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93 転移者を葬る槍

 俺達が門に入るのを邪魔する手のひらの石像。

 それは白と黒のコンビネーションで俺達のスキルを完全に防御する。

 それがAIの学習能力というのなら……。

「師匠、地下のピラミッドを思い出せ。俺達のスキルは見られてる!」


 師匠は俺の言いたいことを直ぐに理解したようだ。

 そしてすかさずダークとムサシに指示する。

「あの時、あなた達は居なかった。AIはあなた達の技は経験していないはずよ!」

 

 このメンバーで地下ピラミッドを経験していないのはこの2人だけだ。

 ムサシとダークは軽く頷くと互いに目配せして、すぐさま連携する。


 すでに溜め攻撃のエネルギーを準備していたダークが『ゲコッ!』と剣を構えてダッシュする。

 ダークがムサシに斬りかかる。

 ダークの極溜め斬撃をムサシが剣で受ける。そしてそれを『倍返し』する!


 ムサシの倍返しが衝撃波となって、白の手のひらに向かって鋭く飛んでいく。

 が、命中する寸前で黒の右手が庇うように前に出て『ガゴッ!』と、それを弾く。


 それを見てビッチが頭を抱える。

「だめだヨ! 全部弾かれちゃう!」

「マジかよ……参ったな」 

 こいつ等を何とかしないと先に進めない。だが、今のところ俺達の攻撃は完封されている。


 手詰まり感が出る中、なぜかデッシュが「クククク」と笑いだす。

「へけけ。こういう時こそ、ボクチンの出番でしゅね」

 デッシュが自信満々で前に出る。


「デッシュ? どうする気だ?」

「任せるでしゅ! ここでぇ! 満を持してのぉ! 主役の登場でふゅ!」

 でふゅ?

「あ、噛んじゃったでしゅ」

 それはどうでもいい。もしかしてデッシュの奴、手のサイズを小さくする気か?


「行くでしゅよぉ! ハーフ&ハーフのじゅちゅううう!」

 いつもより気合の入ったデッシュの術が炸裂する。


 だが、白い手の像が、すっと前に出て『ブワァァン』と、シンバルのような音を発した。

『ポフ、ポフン!』

 それに呼応してデッシュが全裸になってしまった。ついでにミカポンも半裸に。

「ミミミミ!? やだコレ! なんでピョン!?」

 ただでさえ露出の多いミカポンの装備がとんでもないことに。

「あばばば! なぜか半分どころか全部なくなってしまったでしゅ!」


 ハーフの術も効かなかった。

「デッシュの技も弾き返されただと!?」 

 ムサシが唸る。

「ムムッ! これでは打つ手がないではないか」

 なにか突破口を見つけないと! 

「クソッ! 今までの動きに何かヒントは無いか?」


 そこで師匠がハッとする。

「もしかして、黒い手が物理攻撃を、白い方が魔法と状態異常に対応しているんじゃないかしら?」

 待てよ? そう言われてみればそうだ。

「師匠、てことは物理攻撃を白い手に当てればいいんだな?」

「たぶんね。その前に黒い手にガードされてしまうけど……」


「分かった。それなら手がある」

 黒の手がガードしてくるなら、その速度を上回ればいいだけだ。


 俺は『極溜め』の構えで力を貯める。ヘソの辺りに集中して腹の奥で力を練る!

 併せて狙いを定め、イメージする。


「極溜め……神速会心!」

 クンッ! 超加速で前へ!

『カカカキィィン!』

 黒い手と白い手の隙間を高速で抜ける!


『ズパズパズパッ!』

 背後で会心が入った音がする。

 振り返ると白い手の動きが停止していた。

 そして、大きなヒビが入った白い手の像はガラガラと自壊する。


 すかさず師匠の指示が飛ぶ。

「ビッチちゃん! 黒い方をお願い!」

「あいヨ! 貫通レーザーぶっこ抜きぃ!」


 ビッチの高火力魔法が炸裂する。

 ビッチの放った緑色のぶっといレーザーが黒い手を貫く!

 物理攻撃に対しては無敵だった黒の手はレーザー魔法の前では無力だった。


 動きを停止した黒の手に対してビッチが「ヘル・ウィンド」の追い打ち!

