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引っ越し


 ギルドマスターと戦った日から数日。

 無事に入居手続きが通り、足りないもの(主に家具や生活用品)を買い揃えた俺達は今日、いよいよ城を出ることになった。


「お世話になりました」

「ん、色々とありがとう」

「寂しくなるな……」

「そうですね……若者の巣立(すだ)ちの瞬間には何度も立ち合ってきましたが、慣れる気がしません……」

「お、大袈裟(おおげさ)ですよ。会おうと思えばすぐ会えるじゃないですか」


 やけにしんみりとしているエリオットさんとヘイゼルさん。

 そんな二人を見てリアが首を傾げる。


「ヘイゼルは教え子が手元を離れるから分かるのだけど……どうしてお父様までそんなに寂しがっているのですか?」

「……せっかくできた将棋(しょうぎ)の相手がまたいなくなってしまうのだ。寂しくもなる」

「そんな理由……」


 まるで、実家に来ていた孫が帰ってしまう時みたいなことを言うエリオットさんにリアが呆れる。

 毎晩俺や祈が相手してたからな……

 ちなみに将棋は勇者と聖女が既に伝えていたらしく、この国の数少ない娯楽品の一つだ。


「また今度相手しますから」

「うむ。いつでも来てくれ」

「はい……それにしても」

「……ん」


 こうして別れを惜しんでくれる人がいる俺達だが、意外にも更に惜しまれている存在が。

 祈と一緒にそちらを見る。


「「「ラピスちゃん、行かないで~」」」

「……(プルプル)」


 ラピスだった。

 メイドさん達にもみくちゃにされている。

 留守番してる間に一体何が……?


「お二人がいない間にラピスちゃんは色々お手伝いをしてくれたんですよ」

「……確かに皿洗いとかやってたな。そういえば」


 エリシアさんが理由を教えてくれる。

 この人も最初は恐る恐るって感じだったけど、今では普通に話せるようになったな。


「むぅ~、いいじゃないの。みんなは一ヶ月も一緒だったんだから。私達なんて数日よ?」

「お母様とお兄様は自業自得です」

「自業自得と分かってはいても、中々割り切れないんだよね……」


 エリオットさんやヘイゼルさんとは別の理由でしょんぼりしている人が二名程いるが……まあ、あの二人に関してはリアの言う通りなので触れないでおこう。


「じゃあ、そろそろ行くけど……リアはどうする?」

「当然、私も行くわよ。二人だけだと引っ越し大変でしょう?」

「悪いな」


 リアが引っ越しの手伝いを申し出てくれる。

 三人いれば、なんとか今日中に引っ越しを終わらせることができるだろう。


「では、行って参ります」

「うむ。二人の事を頼んだぞ」

「お願いしますね。姫様」

「頑張ってきなさい! 色々と!」

「無理はしないようにね」


 ……なんか妙に仰々(ぎょうぎょう)しいけど、リアは引っ越しの手伝いに来るだけだよな?











 俺達が新しく住むことになった家はカディアの東側――商業区の外れの方に位置している。

 二階建ての木造建築で築10年という中々に年季の入った建物だが、建材に劣化を防ぐ魔術が(ほどこ)してあるそうで、とても築10年とは思えない程真新しい見た目だ。

 とはいえ、劣化がないのはあくまでも建物の話。

 

「ん、カーテンとかちょっとボロい」

「ああ、それに細かいところは掃除できてないから、まずは掃除からだな」

「……兄さん達が掃除したのに?」

「流石に半日で隅々(すみずみ)までは掃除できてないし、そこまでやってほしいとも言われなかったからな」


 元々、誰も住む予定のなかった家だ。

 隅々まで綺麗にする必要性も、その為に余分に報酬を払う気もギルドにはなかったのだろう。


「まっ、そういう訳だから手分けしてかかるぞ」

「ん、了解」

「……(プルプル)」

「分かったわ」


 まずは全員で動かせる物を全て外に運び出し、掃除をしやすくしてから雑巾(ぞうきん)とバケツを持って各部屋に散らばる。

 あらかた掃除を終えたら、古くなっていた諸々を新しい物に取り替え、家具を配置して内装を整える。

 物は全てインベントリから取り出すだけで、荷ほどきの必要がないので簡単に済ます事ができた。

 そして、日が暮れる頃にはほとんど全ての片付けを終わらせる事ができた。


「二人共お疲れ様」

「ん」

「ありがと」


 祈とリアに新しく買った急須(きゅうす)でお茶を入れる。

 しばらくリビングで和んでいると、リアが口を開く。

 

