アンドロイド犯罪専従班 その1
私、朔夜はELLYだ。本来は警察官のサポートを行う為だけの存在。けれど、みんなから求められてきたのは本格的な捜査の参加と推理…そしてこの前は立て籠り犯の手に手錠を掛ける事になった。
私は、私自身がELLYと云う枠組みを越えている気がしてならない。このままでいいのか?そんな疑問が常に発生するようになっていた。
私が所属する事になったのは、ELLYを始め様々なアンドロイドが起こす事件の専従捜査班だ。元は機動捜査隊のような通報を受けて一番に現場へ駆け付けるような部署に各捜査課から課長が捜査員を集めた…謂わば"寄せ集めのはみ出し者集団"と云った雰囲気で、好きにやりすぎて2年前の事件の後は実質的な解散状態だった。
人間の捜査員は殆どが三多摩署の強行犯係に移されていたし、和泉さんと青井さんなんかは"実地試験は完了した"と云う体で本庁がある岐府の装備開発部門…つまり古巣へ戻されたし、その直後に警察を辞めたらしい。
私は色んな部署の助っ人をするような立ち位置…本来のELLYの運用に戻されていた。
だから、今回のアンドロイド犯罪専従班の復活と配備によって私に人間と同等の捜査力が求められている事に少し違和感を抱いている。
──と言う事で、AngelとはELLYの次世代型であり、根本的な性能面での互換性があります。それが2年前に青井さんを修復できた理由です。」
今は岩木比奈子さんによるAngelの解説が行われていた。基本性能が警備用ELLYと同等かそれ以上である事。RAINを介さない自律行動によって生物的な思考に到る事。そして、決して殺人マシンと云う訳では無い事。岩木さんの見解では特異点に到っているかは微妙と云う事らしい。
けれど私は知っている。あの時、一時的に共有された"ハルカ"のメモリーには、ただの記録以上の何かがあった。
「なるほどー!そういう事だったんだ!」
「やっとわかったのかよ!」
「だって私あの時現場居なかったし、箝口令出てたじゃん。」
「…そうだっけか?」
「加賀くん…しっかりしなさい。」
当時、現場に居なかった茜さんと土門さんにAngelがどういう存在なのかと云う事が共有された。
「ひとつ質問なんだが…そこの、えーっと…」
「ハルカ?」
「そう。その分裂した片割れの方は大丈夫なのか?」
土門さんは逃げたハルカ同様に今そこに居るハルカが行動を起こさないかと懸念しているようだった。
「結論から言うとわかりません。今後の経験によってはAngelのパーツが無くてもそれまでに得ている情報によって分離して逃走したハルカと同じ状態になる事は充分に考えられます。」
「…それってどうなんだ?」
「ただし、この子の場合は看護師として始まって私の助手である事を一貫させているので、ボディーガードをさせていたハルカとは全く違ったものになると思われます。」
「なんかややこしいな。」
「つまりですね…育ってきた環境が違えば結末も変わると云う事です。あの子は戦いの中で…便宜上自我と呼びますが、それに目覚めたのに対し、この子は人を補佐する環境に置いていますから。それに、この子には善悪や倫理観と云ったものを叩き込んでいますので。」
「なるほどな…ありがとう。大体わかった。」
Angelに関する疑問が解消されると、もうひとつの方へ疑問が集中した。
「─僕の事ですね?」
「YOMI…だったっけ?どういうものなの?」
「それは俺が説明する。開発者だしね。」
和泉さんが立ち上がって、みんなを見た。
「そもそもの話からするけど、陽太が破壊された事は知ってるよな?」
「それを比奈子ちゃんが直したんだったわよね?」
「そう。そして、その時にAngelのパーツが使われたんだ。個人的にはそれでもよかったんだが、事件解決後に上層部からストップが掛かってな。プロジェクト自体が白紙になったんだ。」
「…で、やったのね?」
「幸いAngelのパーツによる影響も少なかったし、陽太の完成に4年も掛かったんだ。有効活用した方が良いでしょ!ってね。」
「まったく…でもよかったわ。優秀な捜査員だったもの。」
{ありがとう。}
モニター越しにアバターがお礼を言った。
「ちなみにボディは完全に破壊した。」
「って事は、現存するAngelは…」
「その事なんだが。私からいいか?」
「課長?なんです?」
「岩木くんの証言から檜山絵理が作り出したAngelは13体。内"ハルカ"によって破壊されたのは計8体。それらのパーツは"ハルカ"自身の修理と青井の修理に使われた分以外は破壊済み。その"ハルカ"も青井もボディは既に破壊、回収済みだ。」
「じゃあ現存するものって5体?」
「その内1体は市民通報によって機能停止状態で発見され、ここの地下で厳重に保管してある。」
「って事は…私たちがこれから回収しなきゃいけないAngelは4体?」
「そういう事だな。」
「ちなみにAngelと思われる目撃情報は例の不審者ダンサー1件のみで他は精査したら普通に不審者だったぞ。」
「じゃあ他の3体に関しては情報無し?」
「…そういう事になるな。」
「はぁ……道は遠そうね。」
珍しく茜さんはため息をついていた。
「ここまで情報が出ないのには理由がありそうだな。」
「どんな理由よ?」
「考えられるのは…誰かが匿ってたり、後は故障したり、そういう理由で表に出てない場合だね。」
私も和泉さんの考えには賛成だった。ある程度沈静化したとは言え、移民問題などで不審な人物への警戒感が強い関東圏で、ここまで目撃情報が出ないのは何者かの関与を疑わざるを得ない。そうで無いなら…
{もうひとつ理由があるぞ。}
「…もうひとつ?」
{パッと見では見分けがつかないほど人間っぽく振る舞えるようになった場合だよ。}
そう。こちらが想定している以上にAngelの成長や変化、適応が早い場合…
「確かに、それもあり得るのか…」
「だとすると精査されて弾かれた中にもAngelの情報があるかもしれないわね。」
「やる事は山積みだな。」
「盛り上がっている所悪いが、当面の目標はAngel捜索では無いぞ?」
「課長?どういう事ですか?」
「じゃあ俺たちは何をすりゃあいいんです?」
「我々がやらなければならないのはウロボロスの逮捕だ。」
「ウロボロスって、俺たちの管轄なんですか?」
{それについては僕から話すよ。}
「何か情報があるんですか?」
{僕がYOMIとして構築されて最初にやったのはRAINに対する介入行為だった。これは僕と云うAIが誕生する事になったキッカケが警察組織内でのRAINへの不信感からだったからだ。}
「そんな経緯があったのか。」
{それでRAINへの介入を行っていた所、削除される前の無数のエラーデータが発見された。その内容を解析したのが、これだ。}
モニターに映されたのは何者かの視覚映像だった。データの破損が酷かったせいか、ノイズの多い映像だったけど、そこにはナース姿のELLYと思われるものが映っていた。
「これって…」
「"ハルカ"…!」
{やっぱり、そうだったか。}
それは2年前に起きた病院前での戦闘の映像だった。
「と云う事は、これはAngelの視覚映像って事か!」
{で、だ。ここからが重要なんだが…RAINはこのAngelの視覚データをウロボロスが起こした事件データと同じ領域に保存していたんだ。}
「どういう事なの…?」
{わからない。ただ…僕から言えるのは、RAINが独自にAngelとウロボロスの共通点を発見した可能性があるって事なんだ。}
「なるほど…つまり、俺たちはそれを調べればいいって事だな?」
{少なくとも、不審者ダンサーよりは調べる価値がありそうだろ?}
「確かに。」
「まぁ、そういう事だ。」
「わかりましたよ。とりあえずやってみます。」
「課長。俺は不審者ダンサーの方を調べてみてもいいですか?」
「お前が持ち込んだ情報だ。好きにしろ。」
加賀さんは不審者ダンサーを追う事になった。
茜さんは私と組んでウロボロスを、土門さんは怪我の具合を考慮してデスクワークを回されていた。
和泉さんと岩木さんによって技術的な側面から情報に注釈が加えられて、それらは全てYOMIに集約される。RAINよりは捜査の精度が高くなると思う。
「ちょっと、思うんだけど…」
「…?茜さん?」
「YOMIって名前、縁起悪くない?」
「…確かに。なぜそんな名前をつけたんですか?」
「特に理由は無いぞ?カッコいいから。」
{こいつは厨二病なんだ。僕はもう諦めたよ。}
「呆れた…」
「ぶっちゃけ、誰もサニーを使ってるとは思わないだろ?」
サニー…懐かしい名前。和泉さんが青井さんにつけた誰にも浸透しなかったニックネーム…
「てっきり何かの略称かと思ったのに…」
「そんな事言ったら、ELLYだってRAINだってそうだろ。」
「まぁ…確かに。」
「名前なんてそんなもんなんだよ。」
「そんなもん…ですか。」
{僕は朔夜って名前、一生懸命考えたけどな。}
「そうなの?」
「…覚えてます。"朔"は"始まり"って意味の文字だと、青井さんは言ってました。」
「素敵ね。」
{それを和泉は変えようとさせたけどな。}
「和泉さん?」
「いや、違うんだよ。あの時はもっと人名らしい方が良いと思って…ゴメンナサイ。」
「私は、この"朔夜"と云う名前を気に入っています。」
「気に入ってる…ね。」
「はい。ELLYなのに、そんな風に考えるのはおかしな事でしょうか?」
「そんな事は…」
「そんな事は無い。俺はELLYも含め各国のアンドロイドを研究して青井陽太を開発した。そして思った。もっと自由であるべきだと…!」
「私も、そう思うよ。」
「和泉さん、茜さん、ありがとうございます。」
私は、私のままでいいのかもしれない。
{ただし、その思いを正しい事に使う事…!}
「勿論です。私はELLYですから。」




