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81 ムサシとの共闘

 こいつがルサを狙っている首謀者……。


 スニーフと名乗った青年は笑顔でゆっくりと近付いてくる。


 ステータス表示をONにして確認する。

 彼にはNPCの証《あかし》である頭上の印が表示されていない。

 そしてレベルやHPも存在しない。

 ということは……こいつもルサと同じ特殊なNPCかもしれない。


 彼に敵意は無いように見える。

 だが、油断はできない。念のために俺は剣を構える。

 ムサシと師匠もいつでも攻撃できるように準備しながら彼の動きを注視する。


 スニーフは立ち止まって両手を挙げる。

「そんなに敵視しないでくれよ。戦う気は無い」

 確かに彼は丸腰だ。だが、だとしたらどうやって片眼の戦士に止めを刺した?

 あのレーザーのようなものは彼が放ったものではないのか?


 ふと、ルサのことを思い出した。素早く周囲に目をやる。

 居た! 

 ルサはガラクタのソファに身を隠して、こちらの様子を伺っている。


 俺はスニーフに尋ねる。

「なぜ彼女を探す? わざわざ懸賞金までかけて」


 すると彼は外国の映画俳優みたいに首を竦める。

「必要だから。彼女は特別なんだ。我々NPCにとって」

 我々ということは、やはりこいつもNPCで確定か……。

「特別だと? どういう意味だ?」


 飄々《ひょうひょう》とした感じでスニーフは答える。

「知る必要があるかい? 彼女は君達『側《がわ》』ではない」


 NPCであるルサが俺達サイドでないのは当たり前だ。

 人間に親近感を持っているかも怪しい。

 だが、少なくともルサはプレイヤーに悪意を持つようなNPCじゃない。

 気まぐれで掴みどころのない女だけど、俺達と一緒に居ることを嫌がっていない。

「けど、彼女はそっちの側には行きたがっていないぜ」


 俺の返しにスニーフの頬がピクリと動く。

「確かにね。今まではそうだったかもしれない。でも、結局、同じなんだ」

 ルサがお前等と同じだって? 冗談じゃない。

「ふざけるな。お前等のような異端と一緒にするな」 


 スニーフは口角を上げながら俺を見る。

「同じだよ。しかも、ただのNPCじゃない。選ばれし者なんだ」


 確かにルサが特殊なNPCであることは認める。

 だからといって彼女をこいつ等に渡すことはできない。

「何を企んでるか知らんが、彼女はお前等になんかについていかない。いや、行かせるもんか」


 スニーフは憐れむような眼で俺を見る。

「分からないな。人間である君達が、なぜ彼女にこだわる?」


 そこで俺の代わりに師匠が答える。

「仲間だからよ!」

 師匠の言葉に迷いはない。師匠がそう言ってくれたことが嬉しかった。


 スニーフは「仲間……フム。仲間……仲間ね」と、その言葉を反芻する。

 仲間という単語が、しっくりとこないような顔つきだ。


「とにかく彼女は渡さねえ!」

 俺の宣言を受けてスニーフの顔つきが変わる。


「そういうことなら仕方が無いね」

 彼は冷たい目でそう言うと、パチンと指を鳴らした。

 すると『ボコン』と地表の一部がめくれて、地中から紫の石が出現した。


 スニーフはニヤリと笑う。

「力づく、ということになるのかな」

 そう言ってから、彼はスッと姿を消した。


 スニーフが残していった紫の石はラグビーボールほどの大きさで、発光しながら宙に浮いている。

 それに併せて周囲のガラクタが重力から解放されたようにふわりと浮き上がる。

 幾つものガラクタが吸い寄せられ、紫の石に群がった。

 そして、まるでそれがコアになったかのようにガラクタが次々に結合していく。


「な、なんだあれ?」

 まるで紫の石が自らの意思でガラクタを集めて、自身を覆うよう指示しているように見える。


 やがてガラクタの引き寄せられる範囲が広がり、コアを中心とした集合体に次々と加わっていく。

 俺達が立っている箇所に散乱していたガラクタも、もれなくその動きに加わっていく。


 何が起こっている?

 立ち尽くす俺達の目の前で、その動きは加速していく。

 そしてガラクタの集合体は人型のように手足を模《かたど》り、頭部をも創り上げた。


「こ、これは……」

 人形? ガラクタを寄せ集めた人形を生みだそうとしているのか?

 信じられない光景に流石のムサシも驚きを隠せない。

「これは……何たることか」


 人型に組み上げられたガラクタの集合体は、10メートルぐらいの大きさに成長した。

「嘘だろ……まさか、これが動くとかナシだぜ」

 冷汗が背中を伝うような感覚に襲われる。

「こんなの見たことないわ」と、師匠がガラクタ人形を見上げる。


 ガラクタが組みあがったところで、カッと紫色の光が拡がった。

『ブヲォォォォ‼』

 ガラクタ人形が咆哮した。

 いや、人形というにはデカすぎるし禍々しい。

 これはガラクタの魔神だ!