「そういえば気になっていたのだけど、どうして西側じゃなくて東側のここにしたのかしら?」

「理由はいくつかあるけど……一番はやっぱり場所だな」

「場所って……東側?」

「ん、正確には北か東」

「北と東……利便性を考えてのこと?」

「おっ、正解」


 カディアの街は東西南北で大まかに4つの区画に分ける事ができる。

 商いの盛んな東の"商業区"。

 人々が多く暮らす西の"居住区"。

 畑や牧場が広がる南の"農業区"。

 そして、ダンジョンのある北の"迷宮区"。


「確かに、居住区ならもっと安くて住み心地の良い家があったかもしれない。でも、それだとどうしても移動に不便が出てくる。何故なら……」

「カディアは街の中央に城があるから……」

「そういうこと」


 例えば、居住区から反対側の商業区に行こうと思ったら、居住区→迷宮区or農業区→商業区といった感じに北か南を経由しなければいけなくなり、遠回りになってしまう。


「今後、俺達が生活していく上で商業区と迷宮区は必ず出入りすることになる。となると、その2つのどちらかに居を構えた方が移動が楽でいいっていうのが理由だな」

「なるほどね。他には?」

「俺達以外に住人がいないっていうのもあるし、庭が広いってのもある」


 前者は根が陰キャの俺と祈にとっては最高の環境だし、後者は訓練や家庭菜園などと使い道が豊富という点でポイントが高い。

 後は……


「ん、お風呂が大きい」

「それは重要ね」


 祈の言葉にリアが同意する。

 城の大浴場程ではないが、この家の風呂はそこそこ大きい。

 たぶん、3、4人くらいは同時に入れるだろう。


「後はこの家の事情を知っていたのはデカいな。おかげで俺達が好きに使っていいって言質を取れたし」

「ん、いくら壊しても怒られない」

「……普通は壊す前提で家を選ばないわよね? 私が世間知らずな訳じゃないわよね?」


 リアが苦悩している。

 ……祈が壊す可能性がある以上、その前提で家を選ばざるを得ないんだよ。


「さて、そろそろ夕飯作るけど……リアはどうする?」

「私も手伝うわ」

「えっ」


 夕飯を食べていくかどうかを聞いたつもりだったんだが……


「……もしかして、料理できないと思われてる?」


 俺の反応を見て勘違いしたリアがジト目でこちらを見る。


「確かに私は城で料理させてもらう機会はなかったけど、ユリナに教わって簡単な料理くらいは作れるのよ? 食材を切るくらいは任せてもらいたいわ」

「いや、そういう意味で言ったんじゃなかったんだが……というかなんでそんなにやる気満々?」

()()()()()()()()()なんて初めてだもの。今までできなかった色々なことをしてみたいじゃない?」

「……ごめん、ちょっと一瞬難聴系主人公になったせいかよく聞こえなかった。どこを離れるって?」

「城よ?」


 リアが即答する。


「じゃあ、どこに住むつもりなんだ?」

「ここよ」


 リアが床を指差す。

 ……やっぱり、聞き間違いか?

 さらっととんでもない事を言われたような気がしたんだが……


「ん、リア。ここに住む?」

「そのつもりだったけど……駄目かしら?」

「別に構わない。部屋も余ってる」

「なら、問題は……」

「ちょっ、待て待て!」


 現実逃避してる間に危うくお姫様との同居が確定するところだった。


「色々問題あるだろ。たぶん」

「お父様達に許可は貰ってあるし、ギルドに入居手続きもしてあるわよ?」


 既に根回(ねまわ)しは済んでるっぽいな。

 というか、あの妙に仰々しいやり取りはそういう事だったのか。


「……男と一つ屋根の下って、嫌じゃないのか?」

「今までだってそうだったじゃない」

「……」


 ……そういえばそうだな。

 城のスケールが大き過ぎてあんまり意識してなかったけど、今までも同居してた事になるのか。

 そう考えると別に問題ないような気がしてきた。


「城よりも不便だと思うけど、それでもか?」

「それでもよ」


 リアが真っ直ぐこちらを見つめる。

 どうやら決意は固そうだ。


「分かった。改めてよろしくな」

「ん、歓迎」

「よろしくね」


 こうして、俺達3人の共同生活が決定したのだった。


主人公達の家はナーラッパ風なベタな建物をイメージしてください。

ぶっちゃけ作者も具体的にどんな感じかイメージがフワフワしてるので(汗)

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