90 決戦の地
セントラルは訪れたことがなかった町なので、最も近い町までファスト・トラベルで飛んで、飛竜を調達した。
二人乗りの飛竜5頭でセントラルまで全速で飛ぶ。
夜景を楽しむ余裕などは無い。俺に同乗した師匠も言葉はない。
風を切りながらこれからの戦いに各々思いを馳せる。
セントラルの町までは30分とかからず到着した。
だが、町には降りずにそのまま北に向かう。
問題の箇所、すなわちNPC達が集まっている場所は、セントラルの少し北にあるという。
途中、高度を下げて町の上空を通り過ぎた。
町は明かりが少なめで人の気配が殆どなかった。
NPCが居なくなった町は死んでいた。まるで人類が滅亡したあとの廃墟のようにも見える。
セントラルの町を過ぎて北に向かうと、目的の場所はすぐに見つかった。
「師匠! あれじゃねえか?」
進行方向の少し先で半球体の発光体が夜の大地にポツンと佇んでいる。
色は薄紫。それは夜にヘリコプターから撮影されたドーム球場のように見えた。
大きい。小さな町ならすっぽり収まってしまいそうなサイズだ。
半球体の下部から触手のようなものが無数に出ていてウネウネ動いている。
それはまるで夜の海を漂うクラゲを連想させた。
「そうね。あれで間違いないわ」
ギリギリまで飛竜で接近して着地する。
俺達が飛竜を降りている間にも、その横をNPC達が夢遊病者のように通り過ぎて行った。
そして、彼等は紫の発光体に吸い寄せられ、光の中に消えていった。
そのあとを追って、俺達も迷わず光の中に飛び込む。
最初に目に飛び込んできたのは、まっ平らなスペースだった。
それは、廃校になった学校の夕暮れ時のグランドを連想させた。
外は夜なのにドームの中は夕方のように明るい。しかもその光はオレンジでもピンクでもない。
紫色のそれは見るものに不穏な空気を感じさせる。
ムサシが周囲を警戒しながら首を捻る。
「妙だな。NPC達はどこに行った?」
摩耶も首を傾げる。
「確かに。どこかに消えた?」
振り返ると俺達の後から来たNPCの3人組がフラフラとこっちに向かってきていた。
師匠がそれを観察しながら言う。
「待って。あのNPC、様子が変だわ」
3人組のNPCはゾンビのようにゆっくり歩く。そしてよく見ると身体の輪郭が崩れ始めている。
「ミ? なんか溶けてない?」
「気持ち悪いでしゅねぇ」
俺達が見守る中、3人組はゲーム・オーバーになったキャラのように薄っすらと透けて消失した。
「あばば、消えちゃったでしゅよ! な、なんででしゅかね!?」
師匠が首を振る。
「分からないわ。まさか、この変な光のせい?」
「いや。それなら俺達もタダじゃすまないだろ」
ムサシは紫色の空を見上げる。
「この光、NPCだけに作用するのかもしれぬ」
その時、前方から何かが飛んでくるのが見えた。
ビッチがそれを凝視する。
「アレレ? カラスが飛んでくるヨ?」
摩耶がすぐにそれを否定する。
「違う! 飛行系モンスターよ!」
遠距離スナイプのスキルを持つ狩人の摩耶には遠くが良く見えるようだ。
俺達の侵入に気付いたか?
