ロボ研の夏
──7月某日。ジメジメとしていた梅雨の空気たちが潤いを求めて彷徨い始める頃、俺は同じ大学の女の子に恋をした。社会福祉学科の松本さん。端整な顔立ちに知的な感じのシャープなスマートグラス。長い黒髪はひとつに纏められていて、うなじから伸びる髪が…
「ちょっと!どこ見てんのよ。」
「えっ…あっ、ちょ…な、なんだよ!貧乏クラブの諏訪心美!」
「こ・こ・み!わざわざ難しく読むなっ!それに貧乏クラブはあんたもでしょ!」
俺たちは未来ロボット研究会、通称貧乏クラブに所属している。昔は一大サークルだったらしいけど、今は殆ど実績らしいものが無く、すっかり寂れて窓際サークルとなっていた。ちなみに諏訪とは中学の頃からの付き合いで、所謂腐れ縁だ。
「大体、なんでこんな早起きなんだよ。昨日散々飲んでたから起きないと思ったのに。」
「朝の内にシャワー浴びようと思ったんだけど…あーしの下着盗んだ奴が居んの。」
「マジ?物好きも居るんだな。」
「は?」
──何してんの?」
代表の長野がやってきた。
「ゴミの分別。」
「待て待て!長野、助けてくれ!」
「…知らん。」
「このやろォーーーっ!」
何が逆鱗に触れたのか…ヤンキー気質の上田に犯人扱いされてしまった。
「理不尽だっ!」
「あーしの下着に需要が無いって?」
「言ってな…痛いっ!痛いイタイ!ごめんなさいっ!」
こんな目に遭ってはいるが、俺たちのサークルは平和な日常を謳歌していた。チャーシュー状態の俺が言うんだから間違いない。
「そう言えば須坂と飯島は?」
「またテニサーの部屋でも覗き行ってんじゃないの?」
「あいつら…」
そんな話をしていると、二人が大慌てで部室に入ってきた。
「大変大変たいへんたいへんたいへんたい変態変態!」
「変態はあんた達でしょ。」
「そうじゃなくて!今さっきそこにストッキング被った変なジャージ野郎が居たんだよ!」
「そいつが犯人かっ!おい上田!縄解けよ!」
「うるさい。」
「てかなんで木曾は捕まってんの?」
「彩葉の下着を盗んだ容疑者よ。」
「助けてくれ。俺は無実だ。」
「悪いな、俺達はまだ死にたくない。」
「ろくでなしっ!この前作った覗きロボットのパーツ代払えっ!」
「覗きロボットとは失礼な。」
「高湿度でも曇らないカメラレンズと水陸両用のボディを備えた小型探査ロボットだぞ。」
「それをテニサーのシャワー室で使ったんだから覗きロボットでしょうが!」
「丁度いい環境がシャワー室しか無かったんだからしゃーない。」
「こいつらの方が犯人じゃないか?」
「てか相撲部のシャワー室にしなさいよ。」
「やだよ!」
「ねぇ長野くん。あの二人クビにできないの?多分あの二人クビにできたら松本さんも気兼ねなく入ってきて新人も見込めるよ?」
「あはは…」
「それはそうかもしれんけど、あいつらの腕は確かだからなぁ…」
確かに、須坂と飯島はクリエイティブな才能に長けていた。欲望に忠実なせいか、用途はアレだが。
「もうよくね?クビで。」
「待て待て待て待てぇ!」「上田は相変わらず辛辣だな!!」
「待つのはあんた達の欲望じゃない?w」「何か言った?」
「あーもう、わかったよ!じゃあ役に立つとこ見せてやるよ!」「いえ、ナンデモアリマセン。」
須坂は気合いを見せた。飯島は…まぁ、上田相手じゃ仕方ないか。
「どうすんのよ?」
「さっき見掛けたストッキング男を捕まえる!」
「いや、私らはそれ見て無いんだけど…って聞いてないか。」
須坂と飯島は部室の奥から"失敗作"を幾つか引っ張りだして改造し始めた。
──昼。
「できたぞ!その名も『不審者ホイホイ確保くん』だ!」
「我々はまた素晴らしいものを作ってしまったようだな。」
「じゃあ早速見せてもらいましょうか?」
「いや、メシ食ってくる。」
二人は意気揚々って雰囲気で部屋を出ていった。
「これ…ホントに動くのか?」
「さぁ?」
「てかそろそろ縄ほどいてくれない?」
「ダメ。」
「なんでだよ!?」
「私たちもご飯行ってくるから。」
「だったら尚更ほどけよ~~~っ!」
「ごめんね?」
「松本さん…っ!」
「…仕方ないからパンくらいは買ってきてあげるわよ。」
「だったらほどいてくれよ…」
「それはダメね。彩葉に怒られちゃうし。」
諏訪にはいつかわからせる必要があると思う。
「あぁ……腹減った…」
俺の腹が音を立てたのとほぼ同時にガシャーンッと何かが落ちる音がした。
「何だ!?…くそっ、見えない…ッ!おーい!誰か居るならほどいてくれぇ!」
俺はチャーシュー状態で身体を跳ねさせた。
反応が無い…かと思ったら。
「私です。」
「須坂!丁度いい所に!縄ほどいてくれっ!」
「わかったわかった。」
「助かる…!マジありがとう!やっぱお前らは友達だったんだな…!」