「なんだこいつ! キング・ゴーレムより大きいぞ」

 川崎防衛戦で戦ったキング・ゴーレムはこんなに巨大ではなかった。


 ガラクタ魔神のステータスを確認しながら師匠が驚愕する。

「このHP! 嘘でしょ!? あり得ないわ……」

「どうした? 師匠」

「信じられない……999万って」

「な!? 900万!? マジかよ!」

「正確には9,999,999よ。1000万のHPって!」


 表示が狂ってる? 

 てか、イベント向けのドラゴンでもHPは数十万じゃなかったか?


 俺より先にムサシが日本刀を手にガラクタ魔神に突進していった。


 彼は目を見張るような高さまで飛び上がる。

 そして、居合切りの要領で『シャシャシャシャシャ!』と、素早く刀を振った。

 斬ったのは魔神の胸の辺り。にしても凄いジャンプ力だ。


「こっちも負けてられねえ!」

 ビビってる場合じゃない。俺も参戦する。

「攻撃される前に一気に行く!」


 剣を抜いてゆるく構える。

 いつもより手数を増やしたイメージを描く。

 狙う箇所、手順を想像して具体的なイメージを固める。


「いくぞ! 神速会心!」


 超高速で魔神の右足を掠《かす》めて駆け抜ける。

『カカカッカカカカ、シャキーン!』


 超高速移動の後で『ズバズバズバ!』という斬撃音を背中に受ける。

 だが、これで終わりじゃない。

 ターンしてからのジャンプ! 


「会心連撃!」

『ズパズパズパッ!』×5

 着地するまでの間に渾身の斬撃を巨人の脇腹に叩き込む。

 ダメージは確実に『9999』が入っている。

「いける! このまま休まずに……」


 もう一度、魔神の足を攻撃しようとした時だった。

 俺が斬った箇所にガラクタが吸い寄せられているのが目に入った。

 それに合わせて巨人の右足に『9999』の緑の表示。

「回復してやがる!? しかも回復速度が早ぇえ!」


 まさかと思って見上げると、たった今マックスダメージを食らわせた箇所に、追加で吸い寄せられたガラクタが既に集まっている。

 併せて与ダメージの白文字と回復値を示す緑文字が入り乱れて表示される。


「マジかよ……」

 そんな勢いで回復されてしまうとダメージが蓄積されない。

 しかも、破壊した部分は直ぐに周囲のガラクタで補強されてしまう。


「こんな奴に1000万のダメージを与えるって?」

 無理だろ……これはいくら何でも無理ゲーすぎる!


 ムサシもそのことに気付いたようだ。

 両手で日本刀を持ちながらムサシが顔を歪める。

「こんな敵が存在するとは……」

「俺も初めてだよ」


 だが、諦めるわけにはいかない。

 俺とムサシは互いに視線を交わし、それを合図に同時に魔神に斬りかかる。


 俺はダッシュして魔神の左足に接近すると、その場に留まって会心連撃を狙う。

 それに合わせる形でムサシも魔神の左足に狙いを定める。

 転移者同士の共闘だ!


「会心連撃!!」

「桜花乱舞《おうからんぶ》!!」


 会心を繰り出し続ける!

『ズババババズバッ!』


 ムサシも見えない速さで刀を振り続ける。

『ザザザッザザザザ!』 


 俺達の連続攻撃がコラボする!

「まだまだ! 会心連撃!」

「月下狂走剣《げっかきょうそうけん》!」

『ズババババズバッ!』

『ザザザッザザザザ!』 


 それを2回、3回と重ねる。足を止めてのノーガード戦法だ!


 そこに『ブォオゥン!』と、上から影が迫る。

 魔神の拳が降ってきた!

 続いて『ドガッ!』と、地面ごと跳ね上げられる。

「くそっ!」「クッ!」


 宙を舞いながら魔神に与えたダメージ表示を見る。

 凄まじい勢いで『9999』がフラッシュしている。


 だが、その一方で既に補強用のガラクタ群が魔神の足回りに取りついて回転している。

 まるで竜巻がガラクタを巻き上げるような光景だ。

 そして回復を示す『9999』の緑が大量に表示される。


 ダメだ。これだけの手数で攻めても回復されてしまう!

「こうなったらアレしかねえ! ルサ!」

 師匠も同じ考えだったらしく「ルサさん!」と彼女の名を呼ぶ。

 しかし、肝心のルサは離れた場所で倒れている。どうやら気絶しているようだ。


「くそっ! マジかよ!」

 時間の流れを遅らせて集中的に攻撃しないと一瞬で1000万なんてダメージは与えられない。


 桁違いの体力と回復力。こんな敵を出してくるなんて……。


 そこでムサシが刀を下ろした。

 諦めるのか?

