タイムマシンへおねがい
「ロボ研の夏」の続きです。
──翌朝。
「ハッ…!?」
目が覚めるとそこは貧乏クラブの部室だった。室内を見渡すと、床に須坂と飯島が転がっていた。酒臭い。
カーテンで仕切られた向こう側にも人影があるから、たぶん諏訪と上田も泊まったんだろうな。覗くのは…止めておこう。
振り返ると椅子を3つ繋げて長野が寝ていた。
「おはよう。木曾くん。」
「松本さん…!おはよう。」
どうやら松本さんも泊まったらしい。
「木曾くんも顔洗う?寝跡ついてるよ?」
「えっ…?マジか…!?」
俺は急いで部室棟のトイレへ向かった。
まだ7月だと云うのに大学構内の雑木林からは蝉の鳴き声が聞こえていた。
トイレの鏡を見ると右頬にくっきりと跡がついていた。たぶん机の縁だ。俺は洗顔がてら顔をマッサージした。
「おはよっす!」
「お前…」
どうやらアレは夢じゃなかったらしい。自称未来人が元気に挨拶してきた。トイレの手洗い場で並ぶ俺と自称未来人…
「1個訊いていいっすか?」
「…なんだ?」
「やっぱ信じられないっすか?」
「まぁな。タイムマシンも"アレ"じゃあな…」
「タイムマシンに見えないっすよね。アレ。」
「そもそも"いつ"から来たんだよ?設定にしたってそういうの必要だろ?」
「70年後くらいっすね。」
「割と近いな!?」
「目的は達成されるまで話せないっすけどね。」
「…そういう設定か。」
「そういうもんなんすよ。タイムパラドックス起きるんで。」
「それ聞いた事あるな。」
「こうやって過去に干渉するのは大丈夫なんすけど、確定させるような事はできないんすよ。逆に言えば確定させなければ"そういう設定"って事になるし、起きた事も偶然って事になるっす。時の流れってそういうもんなんすよ。」
「過去は変わらないって事か?」
「そう言えばそうなんすけど…」
「だったら、目的を話した所で何も変わらないんじゃないか?」
「だから変わらない事に関しては言ってるっすよ。現にまだ未来人って信じてないっすよね?」
「…確かに。」
顔を洗い、歯磨きを済ませて、自称未来人を置いて部室に戻ると須坂&飯島が起きていた。カーテンが開いてるから諏訪たちも起きてるらしい。
「なんかダルそうだな?」
「昨日飲み過ぎたしな…てかなんで木曾は平気なんだよ…」
「大丈夫だ。ちゃんと記憶は飛んでる。」
「あぁ、そう…」
須坂も飯島も頭に氷を当てていた。
すると上田が部室に走って入ってきた。半端なメイクで。
「タイムマシンってマジ!?」
「うわっ!びっくりした…」
どうやら自称未来人と上田&諏訪は廊下で話したらしい。俺の肩をぐんぐん揺さぶる。
「自称未来人に訊けよぉおぉおぉ…」
「聞いたから訊いてんだよーーーっ!」
「ちょっと彩葉…!」
俺を揺さぶってる上田を諏訪が止めてくれた。あぶねーーー…吐くかと思った。
「残念ながらアレには俺たちが最初に乗る事になってるんだな~…これが。」
須坂と飯島がドヤ顔で上田に立ち開かった。どうやら昨日の内に決まってたらしい。てかあの後そんな事になってたのか。
「どっちか変わって。」
上田も引く様子は無い。予想通り飯島が殴r…譲った。
「てかアレって2人も乗れるの?」
「乗れるっすよ。膝の上に乗れば。」
「えーーー……「じゃーんけーん…!」」
──自称未来人が乗ってきたと言うタイムマシンの前に全員が集合した。
自称未来人は椅子と繋がってる冷蔵庫についてるタイマーを弄っている。ホントにこんなので行けるのか…?
「後はレバーを引けば自動的に行けるっす。帰る時はレバーを戻すっすよ?」
「オーケーオーケー。」
「オーキードーキーだろ…」
「は?」
「どっちでもいいでしょ。行ってきな。」
「んー」
「緩いな…」
上田がレバーを引くと、マシンはシャボン玉のような球状の膜に包まれ、光を放って消えた。
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うわっ…何これ……
気持ち悪い……うっぷ…
タイムマシンを包んでた膜が消えた瞬間、あーしは派手に吐いた。
「うぅっ……最悪。着替えよ…」
確か物置に服があったはず…あーしは部室棟の傍にある物置からジャージをパクった。
「あとは…見つかっちゃダメなんだっけ?」
グラウンドの時計は8時を指してる。そろそろイヴが来ちゃう。
部室に入るとあーしも心美も寝てた。間に合った。
「…あった。」
廊下から足音がする。あーしは下着をジャージの中に隠して窓から逃げた。ミッションコンプリート?って感じ。
あとはタイムマシンに乗って帰るだけ…
「あ~…身体バキバキするわ~…」
「上田の奴め…俺たちと寝るのがそんなに嫌かっ!」
「これは次の実験対象は上田で決まりだなw」
須坂と飯島…!?なんでこんな所に…?見つかったらマズイ…!