救世主に縄をほどいてもらった俺は様々な思惑を抱えて食堂へ向かった。
──食堂につくと松本さんと擦れ違った。
「あれ?ほどいてもらったんだ?」
「須坂が来てくれたんだよ!いやぁ、持つべきものは友達だなぁ…」
「…そうなんだ?」
「言っておくけど、ホントにやってないからね?」
「そ、そうだよね。木曾くんが泥棒なんてする訳無いよね。」
松本さん…信じてくれるのかっ!俺は感動している。それに比べて諏訪…本当に腐れた縁だ。
復讐してやろうと思ったが、既に居なかったので俺は食堂の余り物を胃にブチ込んで部室に戻った。
「無い!無い無い無い!」
部室では須坂と飯島が床を這いずるようにして何かを探していた。
「どうしたんだ?」
「"不審者確保くん"のパーツが無いんだよ!」
「くそぅ!どうして無いんだ!」
「最初から無かったんじゃないのぉ?」
「…お前だな?諏訪が盗んだんだな!?」
「なんでそんな事しなきゃいけないのよ!第一あたし達が戻った時にはもう探してたじゃないのよ。」
「ぐぬぬ…」
「じゃあ誰が盗んだんだろ?」
「知らないわよ。それこそ不審者なんじゃないの?」
「…くそぅ!」
「うるさい。見苦しい。暑苦しい。」
「上田……そこまで言わなくてもいいだろ…」
──結局、みんなで探し回ったけど、パーツは見付からなかった。
「もう夜だし諦めようぜ。」
「てか長野はどこ行ったんだよ?」
「ただいま。」
「おかえり。」
「どこ行ってたんだよ。」
「ハンズとドンキ。いいもん買ってきたぜ~…!」
「まさか無くなったパーツ…?」
「じゃ~ん!」
「…花火かよっ!」
「どうせ泊まるだろ?みんなでやろうぜ!」
「また怒られない?」
「いいじゃんいいじゃん。やろっ!」
部室を出て、誰も居ないグラウンドで花火に火をつける。シュワーッと噴出するススキ花火、バチバチと弾けるスパーク花火、須坂と飯島はロケット花火を打ち合っている。※よい子は真似しないでください。
「あいつらアホだろ…」
「まぁ、いつもの事じゃん。私はもう疲れたよ。」
「あーしも疲れた。」
俺たちは線香花火に火をつけた。
「…私もやろうかな。」
俺と女性陣でパチパチと音を立てる線香花火をボーッと眺める。
「なんか夏の終わりって感じする。」
「まだ7月だけどね。」
「てか長野はどこ行ったんだ?」
「あの人すぐ居なくなるよね。」
「確かに。」
ひとつ、またひとつと線香花火の玉が落ちる。
諏訪と上田は須坂と飯島の戦闘に加わって行った。
「なんだかんだあいつらもアホだな。」
「ふふっ…確かに。」
俺と松本さんの線香花火は空気を読んでるのか落ちる気配が無い。
「…木曾くん。」
「ん?」
「誘ってくれてありがとう。」
「そ、そんな…!お礼なんていいって!」
「私さ、春祭のミスコン参加させられた後、入賞しちゃったせいで変に持ち上げられてさ、結構しんどかったんだよね。」
「そうなんだ?」
「親友にも泣きついたりしてさ。ホント情けなかったんだ。」
「し、親友…?」
「うん。木曾くんと諏訪さんみたいな感じかな。」
「そ、そうなんだ…」
男か…?
「…好きなんだ?」
「えっ…?あぁ、うん。好きだよ。」
「そっか…」
「木曾くんは?諏訪さんの事どう思ってるの?」
「まぁ…腐れ縁かな。なんだかんだ一緒に居る感じ。」
「…そっか。」
線香花火の玉が落ちた。
「さてと。私も交ざって来ようかな。」
向こうではドラゴン花火が火を噴いていた。
「楽しんでるか?」
「長野か。」
「ちょっと来てくれるか?」
「…?」
そこには1人の男が居た。
「誰です?」
「初めまして…でいいのかな……?いいよな…?」
なんだこいつ…?
「長野、紹介してくれ。」
「こいつは…"あさひ"って云うんだ。」
「初めまして!よろしくっす!」
「よ、よろしく…」
「それで~…その、だな……」
「なんだよ?」
「未来人だ。」
「…なんて?」
「だから、未来人だよ。」
「…頭大丈夫か?」
「俺だってさっき出会ったばっかなんだよ…」
「おいお前。」
「あさひっす!」
「あさひ…そんなに言うなら、証拠はあんのか?」
「証拠っすか?あるっすよ!」
部室棟の裏手には両サイドに冷蔵庫のようなものが引っ付いたゲーミングチェアが置いてあった。
「これは?」
「タイムマシンっす。」
「…はぁ?」
「だから、タイムマシンっす!」
…はぁ?
未来ロボット研究会
・長野…代表。ロボコンに情熱を燃やす。
・木曾…副代表。諏訪とは中学の頃から腐れ縁。
・諏訪…諏訪心美。木曾とは中学の頃から腐れ縁。
・上田…上田彩葉。ダウナーギャルって感じ。
・須坂…問題児A。開発の腕は確か。
・飯島…問題児B。開発の腕は確か。
・松本…サークルへの正式加入は保留中。
・あさひ…自称未来人。




