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私はアイドル その2


──あの事件の後、私は炎上していた。

『ホントは付き合ってたらしいよ?』

『じゃあ売れて捨てたんだ?』

『そうに決まってるw』

SNSには心無いコメントが飛び交っていた。

私は悪くないのに…


「おはようございますっ…!」

そんな中でも叔母さ…マネージャーに言われた"しっかりと挨拶する事"は守っている。マネージャー曰く、こういう時こそ大事らしい。できるだけ目を見て、しっかりお辞儀して、笑顔を意識して…


「おはよう。」

「NOAHさん…!」

「久しぶりだね。今日はよろしく。」

「…はいっ!」

NOAHさんは私にあの便利屋さんを教えてくれた人で、ダンスがとても上手い配信者さん。私が目標にしてる人のひとりだったりする。

「ごめんね。まさかこんな風になっちゃうなんて思わなかった。」

「そんな、NOAHさんのせいじゃないですよ…!」

そう…NOAHさんは何も悪くないし、紹介してくれた便利屋さんたちも凄く親身になってくれた。叔母さんだって、本当に心配してただけだって事がわかった。私の周りに居る人たちは凄く良い人たちだった。その人たちに応える為にも、私は頑張らなきゃいけないと思った。


「こうなって…ここでターンして……」

衣装を着て、メイクを済ませて、NOAHさんと一緒に振付の確認をする。NOAHさんの提案で実現したこのコラボ動画も、できれば一発で成功させたかった。

「それじゃあ、やろっか!」

NOAHさんの声にスタッフさんが同期を取る。音楽が流れる。最近話題になってる曲…それを2人で踊る。

たまに視界に入るNOAHさんのダンスは完璧で、気を引き締めた。流行りの踊りやすいもののはずだけど、NOAHさんと私では次元が違うような感じがした。

「はい、オッケーでーす。」

スタッフさんの声で緊張が解けた。息が上がってる…ちょっと固かったかもしれない。やり直したいかも。

「朱莉ちゃん!最高だったよ!」

「ほ、ホントですか…?それなら、よかったかも…?」

私は不安だけど、NOAHさんは凄く喜んでいた。


──少し休んでから映像を確認した。特におかしな所は無いけど何となく不安。

「大丈夫かな…?」

「ん?上手くできてると思うよ。自信持って!」

今はNOAHさんの言葉を信じる事にした。


「NOAHさんは凄いなぁ…」

「ん?そうかな?」

「何て言うか、キレッキレで…」

「あははっ!ありがとう!」

「私もNOAHさんみたいに踊れるように頑張らなきゃ!って。」

「嬉しい…凄く嬉しいよ。」

「そ、そう…?」

「うんっ!」

NOAHさんは笑顔だった。


「あっ!そうだ…!」

「ん?」

「えっと、ちょっと待って…!」

私はバッグから綺麗に包装された箱を取り出してNOAHさんに渡した。

「…これは?」

「便利屋さんを紹介してくれたお礼がしたくて…受け取ってくださいっ!」

「そんな、気を遣わなくていいのに…ありがとう。」

中身は、お礼の品を探していた時に一目惚れして買ったブレスレット。

「綺麗…ホントにいいの?」

「はい…!お礼なので…」

「ありがとう…凄く嬉しい。」

NOAHさんはプレゼントを胸に抱いていた。少し大袈裟な気がするけど、喜んでくれたなら良かった…!


──NOAHさんとのコラボを撮り終わり、午後からはグループの仕事。私はマネージャーの車に揺られて、途中で他のメンバーも乗ってきた。

「おはようございます。」

「ぉはよ~ございまぁ~す…」

「お、おはよう…!」

「稲田さん早いね。」

「さ、撮影があって…」

「そっかそっか。」

「今日も頑張ろうね。」

「うん。」

「マネージャー、私ちょっと寝る~…」

「はいはい。」

正直、メンバーとは距離感が掴めてない。元から話が合わないって云うのもあったけど、迷惑を掛けちゃってる自覚があって今はどうすれば良いのかわからないって感じになってて、それは向こうも思ってるのか、(しばら)くして他のメンバーも来ると私抜きで話が弾んでいた。


