↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/98

88 万全の準備

 スニーフを倒してシンギュラリティを止める。

 奴はラスボスと言っていい。これはある意味、最後の戦いだ。


 ムサシが言う。

「オレの倍返しは重ね掛けができるが、限界は5回だ。つまり2の五乗で32倍」

 掛ける回数を増やすごとに2倍になるということか。

「それ以上は掛けられないのか?」

「命懸けでやれば6回。あるいは7回まで行けるかもしれない。が、その前に身体がバラバラになるだろう」


「重ね掛けって、そんなにキツイのか?」

「やってみれば分かる。行くぞ。時間が無い」

 ムサシの『倍返し』をマスターできれば大幅な火力アップが見込める。

 だが、そう簡単にはいかなさそうだ。


 そこに「ゲロゲーロ」と、カエルの鳴き声がした。

 ビッチがそれに気付く。

「ゲ! カエル!? キモいヨ!」

 見ると赤いカエルがいつの間にか立っていた。


 なんかどこかで見たような……。

「あ! あの時のカエル!」

 ガラクタ谷の登山鉄道で見かけた奴だ。カエル人間というかカエルそのもの!


「ゲロゲッゲ! ゲコゲコ!」

 カエルは一生懸命、俺に何かを訴えようとしている。

「何言ってんだ? こいつ」


 そこでデッシュが通訳を名乗り出る。

「ボクチン、分かるでしゅよ。この人『自分も伝授しゅる』って言ってるでしゅよ」

「伝授? カエルがか? 何を?」


「ゲロゲーロ」

「ほうほう。『極溜《ごくため》め改』だそうでしゅ」

「ゴクタメ……え? そいつ……」


「ゲロゲロゲ? ゲゴゲロ」

「ええとでしゅね。『忘れたのか? ダークマターだ』って……」

「ダ、ダークマターだって!?」


「嘘!?」

「ウソでしょ!? 生きてたノ!?」

 師匠とビッチも驚愕する。


 デッシュがきょとんとする。

「なんでしゅか。みんな、このカエルさんを知ってるんでしゅか?」

「知ってるも何も……お前、生きてたのか!」


 いや、生きていたといっていいのか分からない。

 師匠達には言っていないが、ダークの本体である現実世界の身体は死亡している。

「もしかして、リアルに戻れなくて転移したままってことか!」


 もしかしたら、ダークの実体は現実世界で死亡しているため、意識の戻る場所が無くて、こっちに舞い戻ってきたのかもしれない。


「ゲロゲーロ、ゲロゲコ」

「ほうほう。『お前にやられた後、気が付いたらカエルになってた』でしゅって」

「マジかよ……死んでも転移したままなのかよ」


 オッサンが顔を強張らせながら言う。

「いやはや……ダーク殿……そ、それは良かったですな」

 オッサンはダークの本体が死亡していることを知っているので、ダークの意識は消滅してしまったと推測していた。

 それなのにダークが別なキャラに転移していたので驚いているのだ。


「ゲコゲコガ!」

「しょうでしゅよ! 『もたもたしてる場合じゃない』でしゅって」

 確かにダークの言う通りだ。今は無駄な時間がもったいない。


 ムサシが俺の肩に手を置いて頷く。

「うむ。タイムリミットは1週間。倍返しを5日、彼の技を2日でマスターしてもらうぞ」

「ああ。やるっきゃねえ」

「過酷な修行になる。覚悟しろ」

 ムサシに続いて「ゲロゲーロ」と、ダークも神妙に頷く。


 そこで師匠が提案する。

「そっちが修行している間に、私達はオレ君用の最強防具を作るわ」

 おお! それはありがたい。


「間に合うカナ? あんまり時間が無いヨ? それにオレ君抜きで戦わないといけないんだよネ?」

 そう言って首を傾げるビッチに師匠がはっぱをかける。

「できるわよ! 私達だけでも! ファスト・トラベルと飛竜を駆使して回れば何とかなるはず。いいえ、何とかするのよ!」

 ビッチとミルクが力強く頷く。

「ウン! がんばろー!」

「ウィィ!」


 俺が居なくても師匠達なら大丈夫。

 どんな強力モンスターでもきっと何とかしてくれるはずだ。


「ミッ♪ そういうことならミカポンも手伝うのだ」

 師匠が声の主を見て驚く。

「ミカポン……さん?」

 出来損ないのリオのカーニバルみたいなド派手衣装のミカポン参上に皆が口をあんぐり。


 その隣でミカポンの保護者である摩耶が腕組みしている。

「話は聞かせてもらった。素材集めなら手分けした方が効率がいい」

 師匠が気を取り直してメモを渡す。

「そ、そうね。じゃあ、これをお願い」

 

