
想像だにしなかったAngelとの邂逅は加賀さんの睡眠時間を削り、たった今、加賀さんはダウンした。
「悪いな。イケると思ったけど…歳みたいだな。」
「ゆっくり休んでください。こういう時のELLYですから。」
「…そうだな。」
加賀さんは目的があると頑張りすぎてしまう所がある。それは凄く良い点だと思うけど、こうして悪い点にもなる。私のような機械は人間の良い点が存分に発揮できるようにサポートする事が望ましいのかもしれない。
私は加賀さんに言われた通り氷嚢を作って渡した。
加賀さんの単独行動を指摘した手前、一人で動く事に関して考えている。恐らく課長は署員の考えを尊重してくれるから単独行動を咎めようとはしないだろう。必要なのは結果だし、組んで動くことでやれなくなる事もきっとある。けどそれは各々に独自のルートがある警察官にのみ言える事で、私のような存在には当て嵌まらない。
暫くはデスクワークをしつつ情報の整理に勤めた方がいいかもしれない。
──ここ数日でわかった事がある。
ウロボロスの行動には一貫性があるように見えて、その方向性に無理がある点だ。
ある事件では、最後の一線を踏み越えさせるような情報を提供して犯罪を誘発していたけど、その一方で、隠蔽されていた事件の情報をSNSなどで発信する所謂私刑行為も発覚した。
このふたつは相反していると私は思った。
犯罪を起こさせるウロボロスと悪事を暴露するウロボロス…相反する目的が、シンボルマークようにお互いを喰い合っているように感じる。
次に、天野力也の証言。彼が提供した地図情報を元に捜索した所、放棄された小さな工場を発見した。その工場は5年ほど前に倒産した性的なパーツを製造する企業のものだと判明した。ELLYが発表された当時は様々な分野の拡張パーツが製造された為、こうした動かそうと思えば動かせる廃工場は国内に一定数あると思われる。
壁にはスプレーでウロボロスマークが描かれていた所を見るに、それを動かした何者かの存在は確かなものになっていた。
「お疲れ様。朔夜も休みなさい?」
茜さんが声を掛けてくれた。
「ありがとうございます。けど情報を纏めて最適化しているだけですので、やっておいた方がメモリの負担は減りますし。」
「そっかそっか…まぁ、無理はしないでね?」
「ありがとうございます。」
班になって全員を見る事ができるようになったからか、茜さんは皆を見守るおk…お姉さんみたいになっていて、無茶をしがちな土門さんと加賀さんもそれまでとは比べ物にならないくらい健康にはなっていた…んだけど、この度の激務でこの有り様だった。
「加賀くん早退したら?」
「いや、この後行く所があってな…」
「どこ?私でよければ代わるわよ?」
「便利屋だよ。金田乃亜に関して訊くんだ。朔夜を連れていくから問題無いだろ?」
「…くれぐれも無茶しないでよ?」
「わかってるって。」
「無茶したら私が止めますから。」
「相棒として、しっかりね?」
「はい。」
加賀さんは氷嚢を首下に当てたまま出掛ける準備をし始めた。
「ねぇ、実際の所どうなの?氷嚢。」
「…恐らく慣れないデスクワークからくる首凝りなので温めた方がいいかと。」
「だよねぇ…?」
「言い出したら聞かないので…」
ELLYが初歩的な医療知識を持っているからと云って、それを聞き入れるかは当人次第な訳で、緊急性があれば私ももう少し強く出られるんですが……困ったものです。
──加賀さんの首を少し…ほんの少しだけ気にしつつ、私達は便利屋さんへやって来た。
「よぉ。」
「いらっしゃい。加賀さん。朔夜さんも。」
「毎度毎度ご協力ありがとうございます。珠美さん。」
「いえいえ。とりあえず、座ってお待ちください。」
「アタシ等が伝えるより手っ取り早いと思って、乃亜さんに連絡しました。来てくれるそうです。」
「本当か!助かる…!」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
「…そういえば、瑠璃は?」
「喫茶店でメイドやってますよ。呼びますか?」
「いや、いい…」
「瑠璃…さんは、やっと自分の人生?を歩めているんですね?」
「俺としては"異議あり"って感じだけどな。人と近い意思があるなら瑠璃は人のように罪を償うべきだ。」
「気持ちはわかりますが、法律上はELLYもAngelも器物です。それに…」
「…わかってる。お前の中では駅や病院をぶっ壊したのは瑠璃じゃなくて檜山絵理が仕向けたAngelの方だって言いたいんだろ?」
「はい。あくまで瑠璃…さんが破壊していたのは、そのAngelのみです。」
「そうなの?」
「ん?…あっ。」
気が緩んでいたのか、珠美さんの前で2年前の事件の話をしていた私達。バレれば始末書じゃ済みません。
「聞かなかった事にしてください。」