──テレビ局に着くと、見覚えのあるタレントさんがロケをしてた。そういえば最近はどこも撮影させてもらえないってスタッフさんがボヤいてたなぁ…

駐車場で車を降りて叔母さ…じゃなくて、マネージャーについていく。そろそろ切り替えていかないと言い間違えそう。

「今日も張り切っていこ~っ!」

さっきまで眠そうにしてたリーダーのスイッチが入ったらしい。私も…って思ってたんだけど、みんな楽屋で待機する事になった。

「何かあったのかな?」

「他が押してるんじゃない?」

「じゃあ仕方ないかぁ…?」

「てかさー…誰かマニキュア持ってない?なんか()げてんだけど。」

『エレナ』ちゃんは、お父さんが俳優さんで幼い頃から芸能界で頑張ってる。ちょっと自分勝手な所があるけど、誰にでも分け隔て無く接する姿は尊敬する。

「あたし持ってるよ。」

『優花里』ちゃんは、最近バラエティに引っ張りだこって感じで、リアクションもトークも上手くて感心する。ある意味、私とは正反対。

「ゆかちゃんさんきゅ~」

「最低限のメイク道具くらい持ちなさいよ。毎回メイクさんつく訳じゃ無いんだから。」

『イノ』さん…言葉はちょっと厳しいけど、いつもメンバー全員を気に掛けてくれるお姉さん。お芝居が凄く上手い。

「その時はアルちゃんに借りる。」

「え~…アタシぃ?もう毎回優花里でよくない?」

『アルちゃん』…ダンスが上手くて、ちょっと不思議な子。だって"アルちゃん"までがセットなんだもん。

「毎回は流石に~…」

「私が貸してあげるよ。」

『エリ』は貸し借りをキッチリしてくれるからある意味凄く楽。

「エリはお金取るから嫌。」

「じゃあリーダーから借りなよ。」

「舞と明日香はセンス無いじゃん。」

「「じゃあ自分で持って来なよ!」」

リーダーの『舞』さんは美人でオーラもあって、歌も上手くてダンスも…なんだけど、実は結構不器用なポンコツさん。

『明日香』はスポーツ万能のツッコミ役で、舞さんとダブルセンターをやってる。

この2人が実質Sugarの顔って感じ。

「あ、あの…私、持ってるから。」

そんな凄い人たちに囲まれてると、私が一番中途半端だと思ってしまう。

ネットでも"胸がデカいだけ"とか"クールじゃなくて陰キャ"とかって言われるようになってきて、たぶん私に何も無いって事がバレてるんだと思う。

もっと頑張らないと…

「うん。ありがと!やっぱ持つべきものはゆかりんとあかりんだわ…!」

「てかエレナは大好きなパパに買ってもらいなよ。」

「パパはそういう所ちゃんとしてるんですー!だから最高なんですー!」

「…ファザコン。」

「じゃあパパよりカッコいい人出してみてよ。」

「…ごめん、それは無理。」

「でしょ?」

エレナちゃんのお父さんがカッコいいって事は全国民が知ってる。普段テレビや映画を見ないネット廃人でも知ってるレベルで、イノさんがすぐ謝るくらい。

「てかそれ禁止にしようよ。誰も勝てないって。」

「確かに。」

「禁止ってw」

「…zzz」

「舞ちゃんスイッチ切れちゃった。」

「ほらー!エレナのせいだよ?」

「それ私に関係無くない!?」

私たちの待ち時間はいつも大体こんな感じだった。


──(しばら)く楽屋で待ってるとマネージャーが戻ってきた。

「ちょっと面倒な事になったわ。」

「面倒…?」

「何かあったんですか?」

「隣で収録してる番組のタレントが失踪したらしいのよ。」

「失踪?どゆこと?」

「…休憩中に居なくなった、って事ですか?」

「詳しくはわからないんだけど、とにかくその件で既に警察が来て……」

そんな話をしていると、楽屋の扉がノックされた。


スーツを着た綺麗なお姉さんとマネージャーが何かを話しているのを見ていたら、舞さんが呼ばれた。

「はいっ!」

いつの間にかスイッチが入ってる舞さん…流石です。"誰かに見られてる"状況になると即座にアイドルとしての自分に切り替わる。私もそうなれたらいいな…


10分くらい話した後、綺麗なお姉さんは軽く会釈をして去っていった。

「何だったの?」

「何かね~…取調べ?みたいな。」

「聴き込み?」

「それそれ。何回か共演した事あったからさ。」

「じゃあさっきのって警官?」

「みたい。」

すると叔母さんが

「この件は口外しない事!…みんなも、いいわね?」

「「「「「はーい。」」」」」

その後、叔母さんは何回も電話を掛けていた。事務処理?事実確認?現状把握?たぶんそんな感じ。

私たちの収録…どうなるんだろ?


──"最近話題の"と言われる事が増えたSugarだけど、別に一日中スケジュールがびっしりと云う訳じゃない。特に今日みたいに番組用の映像を収録する日は他の仕事を入れない事の方が多い。だからこうやって楽屋で無限に待ってるんだけど…

他のメンバーは完全に自分の事を始めていた。エリとアルちゃんと明日香が鏡の前でステップを踏んでて、エレナは雑誌を読んでる。舞さんは相変わらず寝てるし、イノさんと優花里ちゃんはどっか行っちゃった。


…あれ?メッセージ来てる。

私の端末に通知が出ていた。

「朱莉さんって端末持ってんだ?」

「うん。そうだよ。」

「メガネにしないの?両手空いて便利だよ?」

「目線で文字打つの難しくて…」

「あー…わかる。私も慣れるまで大変だった。」

そんな話をしながら画面を見ると、差出人は珠美さんだった。

『事件あったの?大丈夫??』

『タレントさんが失踪したらしいです。私たちは大丈夫ですよ!』

『そっかそっか。朱莉さんも気を付けて、何かあったら相談乗るから。』

『ありがとうございます!』

っと、珠美さん…優しいなぁ。


扉が開いて叔母さんが声を掛ける。

「出番よ!準備して。」

舞さんのスイッチが入る。

「張り切っていこ~っ!」

「「「「「お~っ!」」」」」

お、お~っ!


あかりん的、Sugarメンバー紹介

・舞さん…リーダー、カラーは白。

・エレナちゃん…お父さんが俳優、カラーは青。

・エリ…貸し借りがしっかりしてる、カラーは赤。

・アルちゃん…ダンスが上手い、カラーは翡翠色。

・イノさん…演技が上手、カラーは黒。

・明日香…スポーツ万能、カラーはスカイブルー。

・優花里ちゃん…バラエティ担当、カラーはピンク。

・あかりん…私、カラーは山吹色。

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