91 召喚獣対策
分担を決めるより前にムサシがオーディンに突っかかっていく。
ムサシは目にもとまらぬ速さで真っすぐ突っ込む!
と見せかけてフェイント気味に横ステップで方向を変え、馬の前足に切りつけた。
オーディンの乗る馬は前足を上げて蹴りで応戦する。
『キン! キン! ガキン!』
ムサシは連続バックステップで元の位置に帰ってくる。
「うむぅ……かなり硬いぞ」
与ダメージの表示は『120』『214』『87』
今度は俺も参戦する。ムサシが左から突進、俺が右から神速会心を狙う。
先行したムサシが馬の足に斬撃を浴びせる。
続いて俺が溜めを利用しての……神速!
瞬間移動のように馬の前足とすれ違う。
ムサシが注意を引き付けてくれたおかけで、すべての斬撃をすんなり叩き込めた。
『ズバズバズバッ!』
俺が通過したあとから斬撃の音が追いかけてくる。
与ダメージの表示は『9999』が6つ。
ただ、それが表示の上限なので実際の数値は分からない。
『グウォォォン!』
オーディンが雄たけびをあげてムサシに向き直る。
そして巨大な剣を掲げて力を溜める仕草を見せる。
ムサシが倍返しの構えを取る。
『ゲコガコガ!』
後ろでダークが何か叫んでいる。
次の瞬間、オーディンが剣をダイナミックに振った。
剣の軌道から分離した真っ黒い衝撃波がムサシの頭上を襲う。
それを倍返しで受けようとするムサシ。
そこにダッシュしてきたダークがムサシを突き飛ばす。
『ブヲォウン!』
黒い衝撃波がムサシを掠めて地面にめり込んだ。
それは地割れのように地面を深く切り裂いた。
どこまで地中を抉ったかは分からない。が、その深さは相当なものだと思われた。
ムサシとダーク、そして俺も元の位置にいったん退く。
ダークに突き飛ばされたムサシが困惑する。
「ダーク殿!? 何故?」
『ゲコゲロゲコッガ、ゲロゲロゲー』
デッシュが通訳する。
「カエルしゃんは、今のは即死技なので返せないって言ってるでしゅ!」
ムサシが地割れを見ながら唸る。
「ムゥ。確かに今のは受け切れなかったかもしれぬな」
摩耶が言う。
「オーディンの得意技はどんな敵でも一撃で即死させる『斬鉄剣』よ」
摩耶は召喚獣の知識があるようだ。
「ミッ! 後ろだピョン! みんな危ないピョン!」
ミカポンの声で皆の視線がその方向に集中する。
振り返るとアルテマ・ウェポンが力を溜めていた。
そしてその上空では『ゴゴゴゴゴ』という不穏な音が集まり、空が赤黒く変色していた。
摩耶が叫ぶ。
「究極アルテマ! まずいわ! 早く回避しないと!」
「師匠、アルテマってなんだ?」
「ビッチちゃんのメテオのもっと凄い版よ! しかも究極だって」
「ゲッ! それはやばいな」
回避といっても周囲には何もない。
「キャンプのじゅちゅ!」
そこでデッシュがキャンプの術を発動した。
とりあえずデッシュのテントに全員で避難する。
だが、テントに9人はさすがに狭い。
俺は初めてこのテントに入ったが、四畳半のスペースしかない。
『ズドドドド!』
テントの外では究極アルテマが発動した音がする。
安全地帯に居るとはいえ不安になる。
摩耶が震えるミカポンの肩を抱きながら尋ねる。
「この技、本当に大丈夫なの?」
「安全地帯でしゅよ。この中はこのゲームの物理法則から隔離されてましゅ」
地味で格好悪い技だが、それはそれで凄い性能だ。
とはいえ、隠れているだけではらちが明かない。
「参ったな。ずっとここに引き篭もってるわけにもいかねえし」
師匠が言う。
「術が切れるまでの一時しのぎだわ」
さて、敵が上位クラスのガチな召喚獣となると簡単にはいかない。
摩耶は召喚獣に詳しそうなので聞いてみる。
「召喚獣を倒すにはどれぐらいの火力が要る?」
摩耶が眉間にしわを寄せる。
「召喚獣は本来、一瞬だけ召喚士に力を貸す存在よ。倒すことは想定していないわ」
そこでムサシが疑問を呈する。