「早速、お出ましか。皆、迎え撃つぞ!」
敵の黒い飛行隊は、俺達の左側と右側からそれぞれ回り込んでくる部隊と正面から迫ってくる部隊の3手に分かれた。
師匠とビッチが正面からの部隊に対応する。
師匠が敵の分析を行う。
「あれはガーゴイルだわ! しかも歴戦クラス。どれも傷だらけだわ」
「ネ。魔法は何がいい?」
「弱点属性はバラバラね。いいわ。私が言った属性の魔法をお願い!」
師匠は弱点分析のスキルを使ってビッチに指示を出す。
「左から、火、雷、水、水!」
「アイヨ! ホイ、ホイ、ホホーイ」
ビッチは呪文なしのノーモーションで魔法を発動させる。
ファイア、サンダー、ウォーターの魔法がガーゴイルに命中する。
「次よ! 同じく左から氷、火、水、土!」
「アイヨ! ホイホイ、ホーイ、ホイ」
ビッチは軽く魔法を繰り出す。普通、属性が真逆の魔法を繋げて連続で出すのは難しいはずだ。
しかし、ぶっ壊れの魔法スキルを持つビッチには造作もない芸当だ。
「まだ来るわ! 風、火、氷、水、火!」
「アイヨ♪ ホイホイ、ホホイのホイ!」
なんだかリズムゲームをやっているみたいにビッチはノリノリだ。
魔法を食らったガーゴイルは、ほぼ即死状態で墜落しながら消えていく。
生き残ったものは師匠がきっちり止めを刺す。
なので、敵は俺達に接近することすらできない。
右側からの敵は摩耶、ダーク、ムサシが応戦する。
ダークがムサシに向けて放った『極溜め』の攻撃をムサシが『倍返し』で衝撃波に変換してガーゴイルの群れにぶつける。
ダークの溜め攻撃はエネルギーが持続する間は何度でも放つことができるので、ムサシは連続で衝撃破を撃つことができる。
そして仕留めそこなったガーゴイルには摩耶の『絶対貫通』のスナイプが炸裂する。
この距離ならミカポンのマーキングが無くても正確に敵の頭を撃ち抜くことができる。
左側から来る敵は俺とミルクで迎撃だ。
「ミルク! ガンガン撃ちまくれ!」
「ウィ!」
ミルクのスキルは『無限砲撃』だ。どんなに打ちまくっても弾が切れることはない。
『ズドドドド!』『ガガガガガガ!』
対空砲火とガトリングが火を吹く!
ミルクの砲撃を避けて下降してきたガーゴイルは俺が引き受ける。
「会心連撃!」
『ズバズバズバ!』
弱点属性なんて関係ない。
敵の防御力をガン無視した会心の前では、歴戦ガーゴイルといえども敵ではない。
『9999』の与ダメージを見るまでもなく、ガーゴイルを次々に瞬殺していく。
何体ぐらい倒しただろうか? 俺達のスキルで何十体というガーゴイル軍団を圧倒した。
正面の敵に対応していた師匠が叫ぶ。
「アーク・ドラゴンよ! 大きいわ!」
左から来るガーゴイルは殆ど片付いたので残りはミルクに任せる。
そして師匠に加勢する。
「師匠! 任せろ!」
四つ足で紫色の巨大なドラゴンがノッシノッシと近づいてくる。
観光バスぐらいの大きさはあるが、頭の位置が低い。
「気を付けて! アーク・ドラゴンの弱点属性は……」
「そんなの関係ねえ……極溜め……神速!」
ダーク直伝の極溜めを使った神速会心でアーク・ドラゴンに突っ込む。
『ブンッ!』
超加速でドラゴンの顔面に接近、すれ違うように頭を飛び越えて背中に乗る。
『ズバズバズバ』×3
遅れて音が生じる。続いてドラゴンの断末魔を聞く。
どれぐらいの体力があったのか知らないが、瞬殺だ。
「神速の手数が増えてるな。これも鎧の効果か」
師匠達が作ってくれたこの鎧のおかげで素早さが1.35倍になっているようだ。
右側ではガーゴイルを殲滅したダーク達がゴースト騎士の大群と交戦している。
敵の数は100体近く。
だが、地上戦、それも接近戦でムサシヤダークが苦戦するはずもなく、2人は気持ち良いぐらいにザクザク敵を切り捨てていく。
ムサシの動きは剣技を極めた侍のそれで、ベタな時代劇の殺陣を早送りで見ているようだ。
ダークも負けていない。カエルなので動きがコミカルに見えてしまうが、ピョコンと跳ねては一撃で敵に致命傷を与え、敵の攻撃をピョコンと避けてはカウンターの斬撃を見舞う。
摩耶の援護射撃も的確だ。百発百中でムサシとダークの斬撃が届かない敵を射抜いていく。
「息がぴったりじゃねえか。あいつ等」
ところが、感心している場合ではなかった。
ミルクに任せていた左方面から新手の敵が集団で現われたからだ。
30体以上のギガンテスがミルクに迫る。
ミルクは全門発射で応戦する。だが、足止めをするのが精一杯で、さらにその後方からはシルバーデビルの集団が第二波として向かってくる。
まずい! 俺は魔剣アスタロトを翳してビッチを呼んだ。
「ビッチ! ギガフレアをくれ!」
「エ? いいの?」
「いいから! この剣を試してみる!」
「どうなっても知らないヨ! じゃあ、ギガフレア!」
ビッチが俺に向かってギガフレアをぶっ放した。
強烈な光が渦となって迫ってくる。剣を前に出して受けようとするが……。
「ぐえっ! あ、熱っ!」
目を開けていられない。相変わらず強烈な威力。炎のレベルが桁違いだ。
かなりのダメージを食らいながらも、ふと剣を持つ手の周りの温度が低いことに気付く。
それもそのはず、魔剣アスタロトは猛烈な勢いでギガフレアのエネルギーを吸っていた。
剣がまるで喜びに打ち震えるように振動する。
「うおっ! なんか持ってると痺れてくるな」
ギガフレアが去った後、魔剣は落ち着きを取り戻した。
その代わりに、常時、刃を覆っていた薄紫のオーラの色が濃くなり禍々《まがまが》しさが増した。
どうやらかなりのエネルギーを吸収したらしい。
PPMに貰ったこの魔剣は、幾らでも魔法エネルギーをチャージできるという。
どうやらそれは本当のようだ。
「行くぞ!」
ミルクの援護に向かう。
「神速会心!」
ギガンテス軍団の真ん中に一直線で切り込む。
そして会心連撃!
