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オレの勇者を鶏抱えて迎えに行く1(ユーリ視点)

 フレッドを見送り、一人で朝食を食べた。フレッドの作る料理は好きだが、いつもより味気なく感じたのは、フレッドがいないからだろう。


 外に出てコッコに餌をやろうとするが、すでに夢中になって食べていた。


「フレッドに貰ったのか?」


 オレが聞けば、とぼけた顔で首を傾ける。

 畑で葉物野菜を引っこ抜いて、水を撒いた。


「フレッド、早く帰ってこないかな」


 街の方に目を向けるが、道の先には誰もいない。

 ふと首が軽くなる。


 護石が土の上に転がった。革紐が切れてしまい、慌てて拾う。手で土を払い、割れていなくてホッと胸を撫で下ろした。


 家に入って、フレッドの仕事道具がしまってある引き出しを漁る。新しい革紐を見つけ、護石に通して首で縛った。


 フレッドに初めて貰った物だから、肌身離さず付けていたい。


 風呂では外せと何度も言われているが、外したくない。たまにフレッドが手入れをしてくれるが、オイルを塗るとしばらく付けられなくなるのが嫌だ。護石が首にあるのが当たり前になっていて、それがないと落ち着かない。


 再び外に出ると、体にローブを巻き、顔をフードで隠している二人組がこちらに走ってくるのが見えた。荒い息を吐きながら、オレの前で止まる。ミリウスとルシアンだ。


「こんな時間に慌ててどうした? クビにでもなったのか? オレの城で雇ってやろうか?」

「ああ、そうなりそうだ。クビになったら頼むよ」


 ルシアンが息も絶え絶えにそう答えて、オレは目を瞬かせる。騎士団の隊長であるルシアンがクビになりそうとは、なにをやらかしたのか。


「ユーリ、すぐにここを離れましょう」


 ミリウスがいつになく硬い声を出し、オレは息を呑んだ。いつもの他者を安心させるような微笑みも引っ込んでいる。


「なにかあったのか?」


 二人の様子が気になり訊ねた。


「フレッドが騎士団に捕まった」


 目の前が黒く染まり、全身から魔力が漏れ出した。


「落ち着いてください。僕たちは、フレッドを助けたいんです」

「まずはここを離れて、事情を説明させてくれ」


 ミリウスとルシアンがなにかを言っているが、頭に入ってこない。


 城を破壊してフレッドを探そうと頭に浮かんだ時、「コケッ」と掠れた鳴き声がして、目の前がクリアになった。


 コッコは「コケッコケッ」と鳴き続ける。

 オレが近付くと、いつものとぼけた顔はなく、瞳がキリッとして見えた。


「そうか、お前もフレッドを助けたいんだな。一緒に行くか」


 コッコを抱えて、小屋に施錠する。家に入り、コッコの彫像をハンカチで包んでポケットにしまって外に出た。


「ミリウス、ルシアン、話を聞かせろ」


 二人の顔はホッとしたように見えた。


「どこか落ち着いて話をできる場所はないか?」

「東の森はどうだ?」


 二人が同意するように頷き、オレたちは駆け出した。





 東の森に入って奥まで進むと、いつも釣りをしている川にでた。

 オレが手頃な岩に腰掛けると、ミリウスとルシアンも座る。


「それで? フレッドになにがあったんだ?」


 そう促せば、ルシアンが重い口を開いた。


「少し前に国境付近で、騎士団が魔族の軍を見かけたらしいんだ。全員が護石を身につけていて、調べたらフレッドが作ったものだと突き止めた。それでフレッドが魔族に通じているってなって、捕らえられたらしい」


 オレがフレッドに楽をさせたいと思ってとった行動で、フレッドを危険に晒させてしまった。

 頭を押さえて大きな息を吐く。


「おれはフレッドと仲がいいし、フレッドが捕まるまで知らされていなかった。フレッドが捕まっておれにも事情を聞こうと騎士が来て、説明されてる間に窓から飛んで逃げたんだ。あのまま残っても、おれだけじゃフレッドを助けられないし。おれまで捕まったら、こうやって知らせることもできずに、ユーリに危険が及ぶと思って」

「オレが人間に負けるわけないだろう」


 ルシアンが自分の立場を悪くしながらも、オレのところに来たのはありがたかった。ルシアンが逃げなければ、オレはなにも知らずに帰らないフレッドをずっと待ち続けていたはずだ。


「真っ先にユーリのところに来ようかとも思ったんだけど、おれがいなくなったら次は騎士団がミリウスのところに行くと思った。ミリウスなら上手く騎士団を言いくるめられるとは思ったけれど、おれが追われていることを別の人間に聞かされるのは嫌だろうと思ったんだ。教会に残るかおれと一緒に来るか聞きに行った」

