深まりゆく秋 五句
秋が深まっていく気配を、いくつかの短詩にまとめました。
季節の移ろいの中でふと立ち止まった瞬間を、静かに拾い集めた章です。
<1>夏の名残
女郎花
蜘蛛もいずれも
名ごと美し
【解説】
裏手の細い用水路の土手に、女郎花が黄色い花をつけていた。
その近くの枝のあいだには、女郎蜘蛛が巣を張っている。
田舎では珍しい光景ではないが、どちらも姿が美しく、
そして何より、名の響きがよくできていると思いながらしばらく眺めた。
夏の名残の散歩道での一景。
<2>秋への境目
新涼の
月や枕も
青に染め
【解説】
寝室の窓をしばらく開けて、
こもった夏の熱気を逃がしていた。
横になり、昨日よりも涼しい空気を感じながら、
枕元の明かりを消す。
その涼しさは、
窓から差し込む月の青さだったのだと気づく。
明るさの中では見えないものがある。
秋の背が近づき、
それを追う夏の歩みの早さを知った夜。
<3>秋の訪れ
服選び
首を傾げる
秋茜
【解説】
おでかけ用の服を選んでいる最中、
ふと窓の外を見ると、
ベランダに秋茜がとまっていた。
これでどうよ、と見せると、あの野郎、
首を傾げやがった。
季節の気配と、
小さな来訪者とのひととき。
<4>深秋の記憶
警報の
波浪をHelloと
勘違い
【解説】
テレビから流れていた天気予報。
台風による波浪警報を、幼い私は
英語の「ハロー」だと思い込んでいた。
人並みの常識を得た今でも、
波浪と聞けば、ほんの一瞬だけ
ハローに傾いてしまう。
一瞬だけ。
それでも確かに残っている記憶の癖。
<5>晩秋の終わり
初霙
恋も終わりと
告げる竿先
【解説】
晩秋、鯉を釣りに川へ向かった。
竿を出してひとり思考に沈む。
竿先にアタリは来ない。
今日はやけに寒いと思っていたら、
初めての霙が降り始めた。
こうなれば、雪国での釣りはもう終わりだ。
この恋と同じように。
夏の名残から晩秋の気配まで、
そのときどきの光や風の変化を思い返しながら並べました。
読んでくださり、ありがとうございます。