あーしは咄嗟にストッキングを被った。この前たまたま見た刑事ドラマで犯人がそんな格好をしてたから。
私はタイムマシン目掛けて走った。
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光の球体が現れて、その中にうっすらと影がある。その影が段々と濃くなって、見覚えのある"マシン"が現れた。
「おっ…!戻ってきた…!?」
そこには不審者が乗っていた。
「お前…あの時のストッキング男!」
「…うっぷ。」
──タイムマシンは存在した。どういう原理かはわからないが、この椅子と繋がってる冷蔵庫のようなものの中にはその秘密が詰まっている。
「次!次は俺が乗るっ!」
マーライオンと化した上田を尻目に須坂が席についた。
「飛ぶ場所は少し弄った方がいいんだよな?」
「そっすね。1ミリくらい目盛りを動かした方が安全っす。」
「よーし!それじゃ早速。」
レバーが下ろされた。
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おrrrrr…
上田のようにはならんと思っていたが、同じ目に遭ってしまった。何なら俺の方が酷い気がする。
俺の目的は"盗まれたパーツを回収する事"だ。昼間、俺たちは食堂に居るはずだから何も難しい事は無い。余裕余裕…
「あぁ……腹減った…」
なん、だと……誰か居るのか…!?
俺は驚いて"不審者確保くん"を倒してしまった。仮組みしかしてなかった"確保くん"は脆くも崩れ去った。
「何だ!?…くそっ、見えない…ッ!おーい!誰か居るならほどいてくれぇ!」
どうする…?声的に木曾辺りだと思うが、バレたりしないか…?
くそっ…こんな事なら俺もストッキングを持ってくるべきだった…!仕方ない、一か八かだ。
「私です。」
「須坂!丁度いい所に!縄これほどいてくれっ!」
「わかったわかった。」
「助かる…!マジありがとう!やっぱお前らは友達だったんだな…!」
木曾は何の疑いも持たずに部屋を出て行った。
…普通、服装の違いとか気になるだろ。
俺はパーツを物置に隠してタイムマシンに乗った。
「あぁ…視界が歪む……」
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──戻ってきた須坂はドヤ顔だった。
「どうやら俺は上田と違って吐かなかったようだなっ!」
上田が悔しそうな顔で須坂を睨んでる。ストッキング越しに吐いて色々と大変だった事を須坂は知らない。
須坂はロッカーを開けて自分の成果を誇示していた。
──夜。
「これで一件落着だな。」
俺たちは自称未来人…あさひも交えて昨日の残りの花火で遊んでいた。
「凄いっすね!この時代では手軽にできるんすね!」
タイムトラベルものでよく聞くセリフを放つあさひがジワジワくる。
「ホントに言うんだ…」
隣に座る松本さんも同じ事を思っていたらしい。
「なんか、不思議な気分。」
「不思議?」
「うん。まさか木曾くんとこんな風に夏を過ごせるとは思わなかったし…」
松本さんの頭が俺の肩に乗る。
えっ?どういう事だ…?何が起きて…
「昨日、木曾くんが告白してくれて…私、嬉しかった。こんな気持ちになるなんて、本当に思わなくて…」
待て待て待て…昨日?俺は告白なんてしてないぞ?一体どういう…
「…!!」
まさか。まさか、だよな…?
"これからするのか?"
俺が、アレに乗って…
てか松本さんには"何でも話せる親友"と云う名の彼氏が居るんじゃ…?
「そう言えば、昨日言ってた親友って…この大学の奴?」
「え?うん。そうだよ。後藤ビビって言うんだけど…」
「ビビ?」
あぁ…!あの娘か!
「確かギャルっぽい子だっけ、それで、義足の…」
「あ、知ってたんだ?」
「この大学でギャルって目立つじゃん?アイツかアイツかーってくらいには絶滅危惧種。」
「…確かに。」
「けどそっか…そうか。」
「何?」
「いや、何でも。」
「もしかして…木曾くんってギャル好き?」
「そんな事ないって…!」
「ホントに?」
「ホントホント。ギャル好きだったら松本さんに告白なんて…」
そうだ。俺はこれから、告白しに行くんだ。目の前に居る人へ。
昨日へ。
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「よかったっすね。自分も目的が果たせて満足っすよ。」
「目的?」
「祖父ちゃんと祖母ちゃんに会いに来たんすよ。」
「それって…」
「自分の名前は木曾あさひ。2162年から来たタイムトラベラーっす。」
「ベタだねぇw」
「ずっと言ってみたかったんすよ。こういうセリフ。自分も未来ロボット研究会のメンバーなんで!」
日本の夏。
タイムマシンの夏。




