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死神のご褒美  作者: まーひろ


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6/10

第六話 妹

 テレビを見ていた優人は、リビングの壁に設置されているインターホン用の受話器を取った。


「どちらさんですか?」


「私、冥府から来た死神です。こちらでティナ・ヒメールがお世話になっていると思うんですけど」


 受話器の向こうから聞こえてくるのは、美しく澄んだ女性の声だった。

 優人が玄関に向かい扉を開けると、そこには清楚な白いワンピースに身を包んだ女性が立っていた。

 歳は二十歳前後位だろうか、端麗な顔立ちの中にあるサファイアのような碧い瞳と艶やかな唇、透き通る白い肌、そして光を放つストレートの長い金髪。その女性は圧倒的に美しく可憐だった。


「初めまして、レナ・ヒメールと申します」


 その女性はティナと同じヒメールを名乗り、髪と目の色も同じだった。


「もしかして、ティナのお姉さんですか」


「いえ、私は……」


「ティナ、お姉さんが来てるよ」


 レナがなにか言いかけたが、優人はそのままキッチンに向かって声をあげた。


「私に姉なんかいないぞ」


 そう言いながら玄関にやって来たティナは、レナと顔を見合わせた。


「レナ、どうしてここに?」


「姉さん、久しぶりです」


 レナがティナに向かって言った。


「えっ! ティナがお姉さんなの?」


 レナは身長百六十九センチの優人よりも少し背が高く、小柄であどけない顔立ちのティナの方が明らかに年下に見えた。


「私が姉だったら、おかしいのか」


「いや、別にそういうわけじゃないけど……ティナとレナさんは何歳なの? もしかして何百歳とか?」


「私たち冥府の住人は人間と寿命も歳の取り方も同じぐらいでして、私は二十一歳です」


 レナは見た目通りの年齢だった。


「じゃ、ティナは何歳なの?」


「私は、二十三歳だ」


 ティナは伏し目がちに言った。


「え――、僕よりも五つも年上なの!」


 それは衝撃の新事実だった。ずっと年下だと思っていた少女は、実は年上だった。

 あまりの驚きに、優人は頭を抱えたまま体をよろめかせ、二、三歩後ずさりした。


「なんだっ、その驚き方は! 私が二十三じゃおかしいのか」


「いや、そうじゃないんだけど、ずっと年下と思ってたから……」


「私のこと何歳だと思ってたんだ?」


「十二か十三歳ぐらいかなと思ってた……」


 顔をこわばせながら、優人が正直に答えるとティナの怒りは頂点に達した。


「どうせ私は童顔で、身長もない、胸もない、くびれもないわよ。姉妹あべこべに見られるのなんかしょっちゅうよ! 優人のバカッ!」


 吐き捨てるようにそう言うと、ティナは自室に駆け込んだ。


「どうしよう、怒らせちゃった……」


「気にしないでください、よくあることですから」


「よくあるって、いつもああなの?」


「はい、姉さんはなにか嫌なことがあると、すぐに自分の部屋に引きこもるんです。けど大丈夫です、姉さんは単純……じゃなくて、すごく立ち直りは早いんです。私に任せてください」


 そう言ってレナは洋菓子店の箱を差し出した。


「ごめんよティナ、悪気はなかったんだ、本当にごめん」


 優人はティナの部屋の前で、ドア越しに謝り続けた。


「姉さん、機嫌直してください。そうだ私、お土産持ってきてるんです。姉さんの大好きなチョコレートケーキ、みんなで一緒に食べましょう」


「これって人気店のケーキだよね。ここのチョコレートケーキって凄く美味しいんだよね」


 レナに言われたセリフを、優人は芝居口調で言った。しかし、ティナは部屋から出てこなかった。

 優人とレナはさらに芝居を続けた。


「どうしましょう優人さん。姉さんの分、余っちゃいますね」


「僕も二つは食べられないし、勿体ないけど捨てちゃおうか」


 優人がため息まじりにそう言うと、ゆっくりと扉が開き、ティナが姿を現した。


「捨てるぐらいなら、私が食べてあげるわよ」


 ティナは気まずそうに、目をそらせて言った。


(食べ物につられて部屋から出てくるなんて、子供だ!)


 立ち直りの早いティナを見て、優人はそう思った。

 三人はリビングに場所を移した。

 レナは三人分のチョコレートケーキをテーブルの上に並べた。


「さあ、召し上がれ」


「わぁ、おいしそうだな! いただきます」


 ティナはフォークでチョコレートケーキを突き刺すと、大きく口を開け勢いよくかぶりついた。


「おいしいー」


 歓喜の声をあげながら、ティナはあっという間に完食した。


「もう、姉さんったら、もっとゆっくり味わって食べてくださいよ」


「十分味わって食べてるわよ。それよりもう一つないの?」


「一人一個ずつです」


「ティナ、よかったら僕の半分食べる」


 優人は手を着けていない自分のチョコレートケーキを、フォークで真ん中から切り分けた。


「いいのか?」


 ティナは二つに分けられたケーキを交互に数回見つめた後、少し大きな方をフォークで突き刺し、そのまま口に運んだ。


「うーん、おいしい~」


 口元にチョコクリームを付けたままティナは無邪気に微笑んだ。


(子供だ、無茶苦茶子供だ!)

 

 優人はティナの行動を見て、そう思った。

 見た目も中身も、二十三歳に見えないティナであった。


「それでレナ、どうしてここにきたんだ」


「私、任務でこの町に来たんです。姉さんもこの町にいるので挨拶しておこうかと思って」


「任務って?」


「地獄行きの決定した二つの魂が冥府から逃げ出し、花井町か秦尾町に潜伏しているんです。その魂を冥府に送り返すのが任務で、私とライラが派遣されたんです」


「ライラだって!」


 その名前を聞いたとたん、ティナの表情が険(けわ)しくなった。


「だれ、知り合い?」


「私と同じ歳の死神で、凄く嫌なヤツだ」


 優人はすぐに理解できた、ティナとライラなる人物が犬猿の仲であることを。


「ティナ、居るんでしょ、出てらっしゃい」


 突然、家の外から大声が届いた。


「ライラかっ!」


 ティナは立ち上がり家を飛び出した。

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