驚いたことに一振りの射程が長い。
しかも斬った箇所からギガフレアに似た光が生じて断面を焦がす。
そのおかげでギガンテスが豆腐のように脆い。
まるで豆腐を斧で切るみたいなオーバー・キルだ。
続いてはシルバーデビル軍団だ。
素早い動きと引っかき攻撃が厄介だが、爪を食らう寸前、カウンターで会心を当てる。
さらに剣を水平に振って、広範囲にギガフレアを纏った斬撃で薙ぎ払う。
チラリと師匠達の方を見るが、師匠とビッチは正面から来るデーモン軍団と交戦している。
ダーク達はミノタウロス軍団と乱戦を繰り広げている。
「どうなってんだ? モンスターだらけじゃないか」
師匠が叫ぶ。
「もう! キリがないわ。どうなってるの?」
おそらくこれはモンスターの無限湧きだ。
地下ピラミッドで戦った時のように、敵はモンスターを完全コピーで量産しているのだろう。
「まるでモンスターの大運動会だな」
これだけのモンスターを大量生産するほうも大概だが、それを片っ端から撃破してしまう俺達もイカれている。
シルバーデビルをあらかた片付けたところで『ズバーン! バリバリバリッ!』という轟音と共に何かが落ちてきた! それも近い!
爆風と土埃が前方から押し寄せる。踏ん張らないと飛ばされてしまいそうになる。
「グッ、爆弾でも落っこちてきたか!?」
煙の向こうにシルエットが現れる。
新たな敵? にしては随分とデカい。
馬に乗った鎧の戦士……ただのモンスターではない。ボスクラスか?
その姿を見て師匠が驚愕する。
「しょ、召喚獣!?」
召喚獣だと? どおりで迫力が違う。
よく見ると馬だけでも大型ダンプカーぐらいのサイズだ。しかも足の数が多い。
「足が6本あるぞ?」
師匠が青ざめる。
「まさか、召喚獣オーディン!? そんなのと戦うの!?」
馬のサイズに合わせて鎧の戦士も異形の存在だった。
ただの巨人ではない。鹿のような角を生やした頭は兜と一体化しているように見える。
上半身が異様に発達していて、ヨロイの一部なのか身体の棘なのか分からないが、肩や肘に鋭い突起物を備えている。
けど、召喚獣とはダークの館で戦ったことがあったように記憶してる。
あの時は、イフリートとシヴァをビッチが魔法で瞬殺したんじゃなかったっけ?
「師匠、そんなに警戒しなくても、ビッチの魔法で一撃じゃね?」
「いいえ。レベルが違いすぎるわ。これは本物の召喚獣よ。それも即死攻撃を得意とする悪夢のような強さの……」
『ゲコゲコゲ! ゲロゲコゲロ!』
「ダークしゃんが、油断しゅるな、俺が使っていたのは召喚獣の真似事に過ぎないと言ってるでしゅ」
「マジかよ! 普通のモンスターじゃ俺達を止められないから、こんなのを出してきやがったな!」
と、その時、背後で『ドシーン! グゴゴゴ!』と大きな音がした。
振り返ると地面に出来た黒い渦から何かがせりあがってくる。
これも大きい!
銀色の物体が全容を現す。
4本のぶっとい足、金属が荒ぶったような外形はエイリアンの親玉みたいだ。
師匠が焦りだす。
「う、嘘でしょ……これってまさか……アルテマ・ウェポン!」
モンスター博士の師匠が言うのだからそういう名前のモンスターなのだろう。
「師匠、ひょっとして、これも召喚獣なのか?」
「召喚獣もなにも……別名、究極の獣。召喚獣の中でも最強クラスよ!」
前のオーディン、後ろのアルテマ・ウェポン。
ともに最強クラスの召喚獣。
さて、どう手分けするか……。