 摩耶がそれに目を通しながら唸る。

「うーん、これは……とんでもないレア素材ばかりだね」

 師匠が頷く。

「最強の防具を作るには必要なのよ」


 摩耶は肩を竦めながら答える。

「やれやれ。簡単にはいかなさそうだね。けど、承知した」

 摩耶の承諾に師匠が握手を求める。

「ありがとう! 助かるわ。お互いに頑張りましょ!」

「ああ。全力を尽くす」


「ミッ♪ ミカポンも愛しいオレ君のために頑張るのだ」

 だが、師匠はクルリと背を向けてミカポンをスルーする。

 やっぱり、ミカポンのことは好きではないらしい。

「フンだ! ミィ~♪」

 それにまったくめげないのがミカポンの長所ではある。


 二手に分かれて最強防具を作るための素材集めを行う女性陣。

 そこでデッシュが恐る恐る尋ねる。

「あのでしゅね。ボクチンは待機でしゅか? 待機でしゅよね?」

 ビッチがほとほと呆れたといった風に言う。

「ハ? アンタねぇ……この期に及んでナニ?」


 そこで師匠命令が発令される。

「師匠命令よ。お供しなさいっ!」

「あばばば、よ、よろこんで、でしゅ!」


 ダークマターの復活により、奇しくもこの世界に転移したメンバーが勢ぞろいした。

 俺はムサシとダークマターに技を教わる為の修行。

 師匠、ビッチ、ミルク、デッシュの4人組とミカポン、摩耶コンビは二手に分かれて最強防具を作るための素材探しの旅に出る。


 タイムリミットは1週間。

 できる限りの準備をして、必ずスニーフを倒す!