「答えなんて一つですよね。ルシアンのいない世界なんて、僕にはなんの価値もない」


 ミリウスは口の端を上げて笑う。ルシアンは半目をミリウスに向けた。


「ミリウスはそんなことを言っちゃダメだって。王都の天使って言われてんだから」

「何年も前の話ですよ。それに、僕よりもルシアンの方が天使です。ルシアンは王都ではなく、僕の天使ですけれど」

「恥ずかしげもなく言うな」


 真っ赤になって叫ぶルシアンを、ミリウスは愛おしそうに撫でた。


「お前たち、いい加減にしろ!」


 オレが叫ぶと、ルシアンが「ごめん、話を続ける」と顔を曇らせるが、オレは先ほどよりも声を張った。


「どう考えても、フレッドが一番天使だろうが。お前らの目は節穴か?」


 ミリウスとルシアンは口をつぐみ、鳥の囀りが遠くで聞こえた。

 ルシアンが咳払いをして、何事もなかったかのように話を再開する。


「ユーリのところに来るまでの話は終わったけど、どうやってフレッドを助け出すか一緒に考えてほしい」

「わかった。応援を呼ぼう」


 オレは通信機を取り出した。繋がると相手が喋り出す前に声を上げる。


「今すぐに幹部を全員引き連れて、オレの元まで来い!」


 ヴェルナーは息を飲んで「承知いたしました」と硬い声で返した。通信を切ると、ルシアンが不安そうに眉を下げる。


「戦争でもするのか?」

「フレッドになにかあればな。オレにとっても、フレッドのいない世界に価値はない」


 フレッドは人間と共存できるように、オレを育ててくれた。オレにとっては、フレッドが世界の中心だ。


 フレッドの望む王になろうと思った。それでも人間がフレッドに仇なすなら、オレは迷うことなくこの国を滅ぼす。


 5分ほどで転移魔法陣が現れた。ヴェルナーと10人の幹部がオレの前で片膝を付く。


「楽にしろ」


 そう声をかければ、全員が立ち上がる。


「フレッドが捕えられた。助けに向かうから協力しろ」


 幹部たちが声を揃えて「はっ」と返事をする。


「ユーリ様、人間と全面戦争なさるおつもりですか?」

「フレッドはきっとそれは望まない。和平を結ぶ。だが、フレッドになにかあればオレはこの国を滅ぼす」

「承知いたしました」


 あっさりと了承したヴェルナーに眉を顰める。


「お前は反対しないんだな。人間の技術が欲しいと共存するためにオレをフレッドに預けたのに」

「王の伴侶に傷をつける国など、滅んで当然です。ユーリ様がフレッドさんを選ぶのであれば、フレッドさんはわたしたちにとって仕えるお方です」


 幹部たちが「そうだそうだ」と騒ぎ立てる。


「ヴェルナー、フレッドの元まで転移できるか?」


 ヴェルナーは口元で人差し指を曲げて思案する。


「申し訳ございません。妨害されております。防犯対策はしっかりされているようですね」

「当然だよ。王族がいるんだから。侵入者対策に城にプロテクションがかけられている」


 ルシアンの説明で、正面突破以外の選択肢がなくなった。


「どこまでなら転移できる?」

「城の前までです」

「それなら入り口から堂々と入るか。邪魔をするものは全員倒して拘束しろ。絶対に殺すなよ。手加減しろ」


 幹部たちの返事が揃う。


「ミリウスは治癒術を使うな」

「和平に行くんですよね? 倒して治さないのでは、交渉が上手くいくとは思えません」

「だからオレがやるんだ。治癒術はあまり得意ではないが、オレがやることに意味がある」


 ヴェルナーと幹部たちが「ユーリ様、ご立派になられて」と目頭を押さえだした。泣いている暇などない。


「すぐに向かうぞ」

「はい、承知いたしました」


 足元に転移魔法陣が光る。全員が入るほどの大きな魔法陣だ。


「それでは向かいます」


 光が溢れて、目の前が真っ白になる。視界が晴れると、城の前に立っていた。


 衛兵たちが目を白黒させ、慌てふためく。城の中から、大勢の騎士が転がるように飛び出してきた。

 ミリウスが手を合わせると、透明な立方体が城を覆う。


「これはなんだ?」

「結界です。中のことは、外にいる一般人には見えません」

「そんなことをするが必要あるか?」

「和平を結ぶのでしょう。それなら戦闘は見られない方がいい。すぐにユーリたちに不利な噂が広がりますよ」


 のちのち面倒にならないで済むのなら、この結界は維持させておくか。


 結界に閉じ込められた城門前。静寂を切り裂いたのは、幹部たちが放つ圧倒的な威圧感だった。


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