滅びの真実
「いい機会だから、みんなにカディアの街を案内しようと思うのだけど……どうかしら?」
「「賛成」」
「お願いします」
コノハがやってきた翌日。
リアの提案で俺達は改めてカディアの街を回る事になった。
「そういえば、コノハはもう俺達の事は聞いたのか?」
「はい。お二方が召喚された使徒様だと言う事ならお聞きしました。名前をお聞きした時にもしやとは思いましたが、本当にそうだったとは……」
「俺も祈もそんな大層なものじゃない。できれば普通に接してくれ」
「承知いたしました」
……凄い堅苦しいけど、たぶんこれは素だな。
「ただ、一つ分からない事がございます。お二方が召喚されたのはこの国を救う為だとか……」
「ん、そう」
「一体この国を何から救うのですか? 見たところいたって平和に見えるのですが……?」
「……」
賑やかな街並みを見て、コノハが首を傾げる。
まあ、そう思うのも無理はないか。
「たぶん、今日一日街を見て回れば分かるよ」
「ん、だから、今は楽しんで」
「そうですか……?」
俺と祈で一旦話を切り上げる。
……どうやら、祈もリアの顔が一瞬曇ったのを見逃さなかったらしい。
と、話している内に冒険者ギルドが見えてきた。
「着いたわね。ここが冒険者ギルドよ。まずは冒険者として登録して、貴女が倒したレアメタルワームの素材を換金しましょう。先立つものは必要でしょう?」
「はい。お願いします」
扉を開けて中に入る。
受付にはいつも通りユリナさんがいて、軽く自己紹介をしてからコノハの冒険者登録を済ませる。
「これで登録は完了ね。で、例のレアメタルワームの素材なんだけど、ギルドとしては全部合わせて金貨20枚。魔石は金貨10枚で買い取りたいと思ってるけど、それでいい?」
「はい、構いません」
合計金貨30枚……日本円で30万円!?
おいおい、ほぼサラリーマンの月収くらいだぞ……
「もしかして、冒険者って結構高給取り?」
「命懸けの仕事だもの。これくらいは高ランク冒険者になれば当たり前よ。まあ、レアメタルワームの素材が高価だからっていうのも勿論あるけれど」
リアが説明してくれる。
えっと、素材は希少な金属や鉱石だっけ。
「お待たせしました」
「じゃあ、街を見て回りましょうか」
冒険者ギルドを後にし、四人で街を回る。
初めて街を見るコノハは勿論、俺や祈にも新しい発見があり、とても有意義な時間を過ごす事ができたが、時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまう。
日も傾き始めた頃、最後にリアが案内してくれたのは街を一望できる高台だ。
「どうだったかしら? カディアの街は」
「とても楽しい一時でした。見たことのない物をたくさん見れましたし、街の皆さんも優しくしてくれて……後は途中でいただいた甘味が美味しかったです。中に果物の入った……」
「いちご大福ね」
「はい。それです」
夕日を眺めながら今日の出来事を少し興奮気味に振り返るコノハ。
楽しんでくれたみたいだな。
「ここはとても良い国です。差別や貧困がなく、人々は笑顔に溢れている。他国に攻めいられる事もなく、魔物に脅かされる事もない。きっと、これからもずっと平和な時が続いていくのでしょう。ですが……」
……気付いたんだな。
「それ故にこの国はいずれ滅びの時を迎えてしまうのですね……」
落ち着いて話をする為に俺達はコノハを家へ招いた。
ついでに夕飯もご馳走する事になったので、俺は調理しながら話を聞く事にする。
「この国が滅びる要因、それは"人"で間違いありませんか?」
「その通りよ」
「ん、具体的には人口増加に伴う土地不足、並びに食糧不足。それによって起こる少ない資源を奪い合う為の人と人同士の生存競争。これがこの国の滅びる理由」
そう、この国を滅ぼすのは魔物でも、天変地異でも、ましてや魔王でもない。
"人"という実にありふれた答え。
「どこで分かったのかしら?」
「高台から街を眺めた時、街外れから樹海までの距離がやけに短いと感じたのです。レアメタルワームのような巨大な魔物が迷い込む可能性があるなら、もっと街と樹海は間隔が空いていないとおかしい」
コノハの言う事は正しい。
樹海から街までの距離は、魔物からの防衛を考えたら確かに短い。
それこそ、レアメタルワームのような魔物が一直線に街に向かえば、すぐに辿り着いてしまう程に。
「そこで気付いたのです。これは考えなしに街を広げたのではなく、そうせざるを得なかったのだと」
国が発展して人口が増えれば、街が拡大するのは当たり前の事。