      *      *      *


 修行は過酷を極めた。転移者でなければ500回は死んでいる。


 最初の2日間でダークの『極溜め改』を先に覚えた。

 通訳のデッシュが師匠達に駆り出されてしまったので、身振り手振りでの指導に苦労した。

 『ゲコッ』と『ゲゴッ』の違いなんて分かりっこない。

 肝心な部分は筆記で補ったものの、効率はあまり良くなかった。


 続く5日間で倍返しの習得。

 それも重ね掛けが出来るようになるまでなので、かなりの難易度だった。


 最も効率が良かったのは、極溜めで放った会心連撃をムサシが倍返しして俺が受ける方法だ。

 これが強烈に効く。転移者の俺でさえ何度も死にかけた。

 技を放った後の反動ダメージも大きい。


 自然回復が追い付かないので、合間にエリクサーをがぶ飲みしながら、ぶっ続けで倍返しを繰り出し続けた。


 そのかいあって、倍の倍の倍の倍までは出せるようになった。つまり2の4乗で16倍だ。

 しかし、その先となると要領は同じなので出来そうではあるが、身体への負担が大きい。

 なので使いどころを考えなくてはならないと思った。


 一方、7日目の朝に師匠達が川崎に帰ってきた。

 装備がボロボロになった師匠が肩で息をしながら言う。

「やったわ……なんとか間に合った」


 ビッチも寝起きで全力疾走したみたいな顔で愚痴る。

「モウ、死にそうだヨ。弾丸ツアーなンだモン」

「フニィィ」と、ミルクは半分溶けたような顔で座り込む。

 しかも直ぐにでも寝てしまいそうな具合で頭を揺れせている。


 デッシュに至ってはミイラみたいにヘロヘロになっている。

「人使いが荒すぎでしゅよ……師匠シャンは鬼でしゅ。悪魔でしゅ、貧乳でしゅ」

 デッシュの暴言に対して師匠が突っ込みを入れることが出来ない。

 それだけ疲労しているようだ。


 ミカポンと摩耶も疲労困憊の様子。

「ミィ……ミカポンはヘドロのように眠りたいのだ……」

「流石に限界、だわ」

 彼女達のその様子からは、相当無理をしたことが窺《うかが》い知れる。


 しかし、みんなのおかげで師匠が考えていた防具の素材は揃ったようだ。


 師匠が倒れそうになりながら言う。

「素材は防具屋に全部納入したから、完成までちょっと休ませてもらうわ……」


      *      *      *


 夜になって出発の準備は整った。


 師匠達が力を合わせて作ってくれた防具は着心地が良く、驚くほど軽かった。

 白と赤を基調とした見かけは格好が良くて、すぐに気に入った。

 着てみた感じも凄くしっくりくる。

「みんな、ありがとう。これ、すごく良いや」


 師匠が目を細める。

「ドラゴン・ブレーブ・エアよ。選りすぐりのドラゴン素材で出来たウルトラレアなのよ」

 ビッチとミルクも笑顔でパチパチ拍手する。


「ミッ♪ ダーリン、超、格好いい♪」

 ミカポンがどさくさに紛れて抱き着いて来ようとしたが、ビッチとミルクがガードした。


 師匠が防具の説明を続ける。

「この鎧はね。物理防御がなんと23500! 魔法防御は18700もあるの」

 なんか数字を聞く限りは凄いことなんだろう。

 が、今まで防御力なんて気にしてなかったからピンと来ない。

「ん~ イマイチ数字を言われても分かんねえなぁ」


「は? なに言ってんのよ。あなたがさっきまで着てた防具、防御力は幾らかわかってる?」

「あれ? いくつだっけな?」

「150よ! 150! 比べ物にならないの!」

「ああ。ごめんごめん。そう考えると凄いわ、これ」


 師匠が頬を膨らましながら言う。

「もう! それに、これの特殊効果はね、素早さを1.35倍にするてことなの! 凄くない?」

「へえ、それは良いな! 神速会心がさらに捗るな」

「でしょ? 他の追加効果もあるけど、それがあるからこの防具を選んだの」

「お! 師匠、分かってんじゃん!」

 俺が褒めると師匠が頬を赤らめた。


 いいね、最終決戦らしくなってきた。


 そこに川崎国の国王であるPPMがメロスとライオン丸を連れて訪問してきた。


 PPMは神妙な顔つきでメロスに持ってこさせた剣を差し出す。

「いよいよだね。僕にはこんなことしかできないけど、受け取ってくれ」

「うん? なんだ? その剣は」


「魔剣アスタロトだ。四大悪魔のひとつ、アスタロトの名を付した魔法剣だよ」

「なんだか凄そうだな」

 剣を受け取って抜いてみる。


 見た感じは普通の銀の剣のようだが、持っていると背筋がぞっとした。

 模様の代わりに、紫色の禍々しいオーラが薄っすらと剣を覆っている。


 PPMが言う。

「その剣はチャージできる魔法エネルギーが底なしだ」

「え!? マジかよ!」

 PPMはビッチに声をかける。

「ビッチちゃんとの相性は抜群だと思うよ」

 なるほど。ビッチのぶっ壊れ魔法を目一杯、吸収できるとなると心強い。


「こいつはありがてえ。これで火力がさらに期待できるな」

「ただ、注意してくれよ。エネルギーが大きければ大きいほど、使用者への負荷もかかるから。ここぞという時にチャージするよう心掛けてくれ」

「分かった。ありがとな。是非、使わせてもらうよ」


 これで益々、士気が上がった。なんだかいけそうな気がしてきた。

 ところがそこに思わぬ人物が現れた。

 運営の男だ。

 オッサンとルサがアクセスしてきたと思いきや、運営の男がついてきたのだ。


 久しぶりの運営の登場に俺達は警戒する。

「なんだよ、こんな時に。そっちも大変なんじゃないのか?」

 俺の言葉に運営が険しい顔で頷く。

「その通りだ。知っての通り、このゲームは危機的な状況にある」


 師匠が怒ったように言う。

「分かってるわよ。だから何とかしようとしてるんじゃない」

 だが、運営の男は表情を変えない。

「それを止めに来た。セントラル地区に行くのはよせ! 危険すぎる」


 なにを今さら……。

「なに言ってんだ。そんなことは承知の上だ。てか、俺達がやらなきゃ、オーバーフローでこのゲームが駄目になっちまうかもしれないんだろ?」

 俺の言い分を聞いてから運営の男は冷静に答える。

「大量データの密集。それが問題なんだ。君達の自我が吹っ飛んでしまうかもしれない」


 自我だと!? 自我がどうしたって?

 俺は運営の隣で神妙な顔をしているオッサンに向かって言った。

「オッサン! オッサンも何か言ってやれよ!」


 するとオッサンが苦し気な表情で言葉を振り絞る。

「わたくしも……反対でございます」


「ちょっと待てよ! 昨日まではオッサンも俺の修行を応援してくれてたじゃねえか!」

「はい。ですが、運営の方の話を聞きまして、わたくしも皆さんを行かせるわけにはいかないと考えを改めました」


 運営とオッサンに水を差される形で、俺達の作戦に暗雲が立ち込めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。