 今度は風化の魔法で黒の手はボロボロと崩れ始め『ドシャァ』と瓦解した。

 連携さえ崩してしまえば何のことはない。


 師匠が声を出す。

「みんな! 行くわよ!」


 師匠を先頭にビッチ、ミルク、ダーク、ムサシ、ミカポン、麻耶、デッシュが門をくぐってきた。

 神速会心で先に抜け出していた俺と合流して皆で門の奥を目指す。

 

 門を抜けて次に出た場所は、白い砂利が敷き詰められた広場になっていた。

 その先には赤い瓦屋根の平べったい寺がある。

 なんだろう。どこかの有名な寺に修学旅行で訪れたような雰囲気だ。


 ミカポンが子供みたいにピョンピョンと先頭に躍《おど》り出る。

「ミ♪ ミカポンが一番乗りなのだ!」


 摩耶が「駄目よ、ミカ!」と、飛び出してミカポンを追う。

 次の瞬間、『ズムッ!』と、嫌な音がした。


 目を疑った。

 なんの前触れもなく、ミカポンと麻耶がまとめて串刺しにされてしまった。


「あ……」

 何もできなかった……。


 ミカポンと麻耶が渦巻のような槍で繋がっている。


 ミカポンの胸を貫いた槍が麻耶の腹を貫通し、背中から槍の先端が数十センチ飛び出している。

 まるでスローモーションのように2人は宙に浮いて、ゆっくり後方に運ばれた。


『ドサッ』 

 連なったままの状態で吹っ飛ばされ、地面に落ちる2人。

 駆け寄って声を掛ける。

「おい! 大丈夫か!?」


 が、大丈夫でないことは明白だった。顔面蒼白の麻耶。ミカポンには生気が無い。

「嘘だろ!? 転移者だろ! 目を開けろよ!」


 ミカポンの輪郭が薄れ始める。

「み、ミィ……いたぁい……ピョン」

 摩耶も同様にフェード・アウトし始めている。

「ミカ……ミカ……」

 摩耶はミカポンに声をかけようとするがその声は酷くかすれている。


 ミカポンが俺の顔を見てニッと笑う。けど、口の端からこぼれる吐血が痛々しい。

「オレ君……エッチ……できなかったね……ミィ」


 摩耶は最後の力を振り絞って手を伸ばし、後ろからミカポンに触れようとする。

「ミカ……ごめん……守れなくて……ゴメン」


 フェード・アウトしていく2人。


「イヤぁあああ!」と、ビッチが絶叫する。

「プニィ……」と、涙ぐむミルクが伸ばした手が虚しく宙で行き場を失くした。

 師匠が絶望的な表情で頭を抱える。

「そんな、そんな、転移者なのに、どうして?」


 ムサシは「し、信じられん……」と、首を振る。

 デッシュはパニくっている。

「あばばば! 転移者でも死ぬなんて! おっそろしかあ!」

 

 消えていく瞬間に、ミカポンと麻耶は俺の目をじっと見据えた。

 それは、後は任せたわと願いを託すような顔つきに見えた。


 成す術もなく、ミカポンと麻耶の身体が完全に消失した。

 俺達は茫然と彼女達が居た場所から目を離すことができなかった。


 後に残った渦巻状の槍がゴロンと地面に転がる。

 それを見て師匠が目を見開く。

「まさか……これは……ロンギヌスの槍!?」


「え? 何の槍だって?」

「ロンギヌスの槍よ。なんて恐ろしい殺傷能力……」

 転移者ですら一撃で葬る槍。そんなものがあるのか……。


 ムサシが唸る。

「むう……それにしても、どこから飛んできたのか……まるで見えなかったぞ?」

 前方を見回すが槍の出所は見当たらない。


 俺は怒りを抑えながら皆に告げる。

「行くぞ。スニーフを殺す!」


 奴を止めないと、このゲームが終わってしまう。

 そうなってしまうことは避けたい。

 もし、ミカポン達の意識が現実世界に戻ることが出来なかった場合、行き場所がなくなってしまう。

 せめて、ダークのように、この世界で転生できるなら望みはある。


 その時、デッシュが「左でしゅ!」と、叫んだ。

「なんだって?」と振り返ろうとしたら、ムサシに「危ない!」と腕を引かれた。

 俺の直ぐ左側で何か過った。

 続いて、『ズムッ!』と地面に棒状のものが刺さる。

「な!? これは!」


 渦巻状の槍……ロンギヌスの槍だ!

 形が殆ど同じに見える。ということは、ミカポンと麻耶を貫いたものと同じか?


 師匠が驚愕する。

「また!? ロンギヌスの槍が2本?」

 ミカポン達が消失した場所には最初の槍が落ちている。

 師匠が焦る。

「1本じゃないのかも! まずいわ!」

 転移者を一撃で殺す槍が複数? しかもどこから飛んできたか分からない。


「危ないでしゅ!」

 デッシュが両手でビッチのお尻にタッチする。

「イヤン!」

 ビッチが前に飛び退く。

 と、そこに斜め上から『ズムッ!』と、槍が降ってきた。


「モウ! ドコ触ってるのヨ! 変態小僧!」

 ビッチは文句を言うが、直ぐに自分の立っていた箇所に刺さった槍を見て息を飲む。


 師匠が警戒する。

「3本目! まだ来るかも!?」

 けど、デッシュの奴なんで分かったんだ?

「おい、デッシュ! お前、槍が見えるのか?」

「あい。はっきり見えるわけじゃないでしゅが、出てくる瞬間は分かりましゅ」


「出てくる瞬間?」

「なんもない空間から出てくるでしゅよ。あ、今度は右でしゅ!」

 それを聞いてダークが『ゲコッ』と、横にステップする。

『ズムッ!』

 ダークが避けた場所に槍が刺さる。

 4本目。これも渦巻き状のロンギヌスの槍だ。


「クソ! どっから飛んでくるんだ? 軌道が見えねえぞ!」

 槍は俺達に当たる寸前にしか察知できない。それもデッシュのスキルでギリギリだ。


「ミルクちゃん! 煙幕を張って!」

 師匠の指示でミルクが「ウィ」と、主砲を放つ。

『ボムボムボム!』

 広場の真ん中あたりで煙幕弾が炸裂して、濃い煙が広がり、視界を遮る。


 ふと、先ほどのミカポンと摩耶の最期が思い出された。

 今更のように胸がきゅんと締め付けられる。


 俺達はうまくやっていると思っていた。転移者同士で協力し合えば無敵だと自負していた。

 それがどうだ? 無敵だという驕りが一瞬で粉々にされてしまった。

 まさか、あんなにあっさり殺られるなんて予想だにしていなかった。

 それだけにショックが大きい……。


 煙が充満する広場を見ながら師匠が言う。

「姿を消してるのかしら? この広場のどこかに潜んでる?」

「ヤダ。見えない敵? じゃあ、ファイガ・ドーンであぶり出すヨ!」

 そう言ってビッチが炎の魔法を放つ。

 広場自体は結構な広さだが、ビッチの広範囲魔法なら十分にカバーできる。

『ドンドンドン!』

 ナパーム弾のように地面のあちこちに巨大な火柱が立ち上がり、周囲を焼き尽くす。


 だが、なんの変化も無い。広場は炎と煙に支配されているが、何かが動く気配はない。

 ビッチが首を捻る。

「アラ? そんじゃ、とびっきりメテオ!」


 空が真っ赤に焼けて、おびただしい隕石が降り注ぐ。

『ドガドガドガン!』

 爆発音の狂騒曲が奏でられ、灼けた隕石群の落下で広場が穴ぼこだらけになった。


 それでも敵の反応は無い。いくら何でもノーダーメージは無いはずだ。

 それに姿を隠していても煙の動きで何か尻尾を出すはず……。


「おかしいぞ? 姿を消してるにしても手応えがまるでねえ!」

 与ダメージの表示も出現しない。

 そこで、ムサシが4本の槍を観察して気付く。

「この角度……建物の向こうからではないか?」


 正面には平べったい寺のような建物があった。

 姿の見えない敵は広場に居るとばかり思っていた。

 それは盲点だった! 

 ということは、敵は建物越えで放物線を描くように槍を投げてくるのだ。


 となると、槍は結構な距離を飛んでくるはず。なのになぜ認知できない?

「師匠、敵は槍の軌道を見えなくする技を使ってるんじゃないか?」

 師匠が考え込む仕草をみせる。

「見えなくする……幻術系とか目くらましとか?」


 そこでデッシュが「よし! 分かったでしゅ!」と、ポンと手を打つ。

「なんだよ。お前のみたいに変態チックな術なんじゃねえのか?」

「違うでしゅ! ワープさせてるでしゅよ!」

「ワープ? どういうことだ?」


 ワープって流星アキラのSFゲームじゃあるまいし。

 だが、デッシュは自説を曲げない。

「ワープでしゅって! あっちの方で投げた槍をワープさせて攻撃してくるんでしゅよ」


 ようやくデッシュの言っている意味が分かった。

 敵は建物の向こうで槍を投げた瞬間にそれをワープさせて、俺達に当たるギリギリの場所に運んでいるのだ。


「分かった。だったら俺達が建物の向こうに突撃する。デッシュはここでワープ攻撃を見切ってくれ!」

「あばばば! ここに居たら危ないでしゅ!」

「だったら俺と来るか? どんな敵か分からんが強烈な奴かもしれねえぞ?」

「あ、じゃあ、いいでしゅ。ボクチン、ここでお留守番するでしゅ」


 そこで師匠が即興の作戦を提案する。

「二手に分かれましょう! 私はここで囮になるわ」

 ムサシも囮になることを申し出る。

「ならば、拙者もここに残る。お主達はその隙に建物の裏に回り込め」


 反射神経の良い師匠とムサシがここで敵を引き付け、デッシュがそれをサポートする。

 その間に俺とビッチ、ミルクとダークが建物の向こう側に特攻する作戦だ。

「俺とビッチは建物の左側から裏へ向かう。ミルクはダークと右から進め」


 念のために煙幕を追加して、俺姿を隠しながら俺達はダッシュした。


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