だが、フェルミナス王国にとってその当たり前の事実は致命的だ。
「本来であれば、国土を広げ、街を発展させるのは良い事です。ですが、人々は結界という限られた範囲でしか生活ができない。このまま発展を続ければ、先程イノリさんの仰った通りになってしまいます」
人と人同士の争い……つまりは内戦だ。
「……ヘイゼルの見立てでは、後100年も持たないそうよ。まったく、情けなくなるわ。自分の国の事だって言うのに私には何もできない……」
「リアさん……」
リアが悲痛な面持ちで告げる。
100年……一人の人間から見れば長いと感じるかもしれないが、国単位で見れば余りにも短い時間だ。
けどな……
「ん、それは間違い」
「え?」
「何もできてなくない。リアは私と兄さんを召喚した」
「それは私達にできない事を二人に丸投げしただけで、根本的な解決には……」
「ん、丸投げの何が悪い? 私は家事全般を兄さんに丸投げしてる」
「そんなしょーもない事で威張るな」
手伝ってくれたってバチは当たらないんだぞ。
「ん、それに私達がなんとかすれば、根本的な解決になる」
「……無茶苦茶言うわね。相変わらず」
「でもまあ、俺達はその為に呼ばれたんだ。多少は期待しててくれよ」
「……ありがとう、カナタ」
実際、そんなに悲観するような状況じゃないしな。
どうせ、祈が知識を補完し終えれば、嫌でもひっくり返るんだし。
「よし! 湿っぽい話は終わりだ。飯にするぞ」
「ん! から揚げ!」
「いい匂い……」
「レモンはありますか?」
「あるぞー。ちなみにご飯はおかわりあるからな。じゃあ、手を合わせて」
「「「「いただきます」」」」
全員で茶碗片手にから揚げを頬張る。
このサクサクの食感……やっぱり料理スキルのおかげで前より美味しく作れるな。
「ところで、皆さんにお願いがあるのですが」
「んぅ、おふぇがぁい?」
「こら、行儀悪いぞ」
「んっ、お願い?」
「はい。今後のわたくしの住まいについてです。できればこちらに住まわせていただけませんか? 最初は宿屋に泊まる予定だったのですが、聞くところによると、この街には宿屋がないとか……」
ゲームや異世界に定番の宿屋はこの国には存在していない。
いや、一応存在はしているらしいのだが、寝泊まりの為に使う宿じゃなくて、男女の逢い引きに使われる系の……
「ん、あるにはある。ただ、連れ込み宿」
「ストレートに言うな」
「はい。存じております」
「……」
存じてるのかい。
ていうか、まったく動じていない二人とは対象的にリアはちょっとそわそわし過ぎ。
お姫様だからこういう事に免疫ないのかもしれないけど。
「でも、なんでまたここに? 他にも手頃な貸家はいくつかあったと思うぞ」
俺達はあえてここを選んだが、コノハにはコノハなりのこだわりとかあるだろうし、そんなすぐに決める事はないと思う。
「正直、見知らぬ方々より、気心の知れた皆さんとご一緒の方が気が楽なのです」
「「分かる」」
ぶっちゃけると俺と祈が城を出た一番の理由はそれだ。
確かに城の人達とは仲良くなったが、それは家族としての仲の良さ、あるいは距離感とは別のもの。
家の中、家族の前でくらい気を抜きたいという俺達にとってはどうしても息が詰まってしまう。
だからこそ、コノハの気持ちはよく分かる。分かるのだが、
「でも、そんなに信用される覚えがない」
「何を仰いますか。わたくしにとって皆さんは命の恩人なのです。信を置くのは当然の事。むしろ、お側で役に立たせてください」
なるほど、恩返しがしたいからなるべく側にっていうのもあるんだな。
気にしなくていいのにとも思うが、自分が同じ立場なら大体同じ事を言うと思うので強くは言えない。
「一応、一軒家を借りるって選択肢も……」
「もったいないです」
「……まあ、リアも一緒に住んでるし、後一人増えても大差ないか……」
俺としてはコノハは信用しても問題ないと思ってる。
礼儀正しいし、なんとなく俺達と気が合いそうな感じがする。
……それにローゼの言ってた事もあるしな。
「俺は構わないけど、二人は?」
「ん、問題なし」
「私もいいわよ」
「じゃあ、そういう事で」
「どうぞよろしくお願いいたします」
こうしてリアに続き、コノハという新しい同居人が増えたのだった。
「何故カナタ達は必要だったのか?」という答えがようやく明かされました。
40話越えてやっとかよと思う方もいるでしょうが……すいません作者も思いました。
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