「だが、召喚士は召喚獣を集めるために戦うであろう?」
摩耶は首を振る。
「いいえ。あれは倒すんじゃなくて試されてるの。契約する価値があると召喚獣に認めてもらために」
そこで師匠が首を傾げる。
「でもダークさんの館で私達は倒しちゃったわよ?」
『ゲコゲコゲロゲ』
「カエルしゃんは、あれはワイが作った、って言ってるでしゅよ」
「エ? ウソ? そうなの?」と、ビッチが目を丸くする。
「ゲコゲッゲ、ゲロゲロ」
「当たり前でしゅ。瞬殺されるような召喚獣がいてたまるか! このクソブス便秘女が!ってカエルしゃんは言ってましゅ」
ビッチがデッシュの足を『ガツッ!』と、蹴る。
「アンタ、最後のは勝手に付け足したでショ!」
「あばば、ごめんなちい!」
ムサシが唸る。
「むぅ、倒すことが前提ではないとすると、どうやって排除するか……」
「まさか無敵……じゃないわよね?」
不安そうな師匠の問いにムサシが答える。
「分からぬ。多少なりともダメージの表示が出ているということは、無敵ではないと考えたいが……」
そこでガラクタ谷の魔神を思い出した。1000万のHPと驚異的な回復力。
一撃の火力を限界まで上げることで何とか倒すことはできたが……。
「師匠、オーディンとアルテマ・ウェポンのHPは幾らなんだ?」
「さっき摩耶さんが言ってた通りだと参考にならないけど……20万前後で契約可能みたい。でも、それだと倒したことにはならないと思うわ」
「そっか。まあ、あの魔神みたいにバカみたいな回復がなければ何とかなるかもな」
俺がそう言うとムサシが同意する。
「いかにも。足りない火力は手数で補うしかあるまい」
「よし、決まった! まずは戦力を集中してオーディンを叩くぞ!」
なにか考える仕草をみせていた師匠が口を開く。
「ね、考えてみたんだけど、こんな分担でどうかしら?」
そう言って師匠は作戦を提案した。真剣に師匠の話に耳を傾ける面々。
ムサシが同意する。
「御意。ぶっつけではあるが、修行の成果を見せる機会だ」
「ああ。そうだな。じゃ、やるか!」
そして俺達はテントを出た。
師匠の作戦通り、アルテマ・ウェポンは師匠達が対処する。
まずはミルクの『無限全門一斉射撃』で仰け反らせる。
すかさずデッシュがハーフの術の重ね掛けでサイズを32分の1にする。
それをビッチの魔法で氷漬けにして、アルテマ・ウェポンを封じ込めた。
これでしばらくは足止めできる。
正面のオーディンに対しては俺とムサシが波状攻撃で時間稼ぎをする。
摩耶は正確なスナイプでオーディンの攻撃をキャンセルさせる。
その間にダークが極溜めで力を溜める。
会心連撃の手は緩めずにダークの準備が整うのを待つ。
「ダーク! まだか!?」
オーディンの馬は6本の足で蹴りと掻き込む動作で俺とムサシの斬撃に抵抗する。
これが結構、厄介で、避けながらの攻撃では手数が稼げない。
『ゲコッ!』
ダークの準備が出来た! それを受けてムサシがポジションを下げる。
俺も角度を調整するべくムサシが見える位置に移動する。
そこでオーディンが剣を振り上げた。
師匠が叫ぶ。
「ミカポンさん、今!?」
「ミッ!」
ミカポンお得意の『盗む』でオーディンの手から『ポフン!』と剣が消失した。
オーディンの攻撃がスカる。
『ズシン』「ふぎっ」
ミカポンの近くで盗まれたオーディンの剣が落下する。建築資材のような大きさだ。
誰か巻き込まれたような気もするが……。
『ゲロッ!』
ダークがダッシュしてムサシに溜め斬りを浴びせる。
すかさずムサシが「倍々の倍の倍返し!」と角度を変えて跳ね返す。
ムサシの放った衝撃波が俺に向かってくる。
俺はそれを倍返しの要領で受け止める。
「うぐっ……倍々の倍々の倍返し!」
16倍になったダークの溜め斬りをさらに32倍にして返す!
しかも会心の倍率も乗っているはずだ。
『ズアッシュ!』
俺の放った衝撃波がオーディンを馬ごと縦にブチ裂いた!
オーディンの動きが止まる。そして切断箇所がカッと光を放つ。
忘れてた。魔剣アスタロトが貯めていたギガフレアの効果も入っていたんだ。
『グゥヲォォォォン!』
オーディンは耳をつんざくような絶叫を残してフェード・アウトした。
その姿が消えてもなお『9999』の与ダメージ表示が慌ただしくフラッシュしている。
「やった! うまくいったぞ」
だが、師匠の指示が飛ぶ。
「まだよ! もう一体、残ってるわ!」
そうだった。アルテマ・ウェポンが残ってた。
ダークとムサシはもう動いている。氷漬けになったアルテマ・ウェポンに向かって走る2人。
急いで俺もポジションを取りに行く。
氷漬けにされたアルテマ・ウェポンが高熱を発して抵抗している。
ビッチが氷を追加して抑え込んではいるが、そこでデッシュの技が切れた。
『バキバキバキッ!』
氷山が割れて凄まじい水蒸気が立ち上る。
元の大きさに戻ったのだ。
『ゲロッ!』
ダークが2発目の溜め斬りをムサシに浴びせる。
「倍々の倍の倍返し!」とムサシが衝撃波を俺に向けて放つ。
それを受け止めての……。
「倍々の倍々の倍返し!」
氷を割って水蒸気に包まれたアルテマ・ウェポンに衝撃波をお見舞いする。
『ズザァシュ!』
斜めに切り裂くように衝撃波がアルテマ・ウェポンのボディを貫いた!
腕にズシンときた重みとダメージで俺の体勢が左に傾いた分、斜めに剣を振り切ったせいだ。
だが、命中はさせた。
『ガァヲォォォォン!』
アルテマ・ウェポンは凄まじい咆哮を絞り出し、斜めに分離しながら消滅した。
その余韻としてマックスダメージが点滅し続ける。
「ふう……うまくいったな、師匠」
「ええ。ダークさんの極溜めが連発で出せるのを思い出したの」
ムサシが刀を鞘に納めながら頷く。
「師匠殿。見事な采配、あっぱれであった」
『ゲコッゲ』と、ダークも満足そうだ。
皆の力を合わせて強力な召喚獣を倒すことが出来た。
修行の成果も確認することが出来たし、段々、コンビネーションが向上しているという手応えがあった。
「ミッ♪ オレ君、さいこー!」
どさくさに紛れてミカポンが抱き着いて来ようとするが、ビッチとミルクがしっかりガードする。
摩耶も汗を拭うような仕草をしながら喜ぶ。
「良い連携だったね。転移者が力を合わせると召喚獣すら倒せるんだね」
そういえばデッシュだけが輪に入ってこない。
どうしたんだろうと思って周囲を見回すと、地面にうつぶせになっているデッシュを発見した。
「おい、デッシュ。お前、なにやってんだ?」
地面に這いつくばったままデッシュが文句を言う。
「イカレポンチのミカポンのせいでしゅ……」
ああ、なるほど。デッシュはミカポンが盗んだオーディンの剣の下敷きになってたのか。
「てか、お前、いつも食らってんな。ちょっとは避けろよ」
ビッチが意地悪そうに言う。
「無理だヨ。だって鈍いンだもん。運動神経がゼロどころかマイナスなんだヨ」
「ぎぎぎ……くやしいでしゅ……」
顔面を泥だらけにしながらデッシュが立ち上がる。
「フィィ」と、ミルクがデッシュの服の汚れを払ってやる。
「ミルクひゃん。ミルクひゃんだけはボクチンの味方でしゅ!」
「ムポゥ」
それを聞いてビッチが笑う。
「キャハハ! 『汚いのは顔だけにしとけ』ってミルクちゃん酷すぎぃ」
「むぎぎっ! みんな酷いでしゅよ!」
そんな余裕が生まれた時だった。
前方に『ゴゴゴゴゴ』と不穏な動き。それに併せて辺りが急に暗くなった。
摩耶が顔を顰める。
「何? これ?」
師匠が前方に目を移しながら言う。
「何か来るの?」
『ゴゴゴゴゴ』と、飛行機のエンジン音のような音が徐々に大きくなっていく。
師匠が顔を上げる。
「上だわ! 見て!」
数十メートルの高さに真っ黒い雲のようなものが浮かんでいる。
それは薄っぺらくて円盤のように見えた。
やがてそこから巨大な足が出現した。
ムサシが刀を抜く。
「ぬぬっ! まだ来るか!?」
足が出て、胴体と羽の先が見え、最後に顔が現れた。
摩耶がガタガタ震えだす。
「で、出た……まさかとは思ったけど……」
師匠も顔を強張らせながら唸る。
「うっ……また召喚獣なの」
2人の様子を見て疑問に思った。
「なんだよ。そんなに凄い奴なのかよ」
すると摩耶と師匠が同時にその名を口にした。
「バハムートよ!」