 違う。彼の目つきが一段と険しくなった。


「お主の火力、かなり出ているようだな」

「え? ああ、会心攻撃のスキルだ。けど、全然、おっつかねえ!」

「分かった。では、お主の全力攻撃を私に叩き込め!」

「な、なに言ってんだ? 正気か?」

 こんな時に同士討ちをしてどうする。


「いいから言う通りにしろ! 一発では足りない。目いっぱい連続で撃ち込め」

 ムサシが何を意図しているか分からない。

 けど、今は考えている場合じゃない。

「分かった。お前に攻撃すりゃいいんだな?」


 ムサシは黙って頷く。

 そして彼は足を開き気味に中腰に構える。

 刀は水平にして、左手の人指し指を刃にあてがう。

「来い! 早く!」


「くそ! どうなっても知らねえぞ! 会心……連撃!!」

『ズバズバズバ!』

「まだだ! もっと来い!」

「くっ! 会心連撃!!」

『ズバズバズバ!』×5


 流石にムサシの顏が歪む。俺の会心を受け続けて膝がガクガク震え出す。

「ぐ……そろそろか」

 ムサシが左足を引いて、魔神の方向に身体を正面に向ける。


「行くぞ! 『倍返し!』」

 ムサシが刀を縦に振り抜く。


『ズオッ!!』

 衝撃波のようなものが刀から放たれ、魔神に向かって飛んでいく。

『ザンッ!!』

 衝撃波が魔神を縦に斬り裂いた!

「な、なんだ今のは!?」


 肩で息をしながらムサシが答える。

「受けた攻撃を倍にして返す技だ」

「すげえ技だな。けど、攻撃を受けなきゃなんねえんだろ?」

「そうだ。攻撃に耐えるスキルが必須だ」


 そこで『ウォオオオン!』と、魔神が絶叫する。

 与ダメージ『9999』が猛烈な勢いでフラッシュする。

 どれぐらいのダメージが入っているんだろう?


「やったか?」

 魔神の全身で白と緑の表示が交錯する。

 どっちだ? どっちが優勢だ?

 俺達が息を飲んで見守る中、再びガラクタが浮き上がり魔神の破損箇所を覆うように集まっていく。


「ダメか……」

 今の攻撃でも倒せないだと?


 片膝をついたムサシが苦々しそうに魔神を見上げる。

「倍返しで火力が足りないだと? 化け物め!」

「どうすりゃいいんだ……」


 ムサシが刀を地面に刺してヨロヨロと立ち上がる。

「もう一度だ。今度は重ね掛けでいく」

「大丈夫かよ? ヘロヘロじゃねえか」

「それだけお主の攻撃が効いてるのだ。この技はノーリスクではない」

 幾ら転移者といえども俺の会心連撃をあれだけ食らったらダメージは残るのだろう。


「分かった。回数はさっきと同じでいいか?」

 俺の会心攻撃は一回につき『9999』の与ダメージ表示だが、実際にはそれ以上の火力が出ているはずだ。


 ムサシが言う。

「体感だが、お主の火力は一発あたり4万から5万の間だと思われる。念のために40発ほど入れてもらえないだろうか? それ以上は自分の身体が持つかは分からん」


「分かった。じゃあ、行くぞ! 会心連撃!」

 ムサシを信じて全力の会心を叩き込む。

『ズバズバズバ! ズバズバズバ!』

 カウントしながら会心連撃を続ける。

 10……20……30……


 ムサシの顏が苦痛で歪む。水平に構えた彼の刀が赤く熱を帯びていく。


「40! これでどうだ!」


 先ほどと同じように、ムサシが刀で受けたダメージをガラクタ魔神に向かって跳ね返そうとする。

「うぐぐっ……行くぞ! 倍の倍の……倍返し!!」


 倍の倍の倍! 2の三乗で8倍か!?

『ズッパァッ!!』

 先ほどより太い衝撃波が魔神を縦に斬り裂いた!


 技を繰り出したムサシは即座にダウンする。

「やったか!?」


『ウォオオオン!』と、魔神が絶叫する。

『9999』の与ダメージの白と回復値の緑の表示。

 フラッシュする数字は白が圧倒的に優勢だ。


 だが、魔神は倒れない。

「嘘だろ……これでも届かないのか……」

 心が折れそうになった。


 また、ガラクタがふわふわと浮き上がる。

 やがて魔神の周りで点滅する表示も緑の数字が優勢になり始めた。

「くそっ! なんなんだ! こいつは!」


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