幕間 来訪者
短めです。
「……」
魔王城、玉座の間。
本来、選ばれた者にしか立ち入ることが許さない場所に私ーーセバレオス・リンデンブルクは突如呼び出されていた。
「初めて入りましたが、割と普通ですね」
つい感想を口にしてしまう。
魔王様が使う部屋なのだから、もっと禍々しい部屋を想像していたのですが……
『かっかっかっ。どうせほとんど使わない部屋じゃからな。過度な装飾はいらんのじゃよ』
「!?」
突如として脳内に声が響き、はっと後ろを振り返る。
そこにいたのは、ローブを着た骸骨だった。
即座に跪く。
「お初にお目にかかります。セバレオス・リンデンブルクと申します。命により参上いたしました」
『うむ。儂の名はナハト。見ての通りの老骨じゃ』
「ご冗談を。まだまだ生気に満ちているではありませんか」
『アンデッドが生気に満ちているとは、おかしな話じゃがのう』
愉快そうに笑うこの御方こそ私はこの場に呼んだ張本人――魔王軍幹部の一人"エルダーリッチ"のナハト様。
配下のアンデッドと戦術を巧みに操るその姿から敵味方双方から"屍の知将"とも呼ばれている。
魔王様がお隠れになっている今、魔王軍の最高責任者でもある御方だ。
「お会いできて光栄にございます。それで、どのようなご用件でしょうか?」
『実は頼みごとがあってのう……これをある御方に届けてほしいのじゃ』
「書状……でしょうか? それをどなたに届ければ?」
『うむ。それはのう……』
言われた名を聞いた瞬間、絶句する。
「……そんな大役を私に? 他に適任がいるのでは?」
『ただ書状を届けるだけならばな。だが、あの御方がいる場所にはお主くらい強くないと辿り着けぬ』
「私よりも強い者など他にも……」
『おる。おるのじゃが……使いが務まるほど礼儀を心得ておる者はお主以外にはおらん。それに……』
ナハト様は言いにくそうに口ごもる。
『……前回送った使いの者が礼を欠いたらしいのじゃ』
「その者は……どうなったのですか?」
『帰ってはきたのう……首だけじゃったが』
「……」
二度目の絶句。
もしや生贄として選ばれたのかと不安になってくる。
『安心せい。故に今回の人選じゃ。お主は礼儀を弁えておるし、何よりそう簡単には死なぬであろう?』
「それはそうですが……」
とはいえ、相手が相手。
容赦なく殺されることも充分にあり得る。
「ナハト様の配下には何人か礼儀正しい方もいたと記憶しているのですが……?」
『皆、人間共の偵察の為に出払っておる』
「そう……ですか」
『どうか頼まれてくれぬか? 魔王様の復活が近い今、動ける者の中でお主が一番まともなのじゃ』
「……」
ナハト様からの頼みなら喜んでお受けしたいところですが、命がかかっているとなると、やはり躊躇ってしまいますね……
とはいえ、せっかくの期待を裏切る訳にもいかないですし……
「……分かりました。お受けいたします」
『すまぬのう』
「それで、私はどこに向かえば宜しいのですか?」
『うむ。お主に向かってほしいのは……』
ナハト様が一拍置いて告げる。
『魑魅魍魎共の巣窟、死の樹海じゃ』
死の樹海深部。
鬱蒼した森の中は普段なら静寂に包まれているが……この夜は様子が違った。
唸り声が森中から聞こえ、迷い込んだ獲物を狩るために無数の影がうごめている。
正しく、この世に具現した地獄と言っていいだろう。
そして、その地獄の中を、
「くっ……!」
少女は一人、迫る無数の死から逃れようと足掻いていた。
桜色の髪を靡かせ、森を駆ける少女に死ーー災害級と称される魔物が牙を向く。
「ガァァァァァ!」
「はっ!」
「ガァ!?」
常人ならば即死、上位の冒険者でも致命傷の一撃。
それを受け流し、一刀のもとに斬り伏せる。
だが、
「切りがない……!」
一体を仕留めている間に数十体の魔物が迫る。
迎撃を諦め、ただ前に向かって走り続ける。
「……足を止めれば囲まれる。しかし、前からも魔物は来る。襲ってくる魔物を一々相手にはしていられない。かといって迎え撃たねば死ぬ。ならばどうするか……」
走りながら、少女は思考する。
そうして至った答えはとてもシンプルなものだった。
「……簡単なことじゃないですか。足を止めずに斬り伏せればいい」
止まったら死ぬなら、止まらなければいい。
斬らないと死ぬなら、斬ればいい。
二つを両立させることこそが、この状況を乗り切る唯一の手段なのだから。
「……小細工が通じない相手とはいえ、我ながら随分と頭の悪いことを思い付いたものです」
自嘲するように笑う少女。
そんな少女のもとに再び魔物が襲いかかる。
「ふっ!」
「ガギャア!?」
「もっとです。もっと無駄なく、正確に……」
少女は死線の中で己を研ぎ澄ます。
さらなる高みへ至る為に……
割りとこの二人は重要人物になる予定。
後、話に合わせて章タイトルをちょっと変えました。