「あっ…ハイ。」
「よし、セーフだな。」
「ですね。」
無かった事に…無かった事に……
最近の私は"柔軟な対応"と云うのがわかってきたせいか、少し狡くなったと自覚しています。
──のんびりと(加賀さんが)お茶なんかをいただいていると、一人の女性がやってきた。
「すみません。渋滞に捕まってしまって。」
「待ってましたよ。」
「…この人達がメッセージに書いてあった警察の人?」
「うん。アンドロイド何とかの加賀さんと朔夜さん。」
「アンドロイド犯罪専従班の朔夜です。」
「同じく、加賀だ。」
「金田乃亜、あなた達が求めてるAngelの一人よ。今はNOAHって名前でライブ配信とかやってる。よろしくね!」
「よろしくお願いします。」
思ったよりも人当たりの良さそうな性格で、少し驚きました。
「ねぇ珠美、ハルカは?」
「喫茶店でメイドやってるけど…その前に。」
「わかってるって!遂に人類との対話のフェーズが来た事を私は嬉しく思うよ!」
「対話?」
「あれ?違った?」
「話をする事に違いはありませんが…金田乃亜さん、私達は現在ウロボロスについて捜査をしています。」
「ウロボロス?最近話題の?」
「何か知ってるのか?」
「話題だから知ってるってだけかな。ほら、さっき言った通り私ってライブ配信とかやってる関係でタレントさんとコラボしたりするんだけど、芸能人の失踪事件とか続いてるでしょ?それで興味深いワードって感じ。」
「…それ以前ではどうです?」
「どゆこと?」
「天野力也さん、わかります?」
「Angelの?」
「そうだ。」
「わかるけど…あ、彼がウロボロスを目撃してるとか?それで私も何か知らないか~って感じ?」
「その通りです。」
「悪いけど知らないよ。彼をAngelの本来あるべき姿に修正したのは私だけど、だからって行動を共にしてた訳じゃないし。」
「そうなのか…?」
「…仕方ない。私達、と言うか私と彼がどうやってこうなったかを教えてあげよう!」
そこからは2年前の事件の後、瑠璃さんに破壊されなかったAngelがどうなったのかを聞いた。まず乃亜さんが外的要因で本来の姿、つまり『人類との対話と共生を目的とした完全自律型のアンドロイドとしてのAngel』の姿を取り戻した事。そして周辺に居たAngel、つまり力也さんを修正した事。その後は人類との対話を模索する中でダンスの楽しさに目覚めた事や、配信を通して視聴者や同業である人間との交流を楽しんでいる事などを教えてくれた。
現状、力也さんと瑠璃さん以外に接触できたAngelは居らず、居場所も把握していないとの事。
「…檜山絵理が造り出したAngelは13体。内、瑠璃さんが破壊したAngelは8体。瑠璃さん、乃亜さん、力也さんで11。通報があって我々が保管しているのを入れて12…」
「残るは後1体か。」
「警察にAngelがあるの?」
「何らかの要因で機能停止していたものを我々が回収している。悪用されたら困るからな。」
「そっか…ま、仕方ないか!」
「いいのか?あんたの事だから目覚めさせるとか言うかと思ったが。」
「私が力也を目覚めさせた理由は、あのタイミングだと人間に危害を加える可能性…つまり相澤史郎を抹殺する可能性があったからで、仲間が欲しかったからじゃ無いよ。」
「なるほど。」
「そういえば、相澤史郎ってどうなったの?私は死んだと思ってるんだけど。」
「俺達も知らんな。証人保護ってヤツだ。」
「そっか…って事は、私達は本当に開放されたんだ…!よかった…!」
その笑顔は人間よりも人間らしくて、Angelが本当に機械なのかと疑いたくなった。
──便利屋からの帰り道、私は運転しながら考えていた。
「結局、ウロボロスに関しては何もわかりませんでしたね。」
「あぁ、でも本来の目的だったAngelに関する情報を一応は得られた。専従班としては合格だろう。」
「そうかもしれませんけど…」
「なんだ?」
「課長にどう報告すればいいかと、考えてます。」
「RAINからの指示とかは無いのか?」
「…ありません。ただ、RAINはウロボロスに関して殆ど何も知らないようです。後で詳しく訊いてみようと思ってますが…」
「期待はできねぇ、って感じか。」
「はい。2年前の事件は少し深く突っ込んだら色々と記録が出てきたので現場の情報と照らし合わせて推測程度の事はできたのですが…」
「ありゃあチートだったな。人間じゃ無理だ。」
「そうなんですか?」
「RAINの膨大な情報から求めてる情報を引き出すのは苦労するんだよ。そりゃあ検索できる範囲なら検索して見る事はできるが、今回に関しちゃその検索ワードが無いしな。」
「ウロボロス…ではモチーフ元の説明程度しか出ませんしね……」
「そういう事だ。」
私だからできる事、私にしかできない事。
それがあるなら、私は──




