第二幕 3
第二幕 3
ゆっくりと、水底から浮上する気泡のように意識が覚醒していく。
「――ハァ……リセイ、様……!」
肌をなぞる感触に起こされて、俺は薄らと片目を開けた。
0・1以下の視力がまず捉えたのは、薄闇の中、蠢く影だった。
僅かな光源を受けて、煌めく金糸が目の前にある。
「っあ! も、ダメ……!」
「!?」
熱い吐息が胸にかかった瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。
「なっ! だ、誰だ!?」
「ようやく、起きてくださったのねぇ」
咄嗟に頭上を探り、眼鏡をかければ、俺の胸から顔を上げた金髪と赤い両目がかち合った。
「ヴィリオーネ!?」
「焦らしプレイなんて、イケないお人だわ」
風邪をひいたように熱を帯び、少し汗ばんだ顔でヴィリオーネが怪しく笑んだ。俺の両腕に手をついた彼女がゆっくりと上体を持ち上げ、肌色の影が顕になる。
「お前っ……!?」
クリティカルヒットの三コンボを受けて、俺の思考回路は一瞬で焼き切れた。
まず、ヴィリオーネが俺の上に乗って、息を荒げているという現状。
次に、そのヴィリオーネの胸がゼロ値であるということ。
最後に、足に当たる、妙に固い感触。
よくもまあ、気絶しなかったものだと、後になって振り返ったとき、俺はしみじみと思った。
「んふ、そうよぉダーリン。ワタシはアナタの嫌いな女じゃなくて、体は男なの。だから、ワタシとなら愛の営みもできるわぁ」
全身にすごい勢いで悪寒が走り、鳥肌が立った。こんな気色悪く絶望的な状況は今後訪れないに違いない。あまりの嫌悪感に、胸の奥から酸っぱいものがせり上がってくるのを感じる。
「……ぅおぇ……は、きそ……!」
「え!? だ、大丈夫!?」
慌てるヴィリオーネが俺の両腕から手を離した瞬間、跳ねるように起き上がり、ベッドから転がり落ちる。途中、片足の膝が何かに当たってヴィリオーネが「ぅん!」と悶えた気がしたが、今にもえずきそうな俺に構っていられる余裕はなかった。
「はやいよ、ヴィリオーネ!」
新手が現れたのは、俺が何とか吐き気を堪えたときだった。
マントを羽織った小柄な影が、いったいどうやって来たのか、窓からぴょいと室内に跳び入って来る。
「ら、らららライライ!?」
どうしてここに!? という続きは、彼女が外したマントによって取り払われた。
ぱさり、と軽い音をたてて床に落ちたマントの上、全身肌色の少女が恥じらいなど欠片も持ち合わせてない快活な笑みを浮かべている。
「リセイさま、よばいにきたよ!」
少女が一歩進んだ拍子に、未発達ながらも女性を強調するふくらみが揺れて――
「――エギュぅっぷ!……!……ぉえっ!」
必死に抑えていた怖気が我慢の蓋を弾き飛ばし、俺はその場に吐瀉物をぶちまけた。