第二話 本物の死神だった
朝が来る。優人は目覚時計の音と共に体を起こし、身支度を整えリビングに向かった。
「おはよう」
優人が声を掛けるとティナは目をこすりながら、ゆっくりと起き上がった。
「うーん、おはよう……」
「今から朝ご飯作るから、ちょっと待ってて」
「アサゴハン……?」
寝ぼけたまま少し考えこんだ後、ティナの表情はみるみるうちに険しいものに変わった。
「今何時、私が寝て何時間経ったの?」
「今七時半だから、ティナが寝て七時間以上経つけど」
「なんで起こさなかったのよ!」
ティナは語気を荒げて言った。
「えっ、そんなこと言われても気持ち良さそうに寝てたから……もしかして早朝になにか用事でもあったの?」
「用事なんかないわよ。私の魔力じゃ二時間前までしか記憶が消せないのよ。どうしてくれるのよ!」
そのまま頭を抱え、ティナはしばらく悩んだ後、優人を指差した。
「優人、お前は今日から私の使役者になれ」
「えっ、なに、使役者。どういうこと?」
優人は質問の意味がまったくわからないと言った感じで、質問を返した。
「だから死神の使役者になって送魂を手伝えって言ってるんだ」
「死神の使役者、送魂、なにそれ?」
困惑の表情を浮かべ、優人は再び質問を返した。
「お前、私が死神だということ、信じてないだろ。いいわ、よーく見てなさい」
ティナの体が光に包まれると、一瞬にして漆黒のローブ姿に変わり、その右腕には大鎌が握られていた。
「えっ、手品、早着替え?」
「違うわ、魔力よ。これでも信じられないのなら、もっとよく見てなさい」
そう言うと、ティナの体がゆっくりと宙に浮かび上がった。
「う、浮いてる!」
優人は驚き、その場に尻もちをついた。
「天上界の住人は聖力を使い、冥府と魔界の住人は魔力を使う。これでわかったでしょ、私は人間じゃないの、冥府から来た死神なの」
「本物の死神! 僕の魂を取るの? お願い殺さないで!」
「またそれかよ、昨夜といい、お前は本当に情けない奴だな。ほら、殺さないから立て」
宙に浮くのを止め、床に降り立ったティナは優人に手を差し伸べた。優人はその手を取り、おどおど立ち上がった。
「今から契約の儀式を始める。片膝をついてひざまずき大鎌の刃に利き手を添えろ」
「あの儀式ってなに、なにするの?」
「えーい、つべこべ言わずとっととひざまずけ!」
「はっ、はい」
言われるままに優人は片膝でひざまずき、目の前に突き出された大鎌の刃に右手を添えた。
「いいか、私の言葉の後に『誓います』と言うんだ、いくぞ。文月優人、汝は我が使役者として行動を共にすることを誓うか?」
「誓います……」
状況に逆らうことのできない優人がそう言うと、大鎌の刃は目もくらむばかりの光を放った。
「よし、契約の儀式終了。優人、お前は今日この日この時刻から私の使役者だ。それと私が死神であることを口外したら、その時はとてつもなく大きな罰があるから、絶対に口外はするな」
そう言って、ティナは凍るような視線を優人に向けた。
「はい、口外しません」
大きな罰とは命を奪われる事だと思い、優人は身の縮む思いで言葉を返した。
「それじゃ私、今日からここに住むから部屋用意して」
「えー、ここに住むって、いきなりなに言い出すの?」
突然の同居宣言に、優人は慌てふためいた。
「主と使役者が一緒に暮らすのは当たり前だろ。それとも部屋を用意できないとでも言うのか?」
ティナが威圧的に言い放った後、大鎌は不気味に一瞬、キラリと光った。
「はい、用意します……」
大鎌を前に逆らうことのできない優人は、ティナを一階の空き部屋に案内した。
「とりあえず、この部屋と隣の部屋しか空いてないんだけど」
「二階に空き部屋はないのか?」
「二階には僕の部屋と、両親の寝室しかないんだ」
「そういえば一人暮らしって言ってたけど、両親は?」
「両親は今年の一月に、事故で亡くなったんだ……」
優人はうつむき、小さな声で言った。
「ごめん。私そんなこと知らず昨晩、酷いこと言っちゃった。本当にごめん……」
昨晩、口にした『いいな、こんな広い家で一人暮らしなんて』という言葉に、ティナは深い罪悪感を抱いた。
「そんなに謝らないでよ。知らなかったんだから仕方ないよ。それより、どの部屋使うか選んでよ」
優人は落ち込むティナを気づかい、笑顔を向けた。
「じゃあ、この部屋使ってもいいかな?」
「うん、いいよ。後で布団出しておくね。それじゃ、朝ご飯にしようか」
「あっ、待って優人」
ティナは台所に向かおうとする優人を呼び止めた。
「なに?」
「あの、その……ありがとう。これからしばらくの間、よろしくな」
そう言ってティナは、少し気恥ずかしそうに右手を差し出した。
「こちらこそ、よろしく」
優人はその手を取り、握手を交わした。こうして文月優人と、年齢不詳で本物の死神少女ティナ・ヒメールの同居生活が始まった。




