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第6話 天使も驚くパイ
ある日、隣国ノルヴィアとの貿易協定交渉が決裂寸前となった。
両国の使節団は、会議室で冷ややかな空気の中、互いに睨み合っていた。
「これ以上、話し合う余地はない!」
「我が国の要求は絶対だ!」
その時、エミリアが厨房から現れた。
彼女の手には、まだ温かいパイが載った銀の盆があった。
「お疲れ様です。少し甘いものでもいかがですか?」
最初は無視しようとした使節たちだったが、パイの香り、バニラビーンズの芳醇な香りと、完熟りんごの甘酸っぱい香りが会議室に広がると、誰もが思わず鼻を動かした。
一口食べたノルヴィアの大使の目が丸くなった。
「こ、これは……!このサクサクした生地……!このとろけるようなフィリング……!」
「『天使も驚くパイ』と名付けております」とエミリアはいたずらっぽく笑った。
次の瞬間、会議室の空気が一変した。
パイを分け合いながら、使節たちは笑顔で話し始め、わずか一時間後には、停滞していた協定が署名されたのだった